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看護師インタビュー〜認知症看護のスペシャリストとして〜

2025/03/14

高齢の患者さんが多く入院する病棟で勤務するようになり、認知症の患者さんが増えていることを肌で感じ、「サポートが必要だ」と認知症看護認定看護師を目指した米田恭子さん。

 

 

救急外来で勤務しながら受験準備をし、2013年に日本赤十字看護大学フロンティアセンター(東京)の認定看護師教育課程(認知症看護認定看護師コース)へ進学、資格を取得しました。今は看護部に所属して、認知症患者さんとその家族のサポートに全力を注いでいます。

 

仕事を離れて自宅に帰れば、愛猫とゆったり過ごしているという米田さんに、どのような勉強をしたのか、現在の仕事内容、専門職として歩んできた道のりを聞きました。

 

新たな学びのために日本赤十字看護大学へ進学されるのは、決心が必要だったと思います。

認知症看護認定看護師を目指した理由は?

病棟で働いていたときに、年々高齢の患者さんが増え、その患者さんの中に認知症を持っている、もしくはそうだろうと思われる患者さんが増加していることに気づきました。今は、当医療センターの入院期間が短くなっていることもあり、関りが持てず、転院先や自宅に帰ってからの生活が、すごく心配になりました。

 

 

ご家族も忙しいことが多かったり、独居の患者さんも増えてきていますし、患者さんおひとりでは難しいケースも増えていました。そんな中で救急外来へ異動し、認知症患者さんとそのご家族が直面する厳しい現実を目の当たりにしました。

 

いろいろな経験をまとめて、1つの例としてお話すると、ご主人が倒れて運ばれてきて、その付き添いで来られた奥さまが認知症を患っていたり、反対に、奥さんが患者さんで、ご主人が認知症の場合もあります。付き添いの奥さんがオムツを履いたまま待合室で待っていて、普段は、ご主人が奥さんの身の回りを世話している場合、ご主人の治療が終わって帰宅できるとなっても、ご主人も弱ってたり、体が不自由だったりするのに、ご夫婦が二人だけで安全に自宅で過ごせるのか、帰った後の生活は大丈夫なのかと想像すると、すごく心配が募ってきました。

 

 

「これは真剣に考えないといけない」と強く感じて、その思いに自分が動かされたことが、認知症看護認定看護師を目指すきっかけになりました。

 

職場を離れることや受験準備に不安はありませんでしたか?

確かに、いくら専門的な知識を身につけて患者さんをサポートしたいと自分自身が思っていても、周囲の理解がなければ、なかなか職場を離れる決心はできません。

 

私の場合は、たまたま上司に認知症看護の教育課程に関心があると話していました。あるとき、上司から資格取得をすすめる声がけがありました。その上司は、若いころに認定看護師資格を取得した人だったので、受験や書類準備などもサポートしてもらえました。

 

 

それでも、資格取得には半年以上、不在にするので、部署でひとり欠員になると、同僚の業務が増えたりするのでは…と心配が拭い去れませんでした。しかし、「行っている間は大丈夫だから」と背中を押してもらえたので、気持ちも楽に、全力で準備に取りかかれました。しかも、後から知ったんですが、資格取得後の配属についても、資格を活かせる部署への配置転換を考えてくれていたり、私個人では難しいことで悩まなくて済むように、レールを敷いてくれました。それがとてもありがたく、安心して進学先へ向かうことができました。

 

認知症看護認定看護師の資格取得の道のりについて教えてください。

一定の実務経験を積んだ上で、教育を受ける学校を受験して合格し、専門の教育課程を半年ほどかけて学びます。修了した上で、試験に合格できれば資格が取得できます。

 

 

まず、勉強するために学校に入るのですが、その受験前は猛勉強の日々でした。これまで看護師としてさまざまな経験をしてきたはずでしたが、勉強することの多さ、働きながら勉強する難しさを痛感しました。

 

学校に合格して、半年の過程を修了し、1月に救急外来へ戻って勤務に復帰。3月から主に整形外科の患者さんが入院する病棟へ異動しました。新しい病棟にも慣れてきた5月に、本試験を受験しました。受験準備から考えると、おおよそ1年ほどを勉強に費やしたと思います。

 

資格取得後、仕事内容は変わりましたか?

整形外科の患者さんが多く入院する病棟に配転となりました。そのため、主にリハビリを行うと同時に、退院後の生活に向けた看護をする病棟です。じっくりと認知症の患者さんと向き合える環境だったので、実践を通じて、患者さん本人の思いをたくさん伺い、対応する力を養えたと思います。

 

その後、専門的な活動をする時間を月のうち2日、午後にもらい、病棟を回って認知症の患者さんの困りごとを聞くようになりました。そのうち、活動を評価いただいて、週に1日、月のうち4日まで増えました。その状態が2年ほど続いた後、認知症ケア加算の新設とともに、「せん妄・認知症ケアチーム」の専任として活動をはじめました。所属は、特定の病棟でなく看護部付となり、週5日フルで認知症の患者さんに接したり、関連する業務を担当し、今に至っています。

 

活動内容については、誰かから指示があったのですか?

