日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

糖尿病② 日々の食事と体のつながり

2024/12/19

日赤和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部は、糖尿病・内分泌内科医、糖尿病療養看護師、薬剤部糖尿病チーム薬剤師、管理栄養士らがチーム一丸となって、患者さんの健康を守るお手伝いをしています。

 

糖尿病予防には栄養バランスの良い食事を1日3食、規則正しく食べることが大切です。日本糖尿病学会の委員として自ら「食と健康」に関する情報を発信しつつ、小中学校への出前授業や教員へ健康教育を広げる活動にも携わる金子先生に、忙しい現代社会ではなかなか難しいバランスの良い食事の重要性について話を聞きました。

 

 

前回、糖尿病の予防には食事のリズムや食後の軽い運動が大切だとお話しました。

一般的には、毎日3回食事の時間がやってきます。作るのも、食べるものを考えるのも、なかなか大変ですね。ですが、食事は私たちの体を作り、健康を支える大切な要素です。

 

現代では、この「食べ物が体を作る」という本質が、忘れ去られているのではないかと感じることがあります。便利さを優先した食品が広がり、内容ではなく、手軽さをうたった超加工食品を利用する機会が増えていると思いませんか?

実は、食材をシンプルに調理するほど血糖値的には良いことをお伝えしたいと思います。

 

 

菓子類・ファーストフード・加工食品・清涼飲料水などを口にすると、血糖が急上昇します。そうすると、血糖値を下げようとインスリン分泌が活発になります。このような食べ物を大量に食べ続けると、自らの膵臓から作られるインスリンで血糖を維持する機能が徐々に低下し、最期には膵臓のインスリンを作る細胞が疲れてしまい、必要量のインスリンを分泌できなくなり、糖尿病を発症します。

 

また、筋肉が伸び縮みすることで、糖がインスリンによって血管内から筋肉内に取り込まれ血糖値が下がりますが、体を動かすことが少ないと、糖を取り込むことが少なくなり、インスリンが筋肉に糖を押し込むときの負荷が大きくなり、たくさんのインスリンを作り出さなければなりません(これをインスリン抵抗状態と言います)。これもインスリンを作る細胞が疲れる原因となり、最終的には必要量のインスリンを分泌できなくなり、糖尿病を発症します。

 

ヒトは、太古の昔から、自然にある食材をシンプルに調理し、その環境で生き伸びてきた記憶が遺伝子に組み込まれています。急激に加工食品が開発され、簡易な食品が食事に取って代わられるようになったのは、ここ数十年のことに過ぎません。

 

冷凍食品やレトルト食品の開発・普及によって、レンジでチンすれば簡単に食べられますが、野菜・果物、卵や肉・魚類などの自然な生産物と、加工されて販売されている食品を比較すると、体に与える影響は異なると言われています。加工食品の増加は、日本でのがんや生活習慣病の発症率の上昇と関連しているのではないかという指摘もあります。

 

 

健康的な食生活を送ることが、糖尿病予防の第一歩です。では、どのような食生活が健康的なのか、いくつかポイントを説明します。忙しい生活の中で、食生活を見直すことは大変だと思いますが、予防は最強の治療ですので、ぜひ糖尿病を予防し、ご自身の健康をいつまでも維持するためにも、意識して欲しいと思っています。

 

バランスの良い食事とは

「食事のバランスを考えよう」という言葉をよく耳にします。

栄養バランスの良い食事とは具体的にどんな食事か、家庭()の授業以来、じっくりと考えたことはありますか?

 

何となく「野菜をたくさんとること」「間食(オヤツ)の量を気にすること」「フルーツなどからビタミンを摂取すること」などのイメージがあるかと思いますが、正しくは『3大栄養素』を意識して食べることです。

 

私たちの体は、主に炭水化物・タンパク質・脂質という3大栄養素から構成されており、これらの栄養素が不足すると、筋肉や骨、血液などの生成が妨げられます。

たくさんの量を必要とするので、英語ではマクロニュートリエンツ(大きい栄養素)と言います。もちろん、ビタミンやミネラルも必要ですが、それらは3大栄養素を代謝のサポートする役割を担い、少量でよいため、英語ではミクロニュートリエンツ(小さい栄養素)と言います。

 

 

