循環器疾患全般にわたり、最新の診療を提供できるよう心がけています。年間入院患者さん1,600人のうち、動脈硬化性疾患、不整脈疾患、心不全、それぞれが3分の1ずつを占めています。循環器内科では、チーム一丸となって良質・安全な医療を提供していきます。
ハートチーム
心臓血管外科と協力してハートチームを組織し、2021年からは重症大動脈弁狭窄症に対するTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)を開始しました。これまで手術加療が難しかった高齢の患者さんや重篤な併存症を持つAS患者さんの治療が可能となりました。2021年からは大動脈瘤ステントグラフト指導医である田崎副部長が赴任し、ハイブリッド手術室を活用した最新のカテーテル治療が提供できるようになりました。
診療の特色
動脈硬化性血管疾患では、虚血性心疾患・末梢動脈疾患のカテーテルを用いた血管内治療を得意としています。救急患者さんの受け入れが多いのも大きな特徴です。救急部と連携し、年間800~900例の緊急性の高い患者さんが救急外来から入院しています。多くの心筋梗塞の患者さんの緊急カテーテル治療を行っています。重篤な患者さんには心臓血管外科と連携し手術を行うなど、個々の患者さんにとって適切な治療法を選択しています。また、血管病の二次予防に、心臓リハビリテーションを積極的に行っています。
不整脈は、専門医である花澤副部長を中心に、年間300例以上のカテーテルアブレーションを施行しています。特に心房細動は高齢化とともに今後も増加が予測されており、3次元マッピングシステムを活用した、質の高い最先端の治療を提供しています。心不全は、基礎心疾患(冠動脈・弁膜・不整脈)に対して適切な介入を行い、薬物療法+リハビリテーションで安定した病態を維持します。
心不全は完治する病態ではないため、地域の先生方と連携しながら代償状態(状態が安定していること)の維持を目標とした診療を継続します。
教育・研究活動
当科では科学的に明らかとなっていない臨床領域に関して、学術活動を通じて適切な診療を追求しています。また、京都大学循環器内科の関連施設として臨床研究にも積極的に参加しています。
当科では後進の育成にも力を入れています。専門修練医や初期研修医の先生方にも、充分な症例数と学びの機会を提供し、診療・カテーテル治療の指導を行うとともに、学会発表など学術活動をサポートしています。
役職 | 部長 |
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卒業年 | 1991(平成3)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 | 医学博士 京都大学医学部臨床教授 東京医療保健大学臨床教授 日本内科学会総合内科専門医 日本循環器学会循環器専門医 日本心血管インターベンション治療学会専門医 日本心臓リハビリテーション学会心臓リハビリテーション指導士 日本経カテーテル心臓弁治療学会経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)指導医 |
役職 | 副部長 |
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卒業年 | 2004(平成16)年 |
専門分野 | 心血管インターベンション、大動脈ステントグラフト、末梢血管疾患 |
資格 | 京都大学医学博士 京都大学医学部非常勤講師 日本内科学会総合内科専門医 日本循環器学会循環器専門医 日本心血管インターベンション治療学会専門医 胸部大動脈ステントグラフト指導医 腹部大動脈ステントグラフト指導医 日本内科学会JMECCインストラクター
日本救急医学会ICLSインストラクター
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役職 | 医長 |
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卒業年 | 2010(平成22)年 |
専門分野 | 虚血性心疾患 大動脈疾患 末梢動脈疾患 |
資格 | 腹部大動脈ステントグラフト施行医 |
役職 | 医長 |
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卒業年 | 2012(平成24)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 | 京都大学医学博士 日本内科学会認定内科医 京都大学大学院医学研究科循環器内科学客員研究員 |
役職 | 医長 |
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卒業年 | 2012(平成24)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 | 日本内科学会認定内科医 日本循環器学会循環器専門医 日本心血管インターベンション治療学会認定医 |
役職 | 医長 |
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卒業年 | 2013(平成25)年 |
専門分野 | 循環器一般 不整脈 |
資格 | 日本内科学会認定内科医 日本循環器学会循環器専門医 |
役職 | 医師 |
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卒業年 | 2017(平成29)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 |
役職 | 医師 |
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卒業年 |
2017(平成29)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 |
役職 | 医師 |
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卒業年 |
2017(平成29)年 |
専門分野 | 虚血性心疾患 大動脈疾患 末梢動脈疾患 |
資格 | 腹部大動脈ステントグラフト施行医 |
役職 | 医師 |
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卒業年 | 2016(平成28)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 |
役職 | 医師 |
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卒業年 | 2020(令和2)年 |
専門分野 | 循環器一般 |
資格 |
役職 | 嘱託 |
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卒業年 | 1998(平成10)年 |
専門分野 | 不整脈 |
資格 | 日本内科学会認定内科医 日本循環器学会循環器専門医 日本不整脈心電学会不整脈専門医 ICD/CRT研修修了証取得者 |
場所 |
本館3階 |
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受付時間 |
新患:8時〜11時30分まで |
区分 | 月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 |
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AB CD |
豊福 | 田﨑 | 辻 | 辰島 | 藤田 |
★1 伊勢田 |
辻 | ★1 伊勢田 |
- | - | |
BCD | 藤田 | 辰島 | 豊福 | 田﨑 | - |
交替制 | - | - | - | - | |
C | 畑村 | 野村 | 松井 | 木村 | 柴森 |
(2023年4月1日~)
※区分
(A:紹介予約 B:当日初診 C:予約再診 D:当日再診)
★1:専門外来
