日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

糖尿病⑤ 予防のヒントと次世代へのバトン

2025/03/20

日赤和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部は、糖尿病・内分泌内科医、糖尿病療養看護師、薬剤部糖尿病チーム薬剤師、管理栄養士らがチームで一丸となって患者さんの健康を守るお手伝いをしています。

 

糖尿病予防には栄養バランスの良い食事を13食、規則正しく食べることが大切です。日本糖尿病学会の委員として自ら「食と健康」に関する情報を発信しつつ、小中学校への出前授業や教員へ健康教育を広げる活動にも携わる金子先生に、糖尿病を含む病気予防のヒントと次世代へつなげる思いを聞きました。

 

 

1型糖尿病ではインスリン治療は命をつなぐために欠かせないものですが、25年ほど前までは、2型糖尿病においてもインスリン注射をはじめると、生涯やめられないと考えられていました。しかし、無理やり飲み薬を飲み続けるのでなく、糖尿病の早い段階でインスリン注射を行い、外からインスリンを補ってあげることで膵臓にあるインスリンを作る細胞を休ませてあげると、この細胞が元気を取り戻し機能が復活し、インスリン投与を中止できる治療が、20年ほど前から行われています。

 

とはいえ、まずは糖尿病にならないよう日々の生活習慣を整え、予防することが最良の治療です。そのためには、基礎的な知識をもって、いろんな場面で知恵を使うことがコツとなります。特別なダイエットや過度な運動、極端な食生活をするのではなく、日常的に小さな工夫の積み重ねることが大きな効果となります。

 

朝ごはんを食べ、運動を取り入れましょう

まず、13食を規則正しく食べることが基本です。第1で、朝昼晩できるだけ決まった時間に食事する大切さを話しました。そして、第2回では食材に目を向け、何をどのように食べるか考えましょうと呼びかけました。第3回では、一定量の炭水化物を食べることで全身の細胞にエネルギーを提供し、血糖値も安定することを話しました。

 

インスリンを作り出す細胞も生きている限り、老化現象で弱っていきます。朝食を抜いたり、夜中に食べたりといった不規則な食生活を続けると、インスリン分泌のパターンが狂ってしまったり、血糖値が急上昇したりして、これが継続すると体が記憶し、もとの健全な状態戻れなくなります。また、このインスリン分泌のパターンが狂うことで食欲が止まらず、食べ過ぎが常態化して膵臓のインスリンを作る細胞を加速的に弱らせてしまい糖尿病のリスクを高めます。

 

食事と食事の間に、適度な「空腹時間」を設けると、インスリン分泌が落ち着き、インスリンとは逆の空腹時にでるべきホルモンもしっかり分泌されて、メリハリのついた体内のホルモン分泌パターンが保たれます。朝食を摂ることで、就寝時のホルモンバランスを日中のパターンに切り替え、その結果、1日の血糖値を安定させることにつながるので、まず「朝食を食べる」ことを意識しましょう。無理せずに食べられるものを用意し、朝食を楽しみながら、規則正しい食事リズムができるとよいですね。前の晩に少し残しておいて、手抜きでもいいでしょう。

 

 

1つの例として私の朝食をご紹介します。小麦粉・塩・酵母だけで作られた食パン6枚切りを1枚とコーヒーを基本にしています。パンが大好きなので、食材を厳選して食べています。薄くバターを塗ったり、たまの楽しみとしてハチミツを塗ることもあります。菓子パンは食べません。菓子パンは、パンとは言うものの血糖値上昇の観点からみると、ケーキと同じです。バターたっぷりのパンより菓子パンの方が良いというのは誤った考えなのです。また、「パンや甘いものなどを絶対に食べない」とはせず、好きな食材をうまく適量を取り入れ、食生活の満足度と健康を両立できるように心がけています。

 

そして、運動についてです。ジムに通うような激しい運動ではなく、むしろ軽い運動を食後45分ぐらいに10~15分程度取り入れることが糖尿病予防に効果的です。理想的なのは15分程度の散歩やラジオ体操など、筋肉が動いて強度が軽い運動です。時間がない時は5分でもよいので、覚えておいてください。

 

診察で「運動しましょう」というと、皆さん「歩きます!」とおっしゃってくださるのですが、暑い時期や寒い時期、雨の日など続かなくなる人も多いです。歩くだけが運動ではなく、筋肉を曲げたり伸ばしたりすれば効果が出ます。

 

 

