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日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。
2024/10/17
日赤和歌山医療センター乳腺外科部は、2009年、乳腺疾患を専門に扱う「乳腺外来」を設立し、2年後の2011年4月、乳がんの診断・治療をより専門的かつ迅速に行うために乳腺外科部を開設しました。
乳がんは年々増加傾向で、日本の女性がかかるがんの第1位となっています。当医療センター乳腺外科部には6名の医師がおり、地域の先生方と連携して、乳がん検診から乳腺症、線維腺腫などの良性疾患、乳がん、乳がんの再発を含め、乳腺疾患のトータル・ケアを提供しています。
乳がんの治療では、ほとんどの場合、手術が前提となりますが、さらに、どのような治療があるのか、乳腺外科部副部長の松本 純明先生に話を聞きました。
乳がんと診断されたら治療が始まりますが、「手術と術後の放射線治療という局所の治療だけで治癒が期待できるがん(放射線治療をしない場合もあります)」「手術と術後の放射線治療以外の治療も必要ながん(放射線治療をしない場合もあります)」の2つに分かれます。
いわゆる「0期(ステージ0)」といわれる超早期の乳がんは、がんが乳管の中だけにとどまっていて、乳管の外(間質と呼ばれ、血管やリンパ管が存在します)に浸潤していない状態のため、原則、転移の心配がなく、手術と術後の放射線治療(放射線治療をしない場合もあります)で根治が期待できます(但し、治療という意味ではありませんが、新たな乳がん発症を予防する目的で薬を術後に服用することもあります)。
0期を超えてしまった病態の場合は、乳管の外にがんが浸潤しているため、分類が「1期(ステージ1)以上」となり、治療は手術と術後の放射線治療だけでは終わらない場合がほとんどです(放射線治療をしない場合もあります)。というのも、乳がんは、比較的早期のうちから全身にがん細胞が流れていると言われており、目に見えない微小な転移の芽が残っている可能性があるからです。そのため、手術と術後の放射線治療の他にも治療を行う必要があります(放射線治療をしない場合もあります)。
ステージ1以上は薬物療法がメイン
ステージ1以上の段階と診断されたら、手術 と術後の放射線治療もしますが(放射線治療をしない場合もあります)、ほとんどの場合、薬物療法も行います。手術が終わった後の薬物療法は、大きく分けて「ホルモン療法」と「抗がん剤治療」の2つがあります(一般的に、放射線治療は抗がん剤治療の後に行うことが多いです)。また、大きなくくりとしては、抗がん剤に含まれる薬剤として、分子標的薬というものもあります。これらは特定の目印を持つタイプの乳がんに有効な薬で、よく狙い撃ちの治療といった表現をされたりします。
薬物療法は、術後の体に残っている目に見えないがん細胞を根絶することを目的とした治療で、長期にわたります。治療の割合としては、手術・放射線治療2割、薬物療法8割くらいかかると知った上で、治療に望んでいただけると良いと思います。
ステージ1の中でも非常にしこりが小さかった場合で、ホルモン療法の適応もない場合などは、薬物療法をしないこともあります。また、乳がんには様々な種類(サブタイプといいます)があって、そうしたサブタイプに応じて、あるいは乳がんのステージに応じて、手術の前に薬物療法をすることもあります。そのあたりは病態によりますので、主治医と相談しながら決めることとなります。
薬物療法にかかる期間
抗がん剤治療は、再発防止のために行われ、半年〜1年程度かかりますが、終わりが決まっています。ただ、副作用があり、髪の毛が抜けたり、手足の指先がしびれたり、皮膚に色素沈着やむくみが起きたりなど、女性には辛いことも多々あります。今は、病院内に患者さんが相談できたり、患者さんを支援してくれる窓口(がん相談支援センター)があることが多いので、ウィッグなどを治療前からご覧になることもできますし、気になることは相談してみてください。
術後のホルモン療法は、内服薬が主体です(注射で月経を止める治療を併せて行うこともあります)が、基本10年続きます。本当に乳がん治療は長丁場なので、医師も患者さんについて、体のことだけでなく、普段の生活やご家族のこと、趣味や仕事内容なども把握するように心がけています。再発しないよういろいろな提案もしますし、薬もなるべくそれぞれの患者さんの生活に支障が出にくいようなものを選びます。長い目で治療をしていただければと思います。
乳がんの再発
放射線治療、抗がん剤治療を終えて、ホルモン療法を10年しても、再発することがあります。先ほど少し言いましたが、乳がんにはさまざまな種類(サブタイプといいます)があり、患者さんによってタイプが違います。再発リスクが術後比較的すぐの時期に高い、いわゆる短期決戦型の乳がん、あるいは再発リスク自体は低いけれど、再発の可能性が長い期間続く乳がんなど様々です。医師も、患者さん個人に合わせていろいろな治療を考えますが、どうしても再発してしまうことがあります。
患者さんにとっては、「再発」はいちばん辛いことだと思いますが、乳がんは再発しても、その後の治療選択肢が比較的多く、新しい治療薬の開発も進んでいる病気です。残念ながら再発してしまったとしても、できるだけがんを悪くしない(うまく共存し、元気な期間をできるだけ長くする)治療を主治医は考えていきますので、二人三脚で治療を続けていただければと思います。当医療センターには、がん看護外来、薬剤師外来、社会福祉士などの多職種で患者さんをサポートする体制をとっていますので、ご相談ください。
次回は、乳がん以外の「乳腺の病気」について、お伝えします。
松本 純明(まつもと よしあき)
日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、検診マンモグラフィ読影認定医、乳がん検診超音波検査実施・判定医師。
趣味は、ガーデニング。好きな食べ物は、鶏モモ肉と大根の炊いたの。
乳がん①予防のためにできること(2024年9月19日公開)
乳がん②乳がんの発見と診断(2024年10月3日公開)
乳がん③乳がんの治療(2024年10月17日公開)←今回
乳がん④乳がん以外の乳腺の病気(2024年10月31日公開)