※都合により変更する場合もありますのでご了承ください。
※新患優先
※赤字の名前は女性医師です。
専門外来 | 月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 |
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ペースメーカー外来 (予約制) |
交替制 | - | - | - | - |
不整脈外来 (予約制) |
伊勢田 | - | 伊勢田 | - | - |
末梢血管外来 (血管内治療) (予約制) |
- | 田﨑 | - | - | - |
(2022年12月1日~)
※都合により変更する場合もありますのでご了承ください。
2021年 | ||||||
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入院患者数 | 1,996 | |||||
緊急入院患者数 | 980 | |||||
予定入院患者数 | 1,016 | |||||
冠動脈形成術(PCI) | 491(合計) | |||||
(内)緊急/プライマリPCI | 141 | |||||
(内)待機的PCI | 350 | |||||
末梢動脈形成術(PTA) | 190 | |||||
心臓カテーテル検査(冠動脈造影) | 472 | |||||
FFR検査 | 100 | |||||
下大静脈フィルター挿入 | 7 | |||||
カテーテルアブレーション | 365 | |||||
ペースメーカー(PM) | 117 | |||||
植込み型除細動器(ICD) | 16 | |||||
両室ペーシング(CRT/D) | 12 | |||||
負荷心電図 | 1,803 | |||||
心筋血流シンチ | 112 | |||||
冠動脈CT | 785 | |||||
経胸壁心エコー | 9,318 | |||||
経食道心エコー | 247 | |||||
心臓MRI | 42 | |||||
心臓リハビリテーション | 7,641 |
日本赤十字社和歌山医療センター 循環器内科では、安全で最新の診療を提供できるよう心がけています。
胸が苦しい、動悸がする、息が苦しい、足が腫れるなどが、心臓病を示す兆候です。これらの症状に対して、地域を守る急性期病院として適切に診断し必要な治療を行います。心臓・血管の病気でお困りのことがありましたら、ご相談ください。
循環器疾患は、急な病態の変化もめずらしくありません。その際には、救急部と連携して24時間365日対応しています。急な症状の変化時にも安心して当医療センターを受診ください。
外来受診をするための手続き
かかりつけ医から紹介状をお持ちの患者さんは、予約センターで診察の予約を取ることができます。
予約センターの利用方法は、こちらをご覧ください。
強い胸の痛みなどで緊急を要する場合は、直ちに救急外来を受診してください。
再診の方で、症状が急に悪化した場合などは、予約日以外でも受診いただけます。
(受付時間8:00~11:30)
外来受診の流れ
① 循環器内科初診外来を予約・受診してください。
(不整脈専門外来や末梢血管疾患専門外来の予約も受け付けています)
かかりつけ医をお持ちの方は、紹介状とお薬手帳の提示をお願いします。
② 外来にて、診察ならびに血液検査、心電図、エコー検査を行います。
医師の判断で、診察の前に先に検査を受けていただく場合があります。
③ 受診日当日に検査結果を説明し、患者さんの希望や都合に応じて治療方針を相談・提示しています。
さらに詳しい検査が必要な場合、外来にて追加検査を行ったり、カテーテル検査ならびに治療が必要な場合は、入院を案内することもあります。安静時の心電図にて異常がある場合等、重症な循環器疾患が疑われる場合は早期に入院をお願いする場合があります。
*初診で来院される場合は、外来での検査や診察に時間がかかる場合があります。時間に余裕をもって来院ください。時間に余裕がない場合は、予め外来受付に伝えていただければ、別の日に時間のかかる検査を予定することもできます。
急性期の病態が落ち着いて、定期的な薬物療法で病状が安定した状態となりましたら、地域のかかりつけ医の先生方に投薬や病状の観察など、診療の分担をお願いしています。もちろん、必要な時には随時当医療センターで診療を行い、病院と診療所の二人主治医制で皆様を支えていきます。6~12ヵ月に1回程度、当医療センターにも通院いただき、血液検査や心電図検査、心臓超音波検査にて病状の経過観察を行います。
急に症状が増悪した場合や、検査で異常が見つかった場合は、速やかに再度詳しい検査や治療を行いますので、かかりつけ医の先生に相談のうえ、当医療センターに来院ください。
当医療センターでは、心血管疾患に対するカテーテル治療を行った患者さんの治療記録を、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)や、NCD(National Clinical Database)の症例登録システムに登録する事業に協力しています。
当科では、救急部、心臓血管外科と協力し、心臓血管疾患に対する緊急治療を24時間365日提供しています。また、循環器内科はチーム一丸となって、心臓血管疾患の患者さんへの良質・安全な医療を提供してまいります。心臓救急疾患でお困りの患者さんがおられましたら、いつでもご相談ください。
また、循環器疾患というのは、急性期を過ぎてもほとんどの疾患は永続的な管理が必要となります。特に動脈硬化性疾患は、血行再建や急性期の手術が無事終了しても、再発予防のため、抗血栓薬や脂質低下療法、降圧治療、糖尿病診療といった内科的な二次予防が永続的に必要となります。また、心不全は根治する病態ではなく継続的な管理が必要です。当医療センターでは厚生労働省の指導で、病院完結型診療から地域完結型診療への転換を進めています。急性期の病態が落ち着いて、病状が安定したと判断される患者さんにつきましては、地域の先生方に診療の分担をお願いしています。ご多忙のところ申し訳ありませんが、引き続きご加療何卒よろしくお願い申し上げます。病状悪化時には直ちに当医療センターにて対応いたします。
現在、心不全診療につきまして、地域の先生方とのネットワークの構築を準備中です。また、診療ガイドラインを基にした、地域の先生方と共有できる病態別の循環器疾患標準診療プロトコルも準備中です。今後、患者さんにも安心して継続的な診療が受けていただけるよう、地域の病院・診療所の先生方との連携の一層の推進を目指しています。
新専門医制度に対応した循環器内科 専門修練医研修を行っています。当医療センターでは、subspecialtyを中心とした内科プログラムを組んでいます。
循環器内科にはPCIやEVTの豊富な症例数があり、卒後3年目より心臓超音波検査、経食道エコー、心臓カテーテル検査を実際に術者として参加してもらい、PCI、EVT、アブレーションには助手として参加していただきます。4年目からは、PCIやEVTペースメーカー植え込み術にも術者として参加していただき早期の手技獲得を目指しています。急性心筋梗塞は年間200例前後搬送されてくるため、5年目終了までには多数の緊急症例を経験できます。また当医療センターは最新のハイブリッド手術室を備えており、ステントグラフトやTAVIも経験できます。
2021年度は5名の専門修練医が切磋琢磨しながら、日々診療に当たっています。当科では、早期に専門知識・診療技術を獲得できるよう、充実したプログラムと豊富な症例を準備して、若い先生方をお待ちしています。当科での専門修練医研修や見学を希望される初期研修医・医学生はお気軽に連絡ください。
H31年卒 吉田昭典
R2年卒 坂本涼 畑村美諭
心臓を構成する筋肉を心筋といいますが、その心筋に酸素と栄養を送る冠動脈に障害が起きる病気を虚血性心疾患と言います。これは狭心症と心筋梗塞に大きく分けることができます。
人間の生命活動のため、心臓は肺で酸素を取り込んだ新鮮な血液を全身に送り出しています。収縮と拡張という規則正しい運動を繰り返して1分間に60~80回、1日に約10万回拍動しています。虚血性心疾患とは、心筋を栄養する冠動脈の内腔が狭窄あるいは閉塞することで、心臓の筋肉に十分な血液が流れなくなる状態です。
