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日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。
2025/03/27
少子化対策の一環として2022年4月から、不妊治療・生殖補助医療にも、保険が適用されるようになり、不妊治療の認知度・関心度も増してきました。しかしながら、これまで不妊治療は女性中心に行われてきたため、男性不妊にも治療法があったり、保険が適用されることは、まだまだ知られていません。
日赤和歌山医療センターでは、2024年3月に泌尿器科に「男性不妊外来」という専門外来を設け、自然妊娠や産婦人科との連携による生殖補助医療へとつなげ、挙児(出産して子どもを持つこと)を目標に、さまざまな治療を行っています。
前回は、男性不妊の基本的な知識や当医療センターでの診察・検査について、山田祐也泌尿器科部副部長に聞きました。今回は、男性不妊で行われている手術について伺います。
男性不妊の手術
男性不妊症の手術には、精索静脈瘤という病気に対する手術、精巣から精子を回収する手術、精路の通過障害を改善する手術の3つがあります。
現在、当科では精索静脈瘤に対する精索静脈瘤結紮術と、精巣から精子を回収する精巣内精子採取術の2つを行っています。
精索静脈瘤結紮術について
まず、精索静脈瘤結紮術について説明していきます。精索静脈とは、精巣から心臓へと血液を戻す血管のことを指し、この精索静脈に血液が逆流すると瘤ができます。精索静脈瘤は、健常な人でも20%程度みられます。
一方で、メカニズムははっきり分かっていませんが、精索静脈瘤は男性の精子をつくる能力に影響を与えることがあるといわれています。精液異常がみられる人に精索静脈瘤が認められた場合、これを治療することで精液の状態が改善したり、妊娠が得られやすくなるということが多数の臨床研究から分かっています。
研究によって数値は異なりますが、手術することで精液所見はおよそ50~70%の人で改善がみられ、妊娠の確率は1.5~2倍程度、高まるとされています。
精索静脈瘤の治療では、精索静脈を結紮して血液の逆流を遮断する顕微鏡下低位結紮術という術式を用いて手術を行っています。この手術は、局所麻酔・日帰りが可能です。全身麻酔の場合は3日間程度の入院が必要になります。
顕微鏡を用いるので、手術の傷は小さく、従来の術式と比較すると合併症が少ないといわれています。
術後は、2~3日で射精が可能で、性交渉や運動は1~2週間後からできます。日帰り手術であれば、翌日からデスクワークは可能ですので、働き盛りで仕事が休みにくい人のニーズに合致していると考えています。
手術の後は、傷の状態を診るために外来受診いただきます。手術の効果があらわれるまで3ヵ月程度かかりますので、術後3ヵ月時点で精液検査を行い、精液の状態に変化があらわれているか確認します。
精巣内精子採取術(TESE)について
次に、精巣内精子採取術(TESE:テセ)について説明します。
TESEは無精子症という、精液の中に精子が全く見られない状態のときに行う手術です。
無精子症は、精子が見られない原因によって2つのケースに分けられます。
1つは精液の通り路である精路に障害があり、精巣で精子が作られているのに体外へ放出できないケース(閉塞性無精子症)です。
TESEの手術方法は、局所麻酔で陰嚢を切開し、精巣を切り開きます。中には精子をつくる精細管という組織があり、この精細管の一部を切除して採取してきます。閉塞性無精子症の場合、精巣のなかには豊富に精子がつくられているので、この手術でほとんどの場合は精子の回収が可能です。
顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE:マイクロテセ)について
一方で、精巣で全く、あるいはごく少量しか精子が作られていない非閉塞性無精子症の場合は、ほとんどの精細管に精子が含まれていません。そのため、手術用顕微鏡を用いて少しでも精子を含んでいる可能性が高い、太くなった精細管を見つけて採取します。このような手術用顕微鏡を用いて精子採取をおこなう手術をMicro-TESEといいます。
非閉塞性無精子症にMicro-TESEを行った場合、精子が回収できる確率は30%程度とされています。回収できた精子は凍結保存され、後に顕微授精に使用されます。Micro-TESEも局所麻酔・日帰りが可能なため、手術翌日からデスクワークができ、性交渉や運動は術後1~2週間後から行えます。Micro-TESEは、従来のTESEと比較して精巣へのダメージが少ないため、合併症のリスク低いと考えられます。
当医療センターの場合は、泌尿器科の男性不妊外来と産婦人科が連携して不妊治療を行っているので、1つの病院で採精、顕微授精、妊娠、出産まで完結できます。
さいごに
男性不妊外来を開設して1年が経過しました。治療後を追跡できたカップルに限った話ですが、男性不妊の治療をしたカップルの約3割が妊娠に至っています。
繰り返しになりますが、不妊は男女両方の問題です。男性不妊は、早期の診断と治療によって改善が期待できる場合も多いので、不妊かな?と心当たりある方は、ぜひ精液検査を行っているクリニックを受診ください。
挙児を希望されている多くのカップルや、将来、子どもを持ちたいと考える多くの人に、男性不妊に関心を持ってもらえるきっかけとなり、治療の第一歩にしていただけると幸いです。
山田 祐也(やまだ ゆうや)
日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医。日本生殖医学会会員。
日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会腹腔鏡技術認定医。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。
趣味は、筋トレです。ベンチプレス100㎏が、いまの目標です。
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