チームメンバーの医師や社会福祉士、看護部長や病棟の看護師長らと相談しながら、認知症ケア加算1の要件をもとに、手探りで考えながら動いていきました。

 

当医療センターでは、70才以上の入院患者さんが50%以上を占め、平均在院日数が10日程度となっています。高齢化が進み関われる日数も短い中で、年間約400~500人に対応しています。入院患者さんがメインですが、外来患者さんも対応していて、ご家族もサポートしています。

 

 

認知症者本人も困っているけれど、同じように家族も困っている。だから、両者をつなげるような役割が必要かなと思います。治療を継続していくためには、まず困りごとを解決して療養できる環境を整えないといけないケースもあります。公的サービスを探したり、地域と連携したり、他の病院に電話をかけたり。どんな動きが効率的か、最初はわからないので、動きながら考えました。

 

活動のなかで、気をつけたことは何ですか?

自分一人ではなく、「他職種と連携」すること、そして「地域とも連携」しながらケアを進めることです。公的サービスの利用を促すこと、その公的サービスにも、私が電話をかけて面談を設定したりしてきました。

 

 

はっきりとした筋道が立つように、相談だけではなく、物事が動いていくように、患者さんが実際に生活しやすいように考えてきました。何でも破綻してからだと大変ですから、その手前の段階から寄り添って、ソフトランディングしていくようにしました。その塩梅は、経験とともに磨かれたように思います。

 

また、患者さんの尊厳を守るケアを提供することも大切なので、患者さん本人の意向を確認することにも気をつけています。押しつけるのではなく、しっかり説明して、わかってもらう。患者さんだけでなく、ご家族にも同じように説明し、理解してもらう。そして、全員が笑顔になって、サポートを終わらせることを目標にしています。

 

高齢化社会となり、患者さんも増えそうです。

米田さんに続く人材の育成は、どのように考えていますか?

人材不足は、私も強く感じています。和歌山県内でも認知症看護認定看護師はまだまだ少なく、高齢化の進み方を考えると、今後はもっと必要です。

 

院内で研修や勉強会をしたり、後輩に声がけしてみたりと、育成にも力を入れています。当医療センターでは、専門課程に進学している間も基本給が出ます。認定看護師の資格を取得している人が多いので、専門課程に進む際の不在などに理解があり、職場からのサポートも手厚いと思います。

 

 

認知症専門病院でない民間の病院で、これほど活動時間を潤沢にもらえる環境は、なかなかないと思います。病院から飛び出した地域での活動もある程度認められますし、いろいろな職種と出会い、チームとして活動できます。

志のある人に「資格を取得したい」「当医療センターで一緒に活動したい」と思ってもらえたらいいなと思います。

 

どんな人が、認知症看護に向いていますか?

人のために行動できる人。利己的じゃなくて利他的な人ですかね。

私自身どのくらいできているのかも自信はありませんが、そうでありたいと思い、努力しています。

資格取得や技術を持っているかどうかも大切ですが、まず、人に丁寧に向き合い、優しく、痛みやつらさを想像して対応できる人が向いていると思います。

 

また、認知症看護は相手の状態を知るのに、すごく時間がかかります。粘り強く関わり、じっくりと考えられる人がよいですね。

やりがいのある仕事ですから、もっと多くの人にこの分野の魅力を知ってもらいたいです。若い時に、資格取得するのもいいと思います。柔軟な思考で、新しい認知症ケアを生み出してもらいたいです。

 

 

最後にメッセージをお願いします。

認知症は今のところ完治せず、進行する病気ですが、早期に診断や適切なケアを受け、社会とのつながりを持続できれば、患者さんの生活の質を維持することができると考えています。それにはマンパワーが必要で、「三人寄れば文殊の知恵」ではないですが、複数人になることで、さらに良い認知症看護ができると考えています。

 

当医療センターでは、各部署に1名以上の認知症看護リンクナースを配置し、短い入院期間で個別性のある看護ができるよう努めています。また、せん妄対策などのチーム医療にも携わっていますから、年々、必要性が増しています。何人でも増えてほしいですね。

私と一緒に認知症看護をやっていこうと、手を挙げてくれる人がいると嬉しいです。

 

 

米田 恭子(よねだ きょうこ)

看護係長。認知症看護認定看護師。

家事の中では掃除が好きです。休日は掃除したり、猫と遊んだりしてリフレッシュしています。

雑貨屋めぐりなど、ウインドウショッピングを楽しむこともあります。

 

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