狭心症では、動脈硬化プラークにより冠動脈の狭窄あるいは閉塞により、心筋に必要な酸素と栄養が不足することで、患者さんは胸が締め付けられるような痛みを感じます。これが狭心症の発作です。狭心症は労作性狭心症と異型狭心症に大別されます。
労作性狭心症
労作労作性狭心症は、階段を上がったり、走ったり、興奮したりして心臓に負担がかかった時に発作が起こるものです。静かに休んでいる時には発作は起こりません。冠動脈が動脈硬化のために狭窄して起こるものです。狭窄部をカテーテル治療で拡張したり、冠動脈バイパス手術で血流を回復させることで症状は軽快します。
異型狭心症(冠れん縮性狭心症)
労作性狭心症が労作時に一致して発作がおきるのに対して、逆に夜中に寝ているときや静かに休んでいるときに突然胸が苦しくなるものを異型狭心症と言います。冠動脈が一時的にれん縮(けいれん)を起こして一時的に狭くなることで発作が起こります。通常はニトログリセリン等の冠血管拡張薬を投与することで軽快します。
急性心筋梗塞
冠動脈の動脈硬化プラークが破綻すると、そこに血栓が生じて急に閉塞することで、心筋に栄養と酸素が供給されなくなり、心筋が壊死することを急性心筋梗塞といいます。急性心筋梗塞は強い胸の痛みがでる病気の代表で、胸が締め付けられるように痛くなり、吐き気や冷や汗を伴います。急性心筋梗塞はきわめて重篤な状態で生命の危機に瀕しているといえます。一旦壊死が完成すると心臓には重篤な後遺症が残ります。できるだけ早く心臓カテーテル治療ができる救急病院で直ちに血行再建術(血流を回復させる治療)が必要です。
心筋が広い範囲で障害されると、血圧を維持できなくなり心原性ショックの状態となります。また、心筋梗塞になると、心室細動や心室頻拍といった、心臓が停止するような重篤な不整脈を起こしやすくなり、除細動(いわゆる電気ショック)が必要となる場合もあります。近年は公共施設や商業施設にAED(自動体外式除細動器)が配置されており、トレーニングを受けた方は医師で無くても除細動を行うことができます。
高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症)、喫煙 が虚血性心疾患の重要な危険因子であることが分かっています。運動不足、肥満、高尿酸血症(痛風)、家族歴、ストレスも、危険因子であることが報告されています。上記の危険因子をお持ちで、最近坂道での息切れや胸の圧迫感がある方は、かかりつけ医に相談するか当医療センターを受診ください。
また、ご両親や兄弟が狭心症や心筋梗塞の治療を受けておられる方が、健康診断で高血圧や糖尿病、脂質異常症を指摘された場合は、早めにかかりつけ医に相談し適切な治療を開始しましょう。
血液検査
貧血や、肝機能、腎機能の確認をします。
また、糖尿病や中性脂肪・コレステロール値、心不全の合併を検査します。
心電図
安静時の心電図で不整脈の有無や、重篤な心臓の虚血がないか検査します
重症な狭心症の場合は、安静時の心電図でも変化が出ることがあります。
運動負荷心電図検査
労作性狭心症の診断のため、心電図を装着して患者さんの年齢や体力に応じた運動をしていただき心臓に負荷をかけた状態で症状が出るか、心電図異常が出るか検査します。
胸部X線(レントゲン)
心臓の大きさや胸水(胸に溜まった水)の有無を検査します。
虚血性心疾患が重症で心臓の働きが悪くなると心臓が大きくなります。
心臓超音波検査(心エコー検査)
心臓の壁運動が良い心臓弁膜症の合併がないか検査します。
心筋の虚血が高度の場合、心筋の壁運動が低下することがあります。
心筋シンチグラフィ
運動や薬剤などで心臓に負荷をかけ、静脈に心臓の筋肉に集まる放射性同位元素を注射し、放出される放射線を撮影して、心筋の血流やエネルギー代謝などをイメージングする検査です。
冠動脈CT
血管を描出できる造影剤を静脈から注射して、心臓のCT写真を撮影することで冠動脈の狭窄部位の同定や重症度を診断することができます。良質な画像を撮影するために心拍数が早い患者さんは、β遮断薬(心拍数を一時的に低下させる薬)を注射してから撮影を行います。
冠動脈造影
手首あるいはそけい部(足の付け根)からカテーテルを挿入し、冠動脈の入口部にカテーテルを挿入して、造影剤を注入しX線装置で撮影して冠動脈の狭窄部や閉塞部を描出します。入院して検査が必要です。
冠血流予備能比( FFR: Fractional Flow Reserve)
心臓カテーテル検査に引き続いて、先端で血圧を測定できる特殊なワイヤー(プレッシャーワイヤー)を冠動脈に挿入して、狭窄病変の手前 と奥の血圧を測定することで、冠動脈の狭窄部がどのくらい心臓の血流を妨げているかを算出します。
通常狭窄の遠位部で一定程度以上血流が低下している場合、PCI (経皮的冠動脈インターベンション) の適応となります。
FFR-CT
当医療センターでは、CT画像からコンピューターで解析し冠動脈の狭窄部位の重症度を判定するFFR-CT検査が可能です。
これにより心臓カテーテル治療前に、狭窄部位がどのくらい心臓の虚血に関与しているか検査することができます。
1.薬物治療
抗血小板療法
狭窄した血管が閉塞しないように血液を固まりにくくする薬を使用します。ステント留置後やバイパス手術後も抗血小板薬内服が必要です。長期に多剤を内服すると出血リスクが高くなりますので、適切な時期に減量が必要です。
冠血管拡張薬
狭心症発作が起こった場合には、冠血管拡張薬を使用することで症状が緩和されます。冠れん縮性狭心症は冠血管拡張薬による治療が主体となります。
β遮断薬
心拍数を下げることで、心筋が使用する酸素を減らして症状を緩和します。
脂質低下薬
冠動脈が動脈硬化プラークで狭窄や閉塞するのを予防するためにコレステロールや中性脂肪を下げる薬を内服します。脂質低下療法により、再度カテーテル治療が必要になるリスクを減らしたり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げることができます。
*その他の併存症によって、糖尿病や高血圧についての薬物療法も再発予防のために重要です。
主治医やかかりつけ医と相談して適切な薬物療法を継続することが、虚血性心疾患の診療では非常に重要となります。
2.運動療法 心臓リハビリテーション
心筋梗塞や狭心症の患者さんは、心臓リハビリテーションプログラムに参加できます。心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)とは、心臓病の患者さんが、体力を回復し自信を取り戻し、快適な家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することを目指して行う総合的活動プログラムのことです。内容として、運動療法と学習活動・生活指導・相談(カウンセリング)などを含みます。心電図や血圧を観察しながら、適切な強度で運動を行うことで、運動耐用能を向上させることができます。当医療センターでも心臓リハビリテーションを行っており、入院中および外来で参加することができます。
3.血行再建手術
冠動脈バイパス手術(CABG)
重症の冠動脈病変の患者さんや、弁膜症・大動脈瘤などを合併した患者さんは、心臓外科による「冠動脈バイパス手術」の方が適している場合があります。冠動脈バイパス術は狭窄している冠動脈に新しく血液が流れるように別経路で血管をつなぐ手術です。狭心症の再発率が少ない優れた治療法ですが、カテーテルによる治療に比べると体への負担は大きくなります。当医療センターでは、重症の冠動脈病変の患者さんはハートチームで治療方針を相談し、それぞれの患者さんに最善の治療法を検討するようにしています。
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
「カテーテルによる狭心症の治療」は1977年にグルンツィッヒより導入されて以来、器具の進歩、技術の改良により現在広く普及しています。「経皮的冠動脈インターベンション:(PercutaneousCoronary Intervention)」の頭文字を略して「PCI」と呼ばれることが多くなっています。
