日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

糖尿病③ 食の流行がもたらす問題点

2025/01/16

日赤和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部は、糖尿病・内分泌内科医、糖尿病療養看護師、薬剤部糖尿病チーム薬剤師、管理栄養士らがチーム一丸となって患者さんの健康を守るお手伝いをしています。

 

糖尿病予防には栄養バランスの良い食事を1日3食、規則正しく食べることが大切です。日本糖尿病学会の委員として自ら「食と健康」に関する情報を発信しつつ、小中学校への出前授業や教員へ健康教育を広げる活動にも携わる金子先生に、流行している食行動で、糖尿病予防の観点から問題となり得るものについて話を聞きました。

 

 

近年、高タンパク質志向の食生活や低糖質ダイエット(糖質制限ダイエット)が多くのメディアで取り上げられ、実践する人が増えています。注目する人が多いからか、いかにも現代の食生活のトレンドのように扱われています。

 

 

糖尿病の予防のためには、栄養バランスの良い食事を取ることが大切ですから、その点から考えると、このような極端に偏った食事を続けることは糖尿病リスクを逆に高めてしまいます。「『低糖質』こそ、糖尿病の予防になりそう」と思っている人も多いでしょうが、どのようにして、糖尿病リスクが上がるのかを解説していきます。

 

 

低糖質ダイエットには健康を害する危険が潜む

低糖質をうたう食品が増え、低糖質ダイエットを実践しやすくなりました。このダイエット方法を試したことがあるという人も多いのではないでしょうか?

 

しかし、体型・スタイルをあまりにも重視する食行動であり、健康の本質を見失ってしまっているように思えます。

 

低糖質ダイエットは、摂取する糖質量(炭水化物の量)を減らすことで体重が減少し、見た目の変化が割と早く実感できるというメリットがあります。ただ、1日の摂取エネルギーのうち、タンパク質や脂質が占める割合が高くなり、血管の動脈硬化を進めたり、腎臓に負担をかけたりしてしまい、必ずしも栄養のバランスが取れているとはいえません。あくまで、一時的な減量方法であり、健康的な食習慣ではないため、継続することはお勧めできません。

 

 

間食で多すぎる糖質を見直したり、「ご飯と麺」「パンと麺」「粉もんとご飯」など『炭水化物(糖質)をとり過ぎ』ている食事を見直すのは良いことです。しかし、体全体の細胞が生きていくためのエネルギーの基本となる主食(米飯など)の量を減らし過ぎると、血糖を上げるホルモンを出しやすくしたり、体が不足分を取り返そうとして、血糖の急上昇を引き起こし、インスリン分泌の乱高下から糖尿病の発症を早めてしまいます。

つまり、普通の量を食べるように戻っても、体が不足分を取り返そうと、従来に比べて吸収が良くなる上、血糖を上げるホルモンの影響が残って、血糖値をスパイク状に上げてしまいます。「朝ごはんを抜く人が糖尿病になる割合が増える」ことと、理論的には同じです。体の中の反応がそうなって、リバウンドしやすい準備ができているところに、気持ちも「減量できたからいいだろう」とドカ食いする人も少なくありません。

 

低糖質で満たされない食欲・食物繊維などの栄養素を補う食品として、ポリフェノールが多いことを理由に、ナッツなど脂質を多く含む食材を推奨する話も耳にします。適切な範囲で食べる分には大きな問題はありませんが、脂質過多になる可能性が高く、余剰の脂質が、血管の病気を引き起こす危険性も高まります。1つの成分のみに注目しすぎて、ともに含むマイナスな面を見逃すことは大変危険です。

 

糖質オフ・糖質ゼロの食品が持つ危険性

「低糖質」「糖質ゼロ」をうたう食品も、その多くは加工食品です。これまで2でも説明したように、加工食品は加工過程で素材の栄養素が失われたり、保存料・人工調味料・甘味料を多く含みます。

 

人口甘味料は、砂糖に比べ低カロリーで強い甘味を感じられますが、本来備わっている味覚とは異なるところを刺激するため、繊細な味覚を失っていき、加工食品をとり続けることが平気になるとも言われています。一時的に利用して過体重を減量したり、減量中のストレス緩和として使用するのは有用ですが、継続することは、適正に必要な栄養素を取っているとはいえません。

 

また、低糖質食品に添加されていることが多いタンパク質は、体づくりに重要な栄養素ではありますが、タンパク質を摂取すれば糖質が不必要というわけではありません。

糖質と食物繊維を合わせた炭水化物も3大栄養素の1つであり、体を構成し、エネルギー源となる重要な材料です。食事量を減らした状態が続くと、便の量が減ってしまい便通が乱れたり、便秘になる場合もあるので、こちらも気をつける必要があります。

 

 

こうして「糖質を抜けば痩せられる」という安易な考えで、バランスを崩した食生活を続けるのは、繰り返しになりますが、逆に糖尿病リスクを高めるだけではなく、腎臓に負担をかけることなども知ってください。そして、現代の食トレンドに流されず、正しい知識をもって、健全な身体をつくる食事を楽しみながら継続してほしいと思います。

 

次回は、若い女性に広がる痩せ信仰と糖尿病リスクについてお話します。

 

 

金子 至寿佳(かねこ しずか

糖尿病・内分泌内科部長。

日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年医学会老年科専門医・指導医。

美術館めぐりが趣味の1つです。特に、エコール・ド・パリ画家のひとりアメデオ・モディリアーニと、20世紀モダニズム彫刻家と言われるアルベルト・ジャコメッティが好きです。

 

 

糖尿病① 糖尿病の仕組みと予防(11月21日公開)
糖尿病② 日々の食事と体のつながり(12月19日公開)
糖尿病③ 食の流行がもたらす問題点(2025年1月16日公開)←今回
糖尿病④ 痩せ信仰と糖尿病リスク(2025年2月20日公開予定)
糖尿病⑤ 予防のヒントと次世代へのバトン(2025年3月20日公開予定)

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