「白いごはんは太るから、あまり食べない」「低糖質のパンだから、たくさん食べても大丈夫」というような断片的な情報から、食事内容や量を決めてしまうと、栄養バランスのとれた食事になりません。3大栄養素を過不足なく、適正量を摂取することが健康な体づくりをするための第一歩です。

 

摂取すべき栄養量は、性別・年齢・活動強度の差異などによって変わります。

厚生労働省ホームページで、5年ごとに改定される日本人の食事摂取基準」見ることができます。

しかし、この基準は専門的な内容含まれるため、農林水産省の「一日に必要なエネルギー量と摂取の目安」の方が、分かりやすいかもしれません。

 

食材から調理することの大切さ

栄養バランスを意識すると、まず、商品の裏に栄養成分表示がある食品を探して計算してみようと思うかもしれません。コンビニのサラダ・サンドイッチ・冷凍の惣菜などは、何がどれくらい入っているかすぐ分かり、安心ですよね。しかし、そのような商品には保存料や食品添加物が多く含まれることもあります。また、加工過程で素材の栄養素が失われていることもあります。

 

 

できれば、手軽な加工食品ばかりを選択肢にするのではなく、自分で食材を調理することを考えられないでしょうか? 糖尿病食なんて難しくて作ることはできない、と思われている方が多いのですが、実は、全く逆で、むしろ調理をせず、そのままで、あるいはゆでるだけ、焼くだけなど簡単な調理ほど、血糖値的には良いのです。すなわち、スーパーや産地直売所で買ってきた食材をシンプルに調理して食べると、天然の風味や栄養が摂れ、素材の良さを生かした料理が楽しめて血糖値にも良いのです。

 

例えば、野菜だと、切ってサラダとして食べる。フライパンで焼く。トースターや電子レンジで加熱する。鍋料理は、手軽にいろいろな食材が摂れ優秀です。味噌汁に具材として追加したり、パンに挟めばサンドイッチになります。

 

手軽な加工食品を食べることが習慣となっていたら、最初は、面倒くささや失敗があるかもしれませんが、慣れてくれば、ちょっとした工夫で食生活が豊かになることを実感できます。

 

素材を生かすために、個人的にはイリコ・昆布・干し椎茸を水出しした出汁で具沢山味噌汁をつくる、市販のドレッシングやマヨネーズを買わず、塩・オリーブオイル・酢などでサラダを食べたりしています。難しいメニューでなくても、これならできそうというものを1つ2つと、増やしていくことをお勧めします。

 

自身の手で調理すると、どんな調味料をどれくらい使用しているのかわかるのもメリットです。「思っているより、ポテトサラダには塩・砂糖・マヨネーズなどの調味料が多く使われている」などに気づくと、総菜で購入するときもカロリーや成分を少し意識できるようになります。

 

 

家族が作ってくれた食事を摂る人も多いと思います。好きな料理ばかり食べたり、嫌いな食材を食べないなどの好き嫌いをしていないか、醤油やソース類を追加して塩分過多になっていないか、食材や料理を作ってくれた人に感謝しながら食べているかなどを考えてみると、食事への意識が変わるかもしれません。

 

健康的な体を維持するためには、日々の食事で「何(料理名)を食べるか」だけでなく、「どんな食材や調味料をどれだけ加えて、どのように調理して食べるか」を意識してみましょう。食事が体を作り上げることを忘れずに、改めて、ご自身の食生活を見つめ直していただけると嬉しいです。

 

 

次回は、食のトレンドに関する問題点について取り上げます。

 

金子 至寿佳(かねこ しずか

糖尿病・内分泌内科部長。

日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年医学会老年科専門医・指導医。

美術館めぐりが趣味の1つです。特に、エコール・ド・パリ画家のひとりアメデオ・モディリアーニと、20世紀モダニズム彫刻家と言われるアルベルト・ジャコメッティが好きです。

 

 

糖尿病① 糖尿病の仕組みと予防(11月21日公開)
糖尿病② 日々の食事と体のつながり(12月19日公開)←今回
糖尿病③ 食の流行がもたらす問題点(2025年1月16日公開)
糖尿病④ 痩せ信仰と糖尿病リスク(2025年2月20日公開予定)
糖尿病⑤ 予防のヒントと次世代へのバトン(2025年3月20日公開予定)

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