PCIでは、当初は単純に風船(バルーン)で拡げる以外に方法はありませんでしたが、そのバルーンによる拡張には、再狭窄・急性閉塞などの問題点が残されていました。そのため、現在は血管の内側をステント(筒状の金網)で支える方法で際立った有効性を示し、広く用いられるようになりました。現在は、再狭窄を抑えるためにステントに内膜の増殖を抑える薬剤を塗布したステントを使用しています。
ステントを用いた「PCI」は以前に比べれば飛躍的に安全な手技となり、適応は拡大しています。しかし、成功率が高まったとはいえ、実際の現場では命にかかわるリスクはゼロではありません。主治医とよく相談して、患者さんご本人とご家族が納得したうえで治療を受けていただいています。
ロータブレーター
ロータブレーターは、カテーテルの先端に小さなダイヤモンドの粒を装着した丸い金属(burr)を高速に回転させることで、バルーンで拡張できないような非常に硬くなった冠動脈の石灰化プラークを切削することができます。また、ロータブレーターは、柔らかいものは削れにくいのが特徴で、柔らかい正常の血管は傷つきにくくなっています。ロータブレーターに引き続いてバルーン拡張、ステント留置術を通常は行います。
急性心筋梗塞の治療
急性心筋梗塞の急性期の治療として、カテーテルによる再開通療法は広く普及し施行されています。閉塞した冠動脈の血流を再開させることより、閉塞したまま保存的に治療した場合に比べて、壊死する心臓の筋肉を減らし心機能を保持することができ、死亡のリスクが減少します。当医療センター循環器内科でも24時間、いつでも緊急心臓カテーテル検査、冠動脈造影、再開通療法が施行できる体制を整えています。
虚血性心疾患の血行再建術後の経過観察
血行再建治療が安定し、薬物療法で症状が安定した患者さんは、お近くのかかりつけ医にて普段の診察ならびに薬剤の処方をお願いしています。6~12ヵ月に1回程度、当医療センターにも通院いただき、血液検査や心電図検査、心臓超音波検査にて虚血性心疾患の経過観察を行います。急に症状が増悪した場合や、検査で異常が見つかった場合は、再度詳しい検査や治療を行います。
下肢閉塞性動脈硬化症とは、下肢を栄養する動脈が、動脈硬化によって狭窄したり閉塞したりすることで下肢が虚血(血液が足りない状態)となり起こる病気です。
軽症の患者さん(下肢動脈が狭窄しても、症状が軽度で日常生活に支障のない方)は、血管を広げるカテーテル治療やバイパス手術は必要ありませんが、動脈硬化が進行しないようにするための薬物治療が必要です。
中等症の患者さんは、下肢動脈が狭窄ならびに閉塞して血液の流れが悪くなると、歩くと足が重たくなったり、だるくなったり、痛みがでたりして、歩くのが困難になったりする等の症状が現れます。これを間欠性跛行といいます。カテーテル治療で血管を広げたり、バイパス手術を行うことで血流がよくなると、楽に歩けるようになります。
重症の患者さんは、高度に血流が低下することで、安静時でも足に痛みがでたり、足が壊死に陥り潰瘍(きず)を形成することがあります。下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染といった下肢切断リスクを持ち、治療介入が必要な下肢の総称としてCLTI(chronic limb–threatening ischemia)の概念が提唱されています。傷が拡大し感染を起こした場合は、足の指を切断したり、最悪の場合下肢の切断(膝下での切断、大腿部での切断)という事態に至ってしまうこともあります。特に糖尿病をお持ちの患者さんや透析を受けている患者さんでは注意が必要で、2週間以上治癒しない足の傷がある方は一度検査が必要です。
下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんは、狭心症や脳梗塞といった他の動脈硬化性疾患を合併することが多く、他の動脈の検査も一緒に行うことがあります。
下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんの検査は、主に外来で以下の検査を行います。
触診
下肢の動脈は体表面から触知することができます。血管が閉塞したり高度の狭窄をきたすと、それより末梢の動脈は触知することが困難となります。
ABI(足関節上腕血圧比)
上肢(腕)と下肢(足首)の血圧を比較します。正常値は0.9~1.1と上肢と下肢で差がありませんが、下肢の動脈が狭窄していると足首の血圧の方が低くなります。
SPP(Skin perfusion pressure:皮膚還流圧)
レーザードプラにより皮膚の微小循環(表面から1~2mm)を測定します。重症の下肢虚血の患者さんに、虚血の重症度の評価のために測定します。
超音波(エコー)検査
超音波検査にて下肢動脈狭窄部の血流評価をすることで、狭窄の有無・重症度を診断します。
造影CT検査
造影剤を注射して下肢のCT検査をすることで、下肢の動脈の状態を詳細に評価できます。
カテーテル検査(血管造影検査)
大腿動脈(足の付け根の血管)からカテーテルという細い管を動脈内にいれ、造影剤を注射しながX線透視装置で撮影することで、血管の形態、狭窄度を評価します。
運動療法
閉塞性動脈硬化症の患者さんは、運動療法をおこなうことで、下肢への血流が増加して、症状が改善することがあります。
薬物療法
抗血小板療法(アスピリン クロピドグレル硫酸塩 シロスタゾール)
下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんは、血管の閉塞を予防するため、抗血小板薬(血液が固まりにくくなる薬)を内服いただきます。また、併存する高血圧・高コレステロール血症・糖尿病の薬物療法を行うことで、動脈硬化の進行を抑えます。シロスタゾールには、間歇性跛行(歩くと足がだるくなること)の症状を軽減する効果があります。
1.血行再建術・カテーテル治療
動脈の狭窄部や閉塞部をバルーンカテーテルで拡張したり、ステント留置術を行うことで下肢動脈の血流を改善します。
2.バイパス手術
自身の下肢静脈(伏在静脈)や人工血管を用いて、閉塞している動脈を迂回して末梢側の狭窄のない動脈に吻合(血管を縫うこと)することで、下肢動脈の血流を改善します。全身麻酔による手術が必要ですが、カテーテル治療と比較して多量の血流を供給できます。
当科では、下肢閉塞性動脈硬化症、また、大動脈分枝の狭窄病変(腎動脈や鎖骨下動脈)に対する経皮的血管形成術に豊富な治療経験があります。また、潰瘍をともなう重症下肢虚血(CLTI)へも、積極的に血管内治療を行っています。
バルーン形成術 薬剤コーティングバルーン
円筒形のバルーンカテーテルで狭窄部を拡張します。特に限局性の病変であれば、通常のバルーンで長時間拡張することで、良好な拡張を得ることができます。薬剤コーティングバルーンにより、拡張後の病変に再狭窄を予防する薬剤を塗布することで、バルーン拡張術単独と比較して良好な病変の開存が期待されます。
ステント留置術
ステント(金属のメッシュ状の筒)を閉塞部や狭窄部に留置することで、下肢動脈を拡張し血流を改善します。病変の形態や長さによって、通常の金属ステント、薬剤溶出性ステントやステントグラフト(人工血管と金属ステントを接着したもの)を使い分けています。
クロッサー閉塞部貫通カテーテル
機械的振動をクロッサーカテーテルシステムの先端チップに伝搬させることで、血管内の石灰化した硬化病変を貫通させることができます。これまでバルーンカテーテルが痛困難であった病変に対しても、石灰化を破砕することで治療できる範囲が広がります。
膝下動脈領域における血管内治療
膝下動脈が閉塞または狭窄している患者さんに対する血管内治療は、現状バルーン拡張術しか認可されていません。そのため、治療の適応となるのは、安静時に足趾に痛みがある患者さんや、足に潰瘍(傷)をお持ちの重症下肢虚血の患者さんが対象となります。ガイドワイヤー通過後に、バルーンで長時間拡張することで、血管の解離を最小限におさえて病変の拡張を行います。しかし、バルーン拡張のみでは、再狭窄を生じることが多く、傷の治癒までの間に再狭窄を認めた場合は、繰り返しカテーテル治療が必要となる場合があります。
