日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

認知症を知ろう③ 認知症の治療

2023/05/25

日赤和歌山医療センターの脳神経内科は、2023(令和5)年5月現在、常勤の医師4人に加え、外来の一部を非常勤医師に応援してもらう体制で、外来・入院を合わせて多くの患者さんを診療しています。

 

 

患者さんが多いのは、有病率の高い認知症とパーキンソン病の2つですが、地域で診断や治療が困難な難病の患者さんも積極的に受け入れ、希少疾患などにも対応しています。

 

認知症を知ろう①認知症を知ろう②に続き、診察と検査で認知症と診断された後の治療について、山下 博史 脳神経内科部長に伺います。

 

 

認知症の代表的なものはアルツハイマー型認知症ですが、それ以外にも様々な原因によって物忘れ症状が出てくる病気ですので、その原因を明らかにすることが最も大切です。原因によって治療法や対応方法が異なります。

 

認知症の治療

認知症は進行性の病気で、時間の経過とともに症状が悪化します。認知症には、アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型など幾つかの種類があります。現在、根本的な治療法がないため、完治することはない慢性的な病気です。投薬によって適切に治療すれば、症状を緩和することが期待できます。

 

 

アルツハイマー型認知症の治療

患者さんの数が一番多い認知症は、アルツハイマー型認知症です。この病気に対しては、大きく2種類の薬があります。コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬です。

 

一般的に、コリンエステラーゼ阻害薬から投薬することが多いです。この薬は、病気によって減ってしまった神経伝達物質のアセチルコリンを増やしてくれるので、人によっては行動が改善して生活がしやすくなる場合があります。ただ、食欲不振や嘔気・嘔吐などの消化管症状の副作用が出ることもあるので、様子をみて薬を変更することもあります。また、コリンエステラーゼ阻害薬は心臓にも影響するため、ある種の不整脈をお持ちの患者さんには、病状を悪化させる可能性があるので、使用を控えます。

 

 

このように、心臓や胃腸などの疾患がないか、他の疾患による薬の飲み合わせなど総合的に判断するので、診察にはおくすり手帳を必ずご持参ください。大きな病気や手術などの既往歴がわかるメモなども持参いただけると、より良いです。もし、本人が説明できなかったり難しい場合は、ご家族も一緒に診察に来ていただくと安心です。

 

また、当医療センターでは、基本的に外来での治療となります。入院した場合には、環境が変わることによるストレスなどによって、せん妄(興奮して夜に眠れず昼夜が逆転したり、自分の現状が分からなくなったりする一時的な意識障害)になる可能性があるためです。

 

 

認知症以外に原因のある場合の治療

診察や検査で原因が診断できれば、すぐに適切な治療に進めます。原因が取り除かれれば、認知症のような症状が改善する可能性もあります。

 

 

甲状腺の機能が低下しているのであれば糖尿病・内分泌内科、脳の出血がわかれば手術のため脳神経外科へ紹介します。水頭症という脳に水が溜まる病気が原因なら、髄液を逃がす手術であるシャント術を行う必要があるため、こちらも脳神経外科に紹介します。うつ病に由来していると場合は、精神科または心療内科に紹介します。

 

極めて少ないですが、交通事故など外傷性のものから認知症のような症状がでることもありますし、遺伝性の病気が原因であることもあります。

 

当科では、画像や血液の検査をはじめ全身をみて診断しています。症状によって他の診療科を紹介したり、通院しやすい地元の医院に逆紹介という形で治療を引き継いだりと、適切な治療のために、できる限り柔軟な対応を心がけています。

 

認知症と診断されることは受け入れられないと考える方もいらっしゃるかもしれません。診察を受けてみると、認知症でなく改善できる病気かもしれません。まだ認知症でなく、認知症の一歩手前である軽度認知障害(MCI)と診断されるかもしれません。ご自身の長い人生を少しでも快適に送るために、現状を知っておくことは大切だと思います。診断は、神経内科専門医のいる医療機関を受診いただくことをお勧めします。

 

山下 博史(やました ひろふみ)

日本神経学会神経内科専門医・指導医。京都大学医学部臨床教授。

趣味は、サイクリング、クラッシック音楽の鑑賞、ワインを楽しむことです。好きな音楽家は、ベートーヴェン。

 

 

認知症を知ろう① 認知症かもと思ったら…(2023年3月23日公開)
認知症を知ろう② 認知症の診察と内容(2023年4月20日公開) 
認知症を知ろう③ 認知症の治療(2023年5月25日公開)→今回
認知症を知ろう④ 認知症の予防(2023年6月22日公開)
認知症を知ろう⑤ 認知症の方に接するとき(2023年7月20日公開)

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