たとえば、ショッピングモールでウインドウショッピングをしながら歩いたり、カラオケを大きな声で振付をつけて歌ったりすることも運動です。笑うこともおなかの筋肉を動かします。食後に車を洗ったり、庭の剪定をされた後は良い血糖値になっているのを見ますが、これは楽しみながら筋肉の曲げ伸ばしを行っているからだ、と想像します。運動しなければ!と気負わず、楽しみながら体を動かしてみてください。長続きの秘訣です。

 

食事内容を変えるのは、自分の体を知ってから

健康的な食生活にしようとしたときに、何をどのくらい食べると良いのか、食べられるのかは、人それぞれです。年齢、性別、身長などの体格、生活での活動量でも変わります。その人の体質が影響することもあります。

 

血圧が高いと、塩分を控えましょうと言われると思います。

それと同様に、腎臓の機能が低下していたら、タンパク質を一度に大量に食べることは好ましくありません。野菜や果物が身体にいいと言われていますが、腎臓が悪いと、野菜や果物をしっかり食べている場合は、野菜を湯でこぼして、カリウムを減らして食べることを勧められる場合もあります。年齢を重ねると、脂っこいものや大量の食事も胃に負担をかけるので、バランス良く適量を食べるようにしていきます。

 

では、自分がどんな食事をすると健康を維持できるのでしょうか?

ぜひ、健康診断を活用してみてください。健康診断の結果が届いたら、体重は増えていないか? 血圧は高いか? コレステロール値はどうか? 胃の調子は? 便秘・下痢をしていないか? 心電図に異常はないか? 血糖値は? 尿に問題はないか? 自分の体を知るヒントが、たくさんあります。

 

 

毎年、健康診断を受けているなら、数値の変化から傾向も分かります。標準値や基準値と比べて、逸脱しているところから見直しましょう。かかりつけの医師がいれば、相談に乗ってくれるでしょう。どの臓器を注意したらよいか、あるいは治療が必要か、どのような体質傾向があるのか聞けるでしょう。

 

栄養相談を勧められた場合は、ぜひ受けてみてください。目から鱗の知識・知恵が得られる場合も多いです。また、健康食品によって病気になってしまったり、病気を悪化させることもありますので、自己判断で健康食品などを購入する前に、相談してみてください。

 

健康診断の結果によっては、保健師・看護師などの保健指導や健康相談を受けられる場合もあります。「忙しいから」「面倒くさいから」と放っておかずに、生活習慣の見直してみてください。もちろん、再検査が必要だったり、病気を疑う結果がある場合は、できるだけ早く受診することは言うまでもありません。

 

第1回でも述べた他の病気との関係について、繰り返しになりますが、糖尿病をお持ちの人のがん死亡率は健常な人に比べて高いので、定期的な健康診断を受けることを強く勧めます。

 

子どもの食生活に影響する親の意識

第4で若年女性の痩せについてお話したように、大人たちの意識・社会の風潮が、子どもたちに大きく影響します。手軽だからと、食事と一緒にジュースを安易に与えたり、ペットボトルの甘い飲料を飲むことが習慣になれば、ペットボトル症候群という血糖値が常に高い状態が続き、若くして糖尿病を発症させるにとどまらず、命の危険な状態にまで至ることもあります。

 

 

日本では、給食で基本的な栄養素を知ったり、バランスよく食べる習慣が身についたり、米飯・肉や魚のおかず・野菜のおかず・味噌汁などがセットになった定食スタイルが浸透していたり、季節ごとに豊富な食材が手に入ったりするので、まずは、子供を取り巻く大人が、健康によい食事を意識して手本をみせ、実践することが大切です。

 

日々の積み重ねによって、体によい食習慣や健康意識が子ども世代に引きつがれ、次世代の健康を守る基盤となることを願っています。まずは、ご自身の生活を見直し、ご両親や子どもなど大切な人の健康を気遣い、孫や次世代の健康へも目を向けていただけると幸いです。

 

ここまで、5回にわたる連載をお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

金子 至寿佳(かねこ しずか

日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年医学会老年科専門医・指導医。

美術館めぐりが趣味の1つです。特に、エコール・ド・パリ画家のひとりアメデオ・モディリアーニと、20世紀モダニズム彫刻家と言われるアルベルト・ジャコメッティが好きです。

 

糖尿病① 糖尿病の仕組みと予防(11月21日公開)
糖尿病② 日々の食事と体のつながり(12月19日公開)
糖尿病③ 食の流行がもたらす問題点(2025年1月16日公開)
糖尿病④ 痩せ信仰と糖尿病リスク(2025年2月20日公開)
糖尿病⑤ 予防のヒントと次世代へのバトン(2025年3月20日公開)←今回

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