『終末期だけでない緩和ケア!』当医療センターで行っている早期からの緩和ケアについて、様々な職種の関わりをご紹介します。

体力が落ちていても可能な「緩和照射」

2025/09/10

緩和ケアを知ると、入院中でも、病気を抱えながらの生活においても、痛みやつらさが和らいだ状態で過ごしていただけるはず・・・。当医療センターで行われている緩和ケアをご紹介する、こちらの連載。

今回も、放射線治療科の根來部長に、「緩和照射」について詳しく説明いただきます。

 

前回、緩和照射(緩和的放射線治療)は、様々ながんのつらい症状をやわらげられるが、まだまだ活用されていないことを説明しました。

 

理由はいろいろあるのですが、その1つが「こんなにがんが進んで体力が落ちているのに、高齢で強い治療も受けられないのに、緩和照射なんて耐えられるんですか?」という疑問です。

 

もっともな疑問です。

がんが進行した患者さんは、主治医の先生から、こんな説明を受けることがあるかもしれません。「あなたのがんは進行しているので、手術には向きません。高齢で体も弱っているので、抗がん剤治療は体力が持ちません」と。

 

なのに、「痛みをとるために放射線治療(緩和照射)を受けてきなさい」と言われる。「放射線治療(緩和照射)だって、体力が持たないのでは?」と不安になりますよね。

 

 

実は、緩和照射なら体力的に大きな負担になりません。

90才を超えていても可能です。なぜなら「根治的放射線治療(根治照射)」と「緩和的放射線治療(緩和照射)」は、全く違う治療だからです。

 

もう少し詳しく説明します。

根治照射の目的は、「体の中のがん細胞を全滅させる」ことです。

 

全滅させるには、放射線の量をたくさん照射します。がん細胞のかたまりを治療しても、目に見えない周辺の小さながんを逃がしてしまうので、放射線を少し広い範囲に当てます。進行がんでは、放射線治療だけではがんが残ってしまうことがあるので、抗がん剤も組み合わせて使うことが多いです。

 

放射線をたくさん、広く、抗がん剤と一緒に使うと、有害事象(副作用)は強くなります。がんが完治するなら、辛くても頑張ってもらう作戦です。体調が悪かったり、高齢だったりすると、有害事象(副作用)が強くてできない場合もあります。放射線治療のイメージは、この根治照射のものです。

 

緩和照射の目的は、「がんの症状を楽にする」ことです。楽にできれば、がん細胞が残っていても成功です。

 

がんを全滅させなくてよいなら、放射線の量は少なくできます。すべてのがんでなく、症状の原因になる部分だけに狭く照射します。特段の必要がなければ、抗がん剤を一緒に使うこともありません。根治照射と比べれば、少なく、狭く、抗がん剤も使わないので、有害事象(副作用)はぐっと小さくなります

 

 

緩和照射に必要な放射線の量は、本当に少ないです。がんと患者さんの状態によって変わりますが、根治照射の量の1/2~1/10、平均で 1/3くらいでしょうか? これくらいの放射線量だと、有害事象(副作用)が強く出る前に治療が終わってしまいます。

 

実は、放射線治療を専門にしている私にとっても、こんなに少ない放射線量で緩和照射ができるのは驚きです。昔は「全滅は諦めても、かなりのがんをやっつけなければ、症状はよくならない」と考えていました。ところが、いろいろな研究によって、ずっと少ない放射線量でもつらい症状を軽減できることがわかってきました。

 

まず、手術から説明します。胃がんの手術で胃を全部取るのでなく、胃を1/10だけ切り取るとします。全身麻酔をかけて、お腹を切ると、体の負担は1/10では済みません。

抗がん剤の有害事象(副作用)を減らすために、薬剤の量を1/3にしたとします。ここまで減らすと、あまり効き目がなくなります。抗がん剤の手加減も難しいのです。

 

 

これらに比べて放射線治療なら、「痛みを引き起こしている『ここ』だけ」に狭く照射すれば、ダメージが出るのは『そこ』だけです。こんなに都合よく手加減できるのは、放射線治療だけと言えます。

 

放射線治療は、強く使えば「がんの完治」にも役立つし、手加減すれば「体力的負担を避けて、つらい症状を楽にする」にも役立ちます。病状に合わせて融通のきく治療法です。ところが日本では、欧米はもとより、日本以外の東南アジアと比べても、放射線治療の利用率が低いです。

 

もちろん、がんのつらい症状すべてを、緩和照射で取り除けるわけではありません。特に体中にがんが広がっている状態は苦手です。しかし、「あなたの病状に、放射線治療が向いているのに使わない」のであれば、もったいないと思います。

 

緩和照射は、放射線治療の大切な役目の1つです。主治医の先生に「放射線治療科に行ってきて」と言われても、怖がらずに、まずは相談にお越しください。

説明を聞くだけ、相談するだけとなっても歓迎です。お待ちしています。

 

 

次回は、がん治療中のリハビリや、痛みの緩和にもなるリハビリについてご紹介します。

 

 

根來 慶春(ねごろ よしはる)

放射線治療科部長。

日本医学放射線学会放射線治療専門医、医学博士。

好きなことは、パソコンをいじること。好きな食べ物は、お箸が立って倒れないような濃厚ラーメンです。

詳しくはこちら

日本赤十字社 和歌山医療センター病院サイトはこちら

Share

この記事を気に入ったならシェアしよう!