心臓の左心室から全身に向けて血液を送り出している太い血管を大動脈といいます。動脈瘤とは、血管組織の損傷により動脈内腔が部分的または全体的に拡張してこぶを形成する病気です。これが大動脈に生じたものが大動脈瘤で、治療せずに放置し破裂した場合、大出血を起こし死亡する恐れがあります。破裂してから救命することは難しい場合が多く、ある程度の大きさになると破裂の予防のために治療が必要となります。
動脈瘤そのものは基本的には無症状ですが、CTやエコー検査たまたま発見されることがあります。胸部大動脈瘤の場合は、瘤が大きくなると反回神経という声帯を支配する神経を圧迫するため、嗄声(させい:声がかすれること)を生じます。腹部大動脈瘤の場合は、拍動する瘤を臍(へそ)のまわりに触れることがあります。
大動脈瘤の診断方法
主にCT、MRI、エコーなどで診断できます。腎機能が低下している場合や造影剤にアレルギーのある場合でも、造影剤を使用しないCT検査で診断可能です。
大動脈瘤の治療方法
動脈瘤が小さく特に症状のない時には、血圧を下げて動脈瘤が大きくならないようにするとともに、半年から1年に1回、定期的な検査を行って急速な瘤径の拡大がないか観察します。大動脈瘤はある程度大きくなると破裂の危険性が生じてきます。大動脈瘤が破裂する際には強い痛みを伴いますが、通常は破裂するまでに症状がないことが多いため、ある程度大きくなれば症状がなくても予防的に根治的な治療を行う必要があります。
治療が推奨される大きさの目安は胸部で5.5cm以上、腹部では5cm以上ですが、大きさだけではなく動脈瘤の形態や、拡大する速度等を考慮して、治療をお勧めしています。動脈瘤を治療するためには以下の2つの方法があり、それぞれの長所と短所があります。
1.外科手術による治療: 人工血管置換術
従来から行われている根治的な治療法です。全身麻酔を行い外科的に拡大した血管を切り取り、人工血管に換えてしまう手術です。手術侵襲(体に対する負担)は伴いますが、確実に動脈瘤を除去できます。外科手術成績は年々向上しており、長期成績についてもよく知られています。全身麻酔下で胸部や腹部の切開が必要です。
2.カテーテルによる治療
局所麻酔により、鼠径部(足の付け根)を小さく切開し、そこからカテーテル挿入して人工血管(グラフト)に金属を編んだ金網(ステント)を縫い合わせたステントグラフトを患者さんの大動脈に内挿する方法です。この方法は、外科手術と比較すると身体への負担が少ないのが特徴です。動脈瘤への血流が遮断されると、次第に瘤径は縮小してきます。大動脈瘤自体は体内に残るため、治療後に漏れ(エンドリーク)を生じると動脈瘤が再拡大し再治療が必要となる場合があります。
ステントグラフトとは
ステントグラフトとは、人工血管(グラフト)に針金状の金属を編んだ金網(ステント)を縫い合わせたものです。ステントグラフト内挿術は、このステントグラフトをカテーテルの中に納めて太ももの付け根から血管の中に入れ、患部で広げて血管を補強するとともに動脈瘤の部分に血液が流れないようにする治療です。
外科手術と比較して患者さんの負担は小さく、入院期間が短くなり、歩いたり食事をとったりすることが早くできるようになります。他の病気が理由で外科手術のリスクが高い患者さんや、ご高齢の患者さんへの治療法として普及しています。しかし、大動脈瘤の形態によってはステントグラフト治療が困難な場合があります。
根治的な外科手術と違い動脈瘤自体が残るため、ステントグラフトの移動、分枝からの血液の逆流などの問題でエンドリークが生じると、動脈瘤が将来拡大し破裂の危険が再び生じる場合があります。動脈瘤の拡大があれば、破裂を予防するために追加のカテーテル治療や外科手術を行う場合があります。
ステントグラフト内挿術を検討する際に、CTを撮影し大動脈瘤の形状がステントグラフトに適しているかどうかを検討します。適していると判断された場合、患者さんの動脈瘤の形態に合った適切な機種およびサイズのステントグラフトを選択します。
足の太ももの付け根の近くをメスで小さく切って、ステントグラフトを挿入するための血管を露出させます。この際に少し痛みがあり、局所麻酔薬を患部に注射するとともに、点滴で鎮静剤を使用して少し眠った状態で手術を行います。当医療センターでは多くのステントグラフト内挿術を身体の負担の少ない局所麻酔で実施しています。
ステントグラフト内挿術に先だって、大動脈の分枝から動脈瘤内に血流が流入することが予想される場合は、分枝に対してカテーテルを用いてコイル塞栓(針金で血管を詰める治療)を行う場合があります。治療に用いるステントグラフトは、2つから3つの部品に分かれており、それぞれカテーテルと呼ばれるプラスチック製のチューブの中にあらかじめセットされています。それぞれの部品は太ももの付け根の血管から動脈内に別々に挿入されます。
エックス線透視下でステントグラフトを確認しながら正しい位置に運び、血管の中で接続します。このとき、グラフト本体は大動脈に固定されます。ステントグラフトの両端が血管壁と密着すると、血液はステントグラフトの中を流れるので、大動脈瘤内への血流は遮断されます。
手術の最後に血管造影を行い、動脈瘤内への血液の流入(エンドリーク)がなく、ステントグラフトの中を通って流れていることを確認します。最後に両足の太ももの付け根の小さく切った部分を縫合して閉じます。
ステントグラフト内挿術は、CT画像と3次元で同期可能な血管造影装置を備えたハイブリッド手術室にある血管造影室にて施行しています。
ステントグラフト内挿術により期待される効果
人工血管(ステントグラフト)の留置に完全に成功すれば、動脈瘤の部分は人工血管で密閉され、血液は瘤内には流れなくなり動脈瘤の縮小を得られます。動脈瘤が縮小しなくても拡大が止まれば動脈瘤の破裂を防止できます。
ステントグラフトを用いた治療では、この治療に特有な不具合・有害事象が起こる可能性があります。また、不具合が発生した場合、手術中や手術後に追加の治療が必要になり、緊急で開腹外科手術が必要となる場合もあります。
動脈瘤の術中破裂・死亡・開腹手術への移行
患者さんによっては動脈瘤の壁が非常にもろい場合があり、カテーテル操作によって動脈瘤の壁が傷つき、動脈瘤が破裂するおそれがあります。また、動脈瘤が破裂寸前であった場合、手術中に破裂してしまう場合があります。治療中に動脈瘤が破裂した場合血圧が著しく低下しますので、通常の治療経過と異なり、生命の危険が生じ集中治療が必要となります。
また、ステントグラフトが操作困難、ステントグラフトでは修復不可能な病態となった場合は、緊急で開腹手術へ移行し修復が必要となる場合があります。生命に危険が及ぶ可能性もゼロではありません。
漏れ(エンドリーク)の残存
ステントグラフトの大動脈壁への密着不足などにより、動脈瘤内に血液の流入が残存することがあり、これをエンドリークといいます。この場合、動脈瘤壁に圧がかかり動脈瘤のさらなる拡大および破裂の危険性が残るため、再治療が必要になります。
特に、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術では、分枝からのII型エンドリーク(動脈瘤内の分枝から逆流する血液が動脈瘤へ流入する現象)により瘤径が拡大した場合、コイル塞栓術(針金を用いて血管を詰める治療)が必要となることがあります。当科ではコイル塞栓まで対応できるため、拡大傾向にあれば早めに対処しています。また、ステントグラフト内挿術前に、太い分枝からのII型エンドリークの出現が予想される場合は、グラフト挿入前にコイル塞栓も行っています。
ステントグラフトによる側枝の閉塞
大動脈から分岐している大切な血管をステントグラフトでふさいでしまった場合、その血管によって養われている臓器に傷害が起こることがあります。胸部下行大動脈から分枝している脊髄を栄養する血管(アダムキュービッツ動脈)をステントグラフト内挿術により塞いでしまうことで、脊髄が虚血となり、両足の麻痺(対麻痺)を生じることがあります。胸部大動脈瘤の治療の3~5%に生じることが報告されています。
腸骨動脈に動脈瘤がある患者さんでは、ステントグラフト治療にともなって動脈瘤内への血流を遮断するために内腸骨動脈(骨盤内を栄養する血管)に対してコイル塞栓術(針金を用いて血管を詰める治療)を行います。内腸骨動脈を閉塞した場合に、殿筋(おしりの筋肉)への血流が低下し、跛行(はこう:歩くとおしりがだるくなる症状)が出現することがあります。通常1~3ヵ月の経過で改善することが多いです。
