日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

糖尿病① 糖尿病の仕組みと予防

2024/11/21

日赤和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部は、糖尿病・内分泌内科医、糖尿病療養看護師、薬剤部糖尿病チーム薬剤師、管理栄養士らがチーム一丸となって患者さんの健康を守るお手伝いをしています。

 

日本糖尿病学会の委員として、自ら健康情報を発信しつつ、小中学校への出前授業、教員への健康教育を広げる活動など、疾患予防の重要性を説く金子 至寿佳(かねこ しずか)先生に、「糖尿病」をメインテーマに据え、5回にわたり体の基礎知識や予防法、食生活改善のヒントなどを聞きました。

 

 

皆さん、こんにちは。

20234月から糖尿病・内分泌内科部長に着任した金子です。

 

私は、糖尿病など生活習慣病の予防を中心に、健康に生活し続けるための情報、「生きる力」につながる知恵を発信することも自身に与えられた役目だと感じています。この連載を通して、少しでも役に立つ情報、特に食生活について、お伝えできたらと思っています。

 

それでは、まず、専門である糖尿病について解説していきます。

 

糖尿病は、「血液中のブドウ糖の量が多すぎる状態」で「体内で血糖値を調整する仕組みが、うまく働かなくなってしまう状態」です。口から入れた食べ物は、ブドウ糖に分解されて小腸から血液内に入ります。ブドウ糖を取り込んだ血液は肝臓に向かって流れ、膵臓の裏側を通るときにインスリンというホルモンが血液中に分泌されます。そして、ブドウ糖とインスリンは一緒に肝臓に流れていき、このインスリンがブドウ糖を肝臓の細胞に押し込みます。こうして血管内に取り込まれたブドウ糖の約50%が肝臓に入ります。

 

次に、血液中に残ったブドウ糖は、食べはじめてから45分後に筋肉や脂肪の細胞に到達します。運動をしていれば、筋肉を伸ばしたり縮めたりした刺激で筋肉細胞がブドウ糖を吸い上げてくれるため、血管内のブドウ糖濃度は下がります。しかし、インスリンの量が不足していたり、その働きが悪くなったりすると、肝細胞や筋肉細胞の中に押し込むことができず、血液中の血糖値が高い状態が続いてしまいます。

 

 

血管は、水道管のように体に水分と栄養を届ける役目をしています。水道管が経年劣化や付着物で錆びてしまうように、血管も血糖値が高い状態が続くと、錆のような不具合が生じます。その結果、他の病気の治療の妨げとなることが多々あります。

 

たとえば、がんや免疫疾患など多くの病気の治療でステロイドを使用しますが、これは血糖値を上昇させる作用もあります。糖尿病の患者さんは血糖を下げるインスリンの力が弱まっているため、血糖コントロールが通常より難しくなり、それに伴って元々の治療が困難になります。

 

また、高血糖状態では全身のブドウ糖濃度が高いため、細菌にとってたくさんの餌があり増殖しやすい状態です。白血球の働きで感染症を予防したり、治したりするのですが、血糖値が高い環境で育った白血球は感染している場所まで集まることも、菌を退治することもできません。こうして体内に侵入した細菌を排除できないため、感染が重症化したり、感染症にかかるリスクが上昇したりします。

 

日常生活を送っていると、結核、細菌性の腸炎、尿路感染症などさまざま菌による病気になる可能性があります。感染症の予防に努めると同時に、普段から血糖値を意識すること、予防、早期発見が大切です。

 

糖尿病が発症する仕組み

もう少し、詳しく糖尿病について解説しましょう。

まず、糖尿病になってしまう仕組みについてです。

 

食べ物を摂取すると、その栄養素は消化管を経て血液中に吸収され、最終的にブドウ糖として体内を循環します。このブドウ糖を肝臓や筋肉の細胞内に押し込むのに必要なのが、インスリンと呼ばれるホルモンです。

 

 

このインスリンの分泌が低下したり、あるいは、インスリンに対する体の反応が鈍くなること、すなわちインスリンの作用不足が糖尿病の原因です。インスリンを出す細胞の数は、10才ごろをピークに徐々に減っていきます。その減り方が50%を切ると、糖尿病と診断されますが、多くの人がその手前、予備軍の状態にあります。その他の原因に、インスリンを作り出す細胞を壊すたんぱく質ができたり(1型糖尿病)、遺伝子によるもの、妊娠して胎盤から出るホルモンの影響によるものもあります。

 

生活習慣から発症する糖尿病は、食事が不規則になると、インスリンが適正に分泌されなくなって血糖値が急上昇したり、逆に急降下したりするグルコーススパイクという状態となります。これを繰り返すと、最終的に発症してしまいます。睡眠不足が続くことでもインスリンの作用不足が起こることが分かっています

 

糖尿病の予防 

糖尿病を予防する方法の1は、「この時間になったら、食べ物が入ってくるのだ」と、規則正しい食生活のリズムを体に記憶させることです。

13回、バランスの良い食事を適度な量を食べて、そして、おなかがすく時間も作り習慣化します。

 

 

こうして、グルコーススパイクと呼ばれる血糖値の急上昇や急降下を防ぐと、若年層や働き盛りの世代での糖尿病の発症を遅らせられます。

 

食事以外には、軽い運動を日常生活に取り入れることが血糖値の安定に効果的です。小腸から血管に入ったブドウ糖のうち肝臓に取り込まれなかったものが、食べ始めから45分後に筋肉や脂肪の近辺の血管に到達します。

 

ですから食事開始後45分ごろに、軽い筋肉を曲げ伸ばしする運動をすることをお勧めします。運動をするタイミングも大切なのです。このタイミングで筋肉を曲げ伸ばしすると、たった5分程度の運動でも、ブドウ糖を効率よく筋肉に取り込むことができ、血糖値の急上昇を抑える効果が期待できます。

 

 

ジムに入会したり、長時間歩いたり、走ったりするような特別な運動は必要なく、その場でストレッチや足踏みをしたり、掃除などの家事をしても運動になります。「運動しなければ」とストレスに感じながらイヤイヤするよりも、ウインドウショッピングをしたり、音楽を聴きながら体を動かしたり、自家用車を洗ったり、ガーデニングをしたり、楽しい気持ちでする方がより効果が高いことも分かっています。

 

糖尿病予防は、お話ししたようなことをコツコツ続けることが大切です。

毎日の心がけが、将来の自分を変えていきます。生活の中で「自分でもできそうなこと」を探し、実践してみてください。

 

次回は、食事と体のつながりについてお話します。

 

 

金子 至寿佳(かねこ しずか

日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年医学会老年科専門医・指導医。

美術館めぐりが趣味の1つです。特に、エコール・ド・パリ画家のひとりアメデオ・モディリアーニと、20世紀モダニズム彫刻家と言われるアルベルト・ジャコメッティが好きです。

 

 

糖尿病① 糖尿病の仕組みと予防(11月21日公開)←今回
糖尿病② 日々の食事と体のつながり(12月19日公開)
糖尿病③ 食の流行がもたらす問題点(2025年1月16日公開)
糖尿病④ 痩せ信仰と糖尿病リスク(2025年2月20日公開)
糖尿病⑤ 予防のヒントと次世代へのバトン(2025年3月20日公開)

 

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