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『終末期だけでない緩和ケア!』当医療センターで行っている早期からの緩和ケアについて、様々な職種の関わりをご紹介します。
2025/08/13
緩和ケアを知ると、入院中でも、病気を抱えながらの生活においても、痛みやつらさが和らいだ状態で過ごしていただけるはず・・・。当医療センターで行われている緩和ケアをご紹介する、こちらの連載。
今回は、「緩和的放射線治療(緩和照射)」について説明していきます。
がん治療では、「がんを治すこと」と同じくらい「がんのつらい症状をやわらげること」も重要です。後者が「がんの緩和ケア・緩和治療」になります。
がんが進行して治すことが難しくなった段階に行われることが多いようですが、苦痛が強いので先に緩和治療を行う、治療と並行して緩和ケアも行うこともあります。
「緩和的放射線治療」とは、がんの完治を目的とせず、がんによる症状を楽にする目的で行う放射線治療です。もっと短く「緩和照射」ということも多いです。ちなみに、がんを完治させる目的で行う放射線治療は「根治的放射線治療(根治照射)」と言います。
まずは、どんなときに緩和照射が使われるのか、いくつか説明しましょう。
1.骨転移
「骨転移への放射線治療」は、緩和照射の代表選手です。
がんが進行して骨に転移すると、骨が破壊されることで痛みが出てきます。骨折して歩けなくなったり、背骨の転移では神経を圧迫して下半身麻痺が出たりすることもあります。
骨転移に緩和照射を行うと、痛みの軽減、骨折の予防、麻痺の予防などが可能です (もちろん、がんの進行度や治療のタイミングによって、100%有効というわけではありません)。がんの状況にもよりますが、骨転移が見つかれば「緩和照射できないだろうか?」と、一度は考えていただきたいです。
2.がんによる痛み
骨転移ほど多用されませんが、がんが筋肉や内臓に及んで痛みが強くなった場合、これも緩和照射で痛みを弱められることがあります。鎮痛剤を使った方がよいことも多いので、一人ひとりの状況に応じて検討しています。

3.「管」が狭くなったところを広げる
肺に空気を届ける「気管」、食べ物が通る「食道」、血液が通る「大血管」などの「管」が、がんのために狭くなって症状が出ている場合、緩和照射で狭くなった管を広げて、症状を軽減できることがあります。他の治療を行った場合の効果と比べながら、検討してみる価値のある治療です。
4.がんからの出血を抑える
胃腸や気管支、膀胱などのがんで出血が続いて、輸血を繰り返す患者さんがいます。放射線治療には出血しているがんの血管を塞ぐ効果があり、緩和照射で出血量を減らせます。一時的に、輸血が不要になる患者さんもいます。
これらの緩和照射は、がんを完治させる治療ではないので、いつかはまた病状が悪くなりますが、今、目の前で患者さんが抱えているつらい症状を数ヵ月程度、楽にできる可能性があります。
治療期間は1日~2週間程度の場合が多く、比較的短期間で、通院で治療できることも利点です。がんの状況や症状によっては、緩和照射より別の治療が推奨される場合もあります。治療期間を含めて、放射線治療医への確認が必要です。
緩和照射が効く実感がないから、放射線治療(緩和照射)ができる病院に患者さんを紹介しない
↓
紹介しないから、緩和照射を受ける患者さんが増えない
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患者さんが増えないから、緩和照射を受けた患者さんを診察する機会がないと、悪循環になっています。

緩和照射の代表である骨転移への緩和照射では、患者さんの6~7割で痛みが軽減したと実感され、主治医の先生にとっても効き目が分かりやすい治療です。しかし、骨転移に緩和照射が有効だということを知らない先生も、まだまだおられます。もっと緩和照射が使われる世の中になって欲しいと願っています。
さて、このように、がんによるさまざまなつらい症状を取るのに、緩和照射はとても役に立つのですが、患者さん・ご家族に説明すると、このような質問をよく受けます。
「こんなにがんが進んで体力が落ちているのに、高齢で強い治療も受けられないのに、緩和照射の放射線なんて耐えられるんですか?」という質問です。
実は、「緩和的放射線治療(緩和照射)なら、患者さんの体が弱っていても治療できる」「体力が落ちているからこそ、放射線治療を選ぶ」のです。
これもまた、広く理解されていないことの1つです。
なぜ、体が弱っていても緩和照射は可能なのでしょう?
次回は、体が弱っていても受けられる「緩和照射」について、ご紹介します。
根來 慶春(ねごろ よしはる)
放射線治療科部長。
日本医学放射線学会放射線治療専門医、医学博士。
好きなことは、パソコンをいじること。好きな食べ物は、お箸が立って倒れないような濃厚ラーメンです。