ステントグラフトの移動
患者さんの血管へステントグラフトがうまく固定されず、血流に押し流されて人工血管が移動したり、患者さん自身の大動脈の形態が数年の経過で変わることで、ステントグラフトが移動する場合があります。その場合は、ステントグラフトを新たに追加したり、外科手術が必要となる場合があります。
塞栓症
動脈瘤の壁には血栓がついており、瘤の部分以外でも動脈硬化のために動脈の内側にプラーク(粥腫)が付着しています。カテーテルの操作中に患者さんの動脈瘤の壁や動脈壁についている血栓やプラークが血流に押し流され、内蔵などの血管をつまらせてしまうことがあります。全身性の塞栓症が起こると、多臓器不全となり生命にかかわることがあります。
ステントグラフト内挿術を受けた後は定期的に検査を受け、瘤が大きくなっていないか、大動脈瘤内への血液の流入(エンドリーク)がないか、ステントグラフトの移動・閉塞・破損などが生じていないかをCTやエックス線写真撮影 エコーにより観察します。
退院後、医師の指示に従って以下の時期に定期検査を受ける必要があります。通常は術後1ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、その後は年1回 CT検査を行います。
ステントグラフト内挿術後のMRI撮影について
ステントグラフトには、ステント部に金属素材が使用されていますが、市販されているいずれのステントグラフトにおいても、3.0T(テスラ)までのMRIは安全に撮影できることが報告されています。
治療や合併症の詳細については、受診した際に担当医師にご確認ください。
心臓は規則正しく拍動し、全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。
このポンプは電気刺激で動いていて、この電気刺激の経路に異常が生じると、心臓全体に電気刺激がうまく伝わらずに心臓の動き(心拍)が乱れることを不整脈と呼んでいます。
不整脈の症状として、心拍が速くなると強い動悸や胸部不快感、胸痛などが出現する時があります。また、逆に心拍が遅くなると疲労感やめまいがあり、ひどい時には意識を失うこともあります。
不整脈にはいろいろな種類がありますが、心拍が遅いものを徐脈性不整脈と呼びます。この徐脈性不整脈の主な原因は、電気刺激の機能そのものが低下したためであり、人工的に心臓への電気刺激を補う心臓ペースメーカーの植え込みが必要となることがあります。
また、心拍が速いものを頻脈性不整脈と呼びます。この不整脈の主な原因は(1)電気刺激の経路に余分な電気刺激を発生する部位ができたり、(2)正常の伝導路とは別の伝導路が存在することで、そこで電気刺激が渦を巻いたりすることで心拍が速くなります。近年、この頻脈性不整脈の治療が目覚ましい進歩を遂げています。
徐脈性不整脈では、心臓の打つ回数(心拍)が少なくなるため、日常生活中に息切れや倦怠感を感じることがあります。このような自覚症状がない場合は経過観察できますが、脈拍が少なくなっている原因によってはペースメーカーが必要になることがあります。
ペースメーカーとは、電池とコンピューターが内蔵された金属製の本体と電線(リード)からなります。リードは患者さんの状態に応じて1本ないし2本使用します。このリードを心臓の中の右上の部屋(右心房)と右下の部屋(右心室)にそれぞれ留置してペースメーカーの本体に繋ぎます。ペースメーカー本体の留置場所は、通常左胸の鎖骨下付近に数cm切開し、皮下にポケットを作成します。そのポケットの中に本体を収納します。ペースメーカーは心臓に留置されたリードを用いて心臓の動きを感知し、もし、適切に動いていない場合は電気刺激を伝えます。ペースメーカー本体の重さはおおよそ20g程度で、電池の寿命はペースメーカーの作動率にもよりますが、おおよそ5〜10年程度です(電池が改良されていますので10年以上もつものもあります)。電池寿命がくれば交換が必要です。
2017年9月より使用が可能になったペースメーカーです。従来のリードを用いて、皮下に植え込むペースメーカーと異なり、直接心臓に植え込みます。直接心臓に植え込むため、リードが必要ない(リードレス)のでリードの破損や脱落などがありません。また、皮下にポケットを作成する必要もないため、ポケット作成に関係した感染症も起こりませんし、外から見ても全くペースメーカーが挿入されているかどうかもわからないので美容上の利点もあります。
ただ、心室にしか植え込めないこと、ペースメーカーの電池寿命がきても取り出せないため追加の挿入しかできないなどの課題もあります。
植込み型除細動機能付きペースメーカー(ICD)
心臓の機能が低下したり、心臓の筋肉にトラブルがあったりした場合に心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)が起こることがあります。これらの不整脈は致死性不整脈と呼ばれ、できるだけ速く治療を行わないと生命に危険が及ぼします。
治療は電気的除細動(電気ショック)しかありません。この不整脈が起こったら、いち早く感知し電気ショックを行うペースメーカー(ICD)が開発されました。ICDはペースメーカーの機能と電気ショックの両方の機能を持ったものですので基本はペースメーカーと同じ、金属製の本体とリードからなります。リードは電気ショックを出すことのできる特殊なリードを使用します。また、ペースメーカーの本体は電気ショックを出すために大型の電池とコンデンサーが必要になるため通常のペースメーカーと比較してかなり大きいです。
S-ICD
通常のペースメーカーのリードと比較してICDのリードは太く、破損(折れたり、切れたり)しやすいものでした。リードが破損した場合は、心臓の中に留置された期間が長いと心臓とリードが癒着するため簡単には取り出せず、追加で留置するしかありません。追加でリードの留置を繰り返すと心臓の負担も大きく、心臓機能が低下する可能性があります。そこで心臓にリードを直接留置せず、心臓の周囲の皮下にリードを留置して電気ショックが行える除細動器(S-ICD)が開発されました。このS−ICDは、心臓の周囲の胸骨にそってリードを挿入し、本体は胸部の左側(心臓の高さぐらいの位置)に挿入します。皮下にリードを挿入しているため、もし、リードが破損しても取り出すことは簡単です。ただし、リードは心臓内に留置されていないため、ペースメーカーとしての機能はありません。
心筋梗塞後や心筋症など心臓の筋肉にトラブルが起こった場合、心臓のポンプとしての機能が低下してしまいます。心臓のポンプ機能が低下する原因の1つに、心臓の筋肉の収縮するタイミングがバラバラになって効率的に動けなくなっている状態があります。ペースメーカーからの電気刺激を使って、バラバラになった心臓の動きをもう一度整えようとする治療法があり心臓再同期療法(CRT)と呼びます。心臓再同期療法を行う場合は、通常、心室に1本のリードを右心室に挿入しますが、もう1本を冠静脈洞という心臓の血管を通して左心室側に挿入します。この2本のリードから電気刺激を行うことでバラバラになった心臓の動きを再度整えます。
以前の頻脈性不整脈の治療は、胸を開けて直接心臓の不整脈の原因となる部分に治療を行っていました。これは患者さんにとても大きな負担がかかる大変な治療でした。また、薬による治療もありますが、これは薬によって不整脈を起こりにくくするだけで、根本的に不整脈を治療することはできません。そのため、お薬を継続的に内服してもらう必要がありますが、長期間の内服は副作用も懸念されます。つまり、以前は頻脈性不整脈の患者さんは、薬の副作用を気にしながら薬で様子をみるか、思い切って心臓外科手術を受けるかという選択を迫られていました。
そこで登場したのがカテーテルを使って治療する技術です(カテーテルアブレーション:カテーテル心筋焼灼術)。この治療法は、カテーテルと呼ばれる直径2㎜程度の管を心臓内に挿入して、不整脈の原因となる電気回路の部分を探しだし、その回路を遮断する治療法です。つまり、カテーテルという道具を用いて電気で動いている心臓の電気工事を行うのです。この治療がうまく行けば不整脈は治る可能性があり、内服薬の中止または減量できることもあります。つまり、薬物治療は不整脈の症状を緩和することを目的とした治療法ですが、カテーテルアブレーションは不整脈の根治を目指す治療法です。
