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日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。
2023/03/23
日赤和歌山医療センターには、脳や脊髄、末梢神経、筋肉の病気を内科的なアプローチで治療する脳神経内科があります。以前は神経内科と標榜していましたが、2018年9月から日本神経学会が診療科名を変更したことに伴い、当医療センターでも名称を変更しました。
当医療センターの脳神経内科は、常勤の神経内科専門医が複数名いる和歌山県下では数少ない施設であるため、基幹病院の1つとして、慢性疾患だけでなく希少疾患まで幅広く受け入れています。代表的な疾患として認知症やパーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)が知られていますが、患者さんは、頭痛や目まい、体のしびれ、物忘れなど様々な症状を訴え、受診されます。
今回は、高齢化の影響で患者数が増加している認知症について、症状や診察・診断、治療など、4回にわたり山下 博史 脳神経内科部長に伺います(このシリーズは、全5回)。
認知症は物忘れ症状がでる病気ですが、その初期症状は時々何かを忘れてしまっていることがある、少しできないことが出てくるといった軽微な変化です。「あの人の名前は何だったかな」といった程度の物忘れは誰にでもありますから、症状が出始めてすぐは、加齢による物忘れか、認知症によるものかを判断するのは難しいです。
記憶が抜け落ちるのが代表的な症状
コンスタントに物忘れの症状が出てきた、記憶がすっぽりと抜け落ちるようになったとなれば、認知症の診断ができます。
認知症は新たな物事を記憶することができなくなってくるので、家事や買い物など日常生活の中で習慣化していることはできるけれど、昨日今日に食べたものをすっかり忘れた、契約などの手続きができなくなった、今さっきの出来事が全く記憶されておらず、ヒントをもらっても分からないなどの症状が出てきたら、診察を受けるタイミングかもしれません。定期的に物忘れが出てくると感じたら、本人でもご家族でも日々の変化を記録しておくと、診断にもつながりやすくなります。
幻覚や幻聴に悩まされる場合も
認知症の症状として、幻覚・幻聴・妄想などを思い浮かべることはないかもしれませんが、実は患者さんからよく聞く症状です。
幻覚は、アルツハイマー型認知症でもみられますし、パーキンソンを合併しているレビー小体型認知症には、特に多い傾向です。例えば、いるはずのない子どもや動物が見えるという患者さんがいます。人が喋っているのが聞こえる幻聴や、ものを盗られたと思い込む被害妄想が出てくることもあります。
興奮する、暴力をふるうことも
時折、すごく興奮して暴れたり、暴力をふるうようになったりする患者さんがいます。感情をコントロールできずに、昂って暴力的になってしまうようです。
ご家族も高齢だと対応が大変ですから、当科では症状を緩和するための薬を処方したり、時には精神科や心療内科をご紹介し、感情コントロールの専門的なサポートを受けていただくこともあります。
認知症患者さんの傾向
国内では、現在600〜700万人程度が認知症だと推定されていますが、高齢化に伴い、認知症患者さんも年々増加傾向にあります。
当科へ来られる患者さんの場合、1〜2年前から物忘れが多くなってきた、仕事や生活がこれまで通りできなくなってきたとおっしゃる人が多いです。症状が進行していると本人もご家族も気づいているので、何だかおかしいなと思い始めて1〜2年経っているという状態です。男女比に大きな違いはなくて、年齢は70歳以降が多いです。
ただ、若年でも遺伝性の病気から物忘れ症状が出ることもあり、年齢だけでは判断できません。アルツハイマー型認知症の場合は、本人には自覚がなくご家族だけが気づいていて、ご家族が患者さんを連れて「1〜2年前から物忘れがあるんです」と診察に来られるケースがほとんどです。本人が大丈夫といっても、ご家族がおかしいなと思ったら、まずは、かかりつけ医の診察時に「物忘れがあるようなんですが・・・」と相談してみてください。
他にも、甲状腺ホルモンの低下、ビタミン不足、肝臓機能の低下、さらには、うつ病に由来する認知症もあります。また、画像診断で、脳腫瘍や脳出血が見つかったり、水頭症などが物忘れ症状を引き起こしていることもあります。
認知症は、様々な要因から時間の経過とともに表れる病気なので、本人もしくはご家族が変化を感じ取ったら、物忘れくらい大丈夫だろうと思わず、受診を検討してみてください。
山下 博史(やました ひろふみ)
日本神経学会神経内科専門医・指導医。京都大学医学部臨床教授。
趣味は、サイクリング、クラッシック音楽の鑑賞、ワインを楽しむことです。好きな音楽家は、ベートーヴェン。
認知症を知ろう① 認知症かもと思ったら…(2023年3月23日公開) ←今回