・発作性上室性頻拍(房室結節回帰性頻拍、房室回帰性頻拍、心房頻拍、上室性期外収縮)
・心房粗動
・心房細動
・心室頻拍/心室性期外収縮
・心室細動
心室細動以外は、カテーテルアブレーションで治療対象となる主な不整脈です。
この中で一番患者さんが多い不整脈は心房細動です。
心房内で電気刺激が嵐のようにあちこちで起こり、まるで心房が痙攣したように細かく動く(細動)不整脈です。心房が不規則に興奮するため心房内に血の塊(血栓)ができやすく、この血栓が血流に乗って流れ、他の臓器で詰まってしまう(塞栓症:例 脳梗塞など)ことがある怖い不整脈です。この不整脈が起こってしまう原因は、高血圧や糖尿病の他に年齢も関わっています。未曾有の高齢社会を迎える現代で、心房細動の患者さんが年々増加していくことが大きな問題となってきています。脳梗塞や心不全を引き起こす怖い不整脈ですが、長年なかなか治すことが困難な不整脈でした。しかし、近年技術の進歩とともに治すことのできる不整脈の1つとなってきました。
この不整脈が起こる原因は、心臓に繋がっている血管(主に左心房とつながっている肺静脈)と心臓との繋ぎ目からたくさん電気刺激が心臓内に入ってくることで起こります。つまり、この電気刺激が心臓内に入ってこないようにすること(電気的隔離術)で治療を行います。うまく遮断できれば、心房細動が起こらなくなります。電気刺激を遮断する方法としては、一般的には高周波を用いて焼灼する方法と、液化亜酸化窒素ガスを用いたバルーンで冷却をする方法などがあります。
カテーテルでの治療は不整脈の原因となる部分を明らかにし、その部位を確実に遮断することが必要になります。そのため、当医療センターでは、カテーテルで取得した不整脈の情報とカテーテルの正確な位置情報をコンピューター上に表示することができる最新のカテーテルのナビゲーションシステムを用いて、より安全でより確実に治療ができるよう努めています。
頻脈性不整脈は、突然始まる動悸から死に至らしめるものまで様々存在します。このカテーテルアブレーションの登場により、不整脈の種類によっては根治させることができます。また、最新のカテーテルのナビゲーションシステムを使用することで、より安全性や確実性の高い治療を行えるようになってきました。一人でも多くの患者さんが不整脈の苦しみから解放されるように努力していきたいと考えています。
なお、頻脈性不整脈は、様子をみていいもの、薬を使用した方がいいもの、カテーテルで根治が望めるものなど様々です。お心当たりの方はご相談ください。
心臓は血液を全身に血液を循環させるポンプの働きをしています。心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)があり、それぞれの部屋の出口には弁(三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁)がついており、血液が逆流しないように働いています。
弁膜の病気としては弁の開きが悪くなる狭窄症と弁の閉じ方が悪くなる閉鎖不全症(逆流症)がありこれらを総称して心臓弁膜症と呼びます。悪くなっている弁の名前に狭窄症、閉鎖不全症をつけると病名となります。弁の働きが悪くなると心臓のポンプとしての効率が落ち、心臓に負担がかかります。心臓がこの負担に耐えられなくなった状態を心不全と呼び、息切れ、呼吸困難、むくみ等の症状が出て、重症の場合は入院治療が必要となります。
弁膜症の症状が軽い場合には心臓の負担を軽減するため、薬物による内科的治療を行いますが、重症となった場合には手術で弁の修復または交換する必要があります。
1.薬物治療
弁膜症の症状が軽い場合は、心臓の負担を取るために血管拡張薬や利尿剤等を用いて薬物治療をおこないます。薬物治療により病状が安定した後も、弁膜症の状態を観察するために定期的な通院や検査が必要となります。
2.外科手術
弁置換術
狭窄したり逆流している弁の変性が高度の場合、あるいは細菌が付いた弁(感染性心内膜炎)の場合は、外科手術にて弁置換(弁を取り替える手術)が必要となります。
人工弁について
「機械弁」は、カーボンでできており、耐久性が高く、一生涯使用できることが多いです。しかし、機械弁に血栓(血の塊)ができることがあり、人工弁機能不全や脳梗塞などの原因となるため、抗凝固薬(血をさらさらにする薬)を一生涯内服する必要があります。高齢になると脳出血や消化管出血(胃腸からの出血)などの出血が問題になることがあります。
「生体弁」は、ウシの心臓の膜やブタの弁を加工し、人工弁にしたものです。抗凝固薬は、手術後3ヶ月で中止できます(心房細動など他の病気で必要な場合は、その後も内服していただきます)。手術後10〜15年で人工弁が劣化し、人工弁に逆流や狭窄がおきる可能性があり、再手術が必要になる可能性があります。
弁形成術
弁逆流症の場合、心臓の弁の形態によっては弁を取り替えずに、形成術にて修復することで治療できます。自己の弁を修復した場合は、細菌感染や弁の劣化が起こりにくく、人工弁と比べて長持ちします。しかし、弁形成術を行った場合、逆流が残ったり、将来的に逆流が再発した場合には再手術が必要になる可能性があります。
カテーテル手術
大動脈弁狭窄症に対するTAVI
大動脈弁狭窄症とは、炎症性反応、癒着、硬化、石灰化などにより左心室から大動脈に血液を送り出す出口にある大動脈弁が十分に開かなくなる病気です。この病気の患者さんは、運動時の胸の痛み、息切れなどの症状がみられます。重症の大動脈弁狭窄症は症状出現後比較的急速に進行することがわかっています。一般的には狭心症状(労作時に胸が痛くなる)が出現すると余命5年、失神が出現すると余命3年、心不全症状が出現すると余命2年とされています。
これまでの重症大動脈弁狭窄症に対する標準治療は外科的な大動脈弁置換術でした。薬物治療は大動脈弁狭窄症を根治的に治療することはできません。外科手術のリスクが高い高齢の患者さんを対象に、根治的な治療をより体への負担を減らして行えるように開発された治療が経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI)です。
TAVI弁は金属でできたフレームの中に生体弁(動物の組織から作った弁)を縫い付けたものです。この生体弁は、カテーテル(細い管)を用いて大腿動脈(足の付け根の動脈)から挿入され、十分に開かなくなった大動脈弁の位置に留置されます。また、足の動脈が極端に小さかったり、動脈硬化が強かったり大動脈の屈曲が強く、大腿動脈から挿入するのが困難な場合は、心尖部(心臓の尖端)や鎖骨下動脈、大動脈からカテーテルを挿入することもあります。現在は、ほとんどの症例で大腿動脈アプローチが選択されます。
弁膜症の治療方法や、どこから手術をするのが適切なのかの選択は、心臓血管外科・循環器内科を中心としたハートチームで検討し、患者さんの意向も踏まえて決定されます。
治療はハイブリッド手術室で施行されます。ハイブリッド手術室とは高性能なX線透視装置と手術寝台を組み合わせた手術室のことです。手術室と心臓カテーテル検査の双方の利点を取り入れておりTAVIを施行するためには必須の設備です。当医療センターでは2020年にハイブリッド手術室が完成し、そこで治療が行われています。
当医療センターにTAVI目的にて受診された患者さんはまず短期間の検査入院を行い造影CT検査、超音波検査、心臓カテーテル検査などを行います。検査終了後にTAVIハートチームで方針を検討、患者さん・ご家族とも相談のうえで治療方針を決定します。状態の安定している患者さんは一旦退院となり改めてTAVI治療の前に入院していただきます。重症で状態が不安定である患者さんは検査入院に引き続いてTAVI治療を行われることもあります。
肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症は、一連の病態であることから、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称されます。エコノミークラス症候群とも言われるため、こちらの通称を聞いたことがあるかもしれません。
肺動脈に血栓(血液のかたまり)が流れて塞栓してしまう病気が、「肺血栓塞栓症」です。塞栓子が大きいと、急性の呼吸困難やショック状態、突然死を生じる危険があります。塞栓子が小さな場合は軽い症状で済むこともあります。
肺血栓塞栓症の原因のほとんどが、下肢の深部静脈に血栓が形成される「深部静脈血栓症」です。長期の臥床が主な危険因子で、手術や入院治療での安静も発症の危険を高めます。当医療センターでは、入院時にさまざまな予防器具やリハビリ、薬物療法など個々の症状に応じた対応で発症予防に努めています。また、がん疾患に合併することが多いため、がん疾患の増加とともに、今後、増加することが予測されています。
静脈血栓塞栓症(VTE)の治療法は、血液をサラサラにする抗凝固薬を用いた抗凝固療法が主です。最近は、抗凝固薬の進歩で、以前に比べて合併症としての出血リスクが減少しました。抗凝固療法が施行しにくい場合は、下肢から肺に血栓が流れないように下大静脈フィルターを留置することもあります。また、慢性の肺血栓塞栓症で肺高血圧が進行した場合は、血管拡張薬、手術治療、カテーテル治療などを考慮する場合があります。
「心不全」という言葉を耳にされたことがある方も多いと思います。心不全とは、実は病名ではなく、心筋梗塞や心臓弁膜症、心筋症、不整脈などの心臓の様々な病気や高血圧などが原因となり、心臓のポンプ機能の調節がうまく行かなくなり、呼吸困難や、浮腫、倦怠感が出現し、患者さんが従来通り動けなくなる状態のことを言います。
心不全の患者さんは、心臓病治療の進歩により救命率が向上したこと、また、近年の高齢化もあり、増加の一途をたどっています。また、心不全とは、一旦症状が改善した後も継続的な治療を要することが一般的です。心不全が増悪して再入院を繰り返すと、入院の度に少しずつ心臓の機能が低下し、寿命を縮める病気です。適切な治療により、心臓が安定した状態を維持することが重要です。
心不全が急に悪化した場合は、急性期の薬物療法や呼吸管理、機械的補助循環療法とともに、心不全の元となる心臓病(虚血性心疾患・弁膜症・不整脈)の治療を適切に行っていきます。当医療センターでは、循環器内科と心臓血管外科が協力してハートチームを組織し、慢性心不全認定看護師や心臓リハビリテーション指導士、心不全療養指導士と協力して、一人ひとりの患者さんにとって最適な治療法を提案いたします。
心不全は、昼夜問わず急速に病状が悪化することがありますが、当医療センターでは救急部と協力して、心臓救急の患者さんに24時間365日対応できる体制を構築しています。
心不全の急性期の治療がうまくいって状態が安定した後も、安定した状態を維持するための適切な薬物療法と、食事療法や運動療法といった生活習慣の管理が大切です。内服を自己判断で中止したり、塩分、水分を過剰に摂取したり、あるいや感染症やストレスが引き金になって急に心不全の状態が悪化することがあります。
心不全が急に増悪した際は、お薬を調整したり入院して点滴治療が必要になる場合があります。本格的に症状が悪化する前に、早めにかかりつけ医に相談することで、入院を回避することができる場合があります。当科では心不全増悪時にも患者さんが適切に対処できるよう和歌山心不全手帳を作製して導入しています。また、安定した心不全患者さんの治療においては、当医療センターのような救急病院と、地域のかかりつけ医の先生方が連携し、患者さんに継続的な診療を受けていただけるようネットワークを構築しています。
和歌山心不全手帳には、「和歌山心不全アラート」が記載されていおり、かかりつけ医や救急病院に受診する目安が記されています。
受診の目安<赤信号>に記載されているような重症な症状(座っているだけで呼吸が苦しい、苦しくて横になれない、冷や汗が出て苦しい など)が出現した場合には、直ちに救急対応ができる病院に受診してください。
受診の目安<黄色信号>に記載されているような軽い症状(体重が急に増えた、足が朝から浮腫んでいる、これまでより短い距離を歩いてもすぐ息が切れる など)が出現した場合には、早めにかかりつけ医に相談してください。
心臓リハビリテーションとは、心臓病の患者さんが、体力を回復し自信を取り戻し、快適な家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することを目指して行う総合的活動プログラムのことです。内容として、運動療法と学習活動・生活指導・相談(カウンセリング)などを含みます。心不全の安定状態維持のために、心臓リハビリテーションは非常に重要です。当医療センターでは、医師のみでなく、慢性心不全認定看護師(1名)や心臓リハビリテーション指導士(7名)に心不全療養指導士を加えた心不全診療チームを組織し、増加する心不全患者さんへの診療を行っていきます。
肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送るための血管である"肺動脈"の血圧(肺動脈圧)が高くなることで、心臓と肺の機能障害をもたらす疾患群です。具体的には、右心カテーテル検査を行って、安静仰臥位での平均肺動脈圧が25㎜Hg以上と定義されています。
肺動脈圧が高くなるのは、何らかの原因で肺動脈が狭くなることや肺動脈が硬くなることで、血液の流れが悪くなるからです。大気中の酸素を肺で血液中に十分に取り込み、その血液を心臓が全身の臓器へ送り出し、それぞれの臓器に酸素を供給することにより、各々の臓器は機能できます。必要な酸素を全身の臓器に送るためには、心臓から送り出す血液の量を一定以上に保つ必要があります。肺高血圧の状態では、血液の流れが悪くならないように、狭い血管を無理に血液が流れるように心臓が通常以上に働くことで、肺動脈圧が上昇します。肺動脈圧の上昇が持続すると、肺動脈の壁自体に高い圧がかかり続けることで、肺動脈が傷み、さらに肺動脈が狭くなったり、硬くなったりして、肺動脈圧がさらに高くなるという悪循環に陥ります。
肺高血圧になると、動いたときに息切れがする、疲れやすい、胸痛や動悸がするなどの症状があらわれます。最初に病院を訪れるきっかけとなった症状の中で最も多いものは、動いたときの息切れです。他にも失神発作、咳、血痰等があります。
さらに肺高血圧が進行し右心室が拡張して働きが悪くなると、右心不全、中心静脈圧が上昇して全身のうっ血が起こります。その結果、顔面や下肢のむくみが生じたり、肝臓機能低下、黄疸、食欲低下になることもあります。
肺高血圧症の原因、病態は多岐にわたり、現在、大きく5群に分類されています。分類によって治療内容が異なります。
肺動脈性肺高血圧症
特発性(原因不明)、遺伝性、膠原病、先天性心疾患等に関連し発症する肺動脈の異常に伴い肺動脈圧が上昇します。
患者さんの数は多くはありませんが、早期発見が難しく、比較的若い人に発症し、十分な治療がなされないと数年以内に死亡する難病であり、厚生労働省の指定難病に指定されています。以前は有効な治療法がほとんどなく、治療が極めて困難な時代もありましたが、近年プロスタサイクリン製剤の持続静注療法や他の薬剤の開発により、治療成績が大幅に向上しています。
左心疾患に伴う肺高血圧症
左心疾患に伴う肺高血圧症で左心疾患の原因となる弁膜症や心筋症などを特定し、原因疾患の治療を優先して行います。
肺疾患・低酸素血症に伴う肺高血圧症
呼吸器疾患に伴う肺高血圧症で慢性閉塞性肺疾患や間質性肺疾患などが原因となります。原則、肺疾患の治療が優先されます。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症
器質化した血栓により肺動脈が閉塞、または狭窄することで、肺高血圧症になる疾患で厚生労働省の指定難病に指定されています。
治療としては、生涯にわたる抗凝固療法を継続して行ったうえで、根本治療となりうる外科的肺動脈血栓内膜摘除術が第1選択となりますが、手術不適症例や術後残存もしくは再発の肺高血圧症例には、経皮的バルーン肺動脈形成術や肺血管拡張薬の適応となります。
原因不明・多因子のよる肺高血圧症
血液疾患、全身性疾患、代謝性疾患などに伴う肺高血圧症になります。原則、基礎疾患の治療が優先されます。