生まれる、成長する、学ぶ、悩む、暮らす、産む、寄り添う、過ごす、老いる…。 どんなときも 自分らしく、そして 健康に生活するために、産婦人科医から 身体のこと、体調のこと、病気のこと、予防や対策などをお伝えします。

やせと妊娠

2025/03/25

思春期から老年期まで全ての女性へ向けて、産婦人科医で女性ヘルスケア専門医の山西恵医師に、女性特有のからだの不調や病気のことを伺います。

毎日の生活をもっと元気に、豊かに! 一緒に学んでいきましょう。

 

今回は妊娠前の健康管理の話題の中から、特に、若い女性のやせについてピックアップしたいと思います。

 

「やせ(=低体重)」は、BMI(体格指数)によって定義されています。

 

BMI値は、Body Mass Indexの略で世界共通の体格の指標で、体重(㎏)÷{身長(m)×身長(m)}で計算できます。WHO(世界保健機関)が18.5未満を「やせ・低体重」と定義しています。日本の基準(日本肥満学会)においても、同様に18.5未満を「やせ」としており、世界中の多くの国でこの基準が採用されています。

 

なぜ、この基準なのでしょうか?

BMI 18.5未満になると、栄養不足、骨密度低下、ホルモンバランスの乱れ、免疫力低下など、様々な健康リスクが増えるといわれているからです。

 

 

近年、特に、日本の10代後半20代の女性はやせ願望が強く、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」令和元(2019)年調査結果では、20代女性は約2割がやせている状態だという統計が示されています

 

やせは、エネルギーが不足している状態です。やせすぎていると、体が「今は妊娠する余裕がない」と感じ、排卵や月経に必要な女性ホルモンを出すのをストップしてしまいます。この女性ホルモンは、卵巣から分泌されますが、指令を出すのは脳です。エネルギーが足りないと、脳が卵巣に「女性ホルモンを分泌しなくてよい」と指示し、その結果、月経が止まったり、妊娠しにくくなったりします。女性ホルモンが低下すると、月経が止まる以外にも、便秘、髪が抜けるなど、様々な体の変化も出てきます。

 

では、どんな状態が、「月経異常」「無月経」でしょうか?

 

 

3ヵ月以上、月経が来ていない人はいませんか?

月経周期とは、月経が始まった日を1日目として、次の月経の1日目まで日数をいいます。月経周期は25日~38日であるのが正常です。月経周期は多少前後することがありますが、大体1ヵ月に1回来ていて、大きくずれない範囲であれば正常です。

月経が3ヵ月以上来ない場合を無月経といい、無月経が続くと、骨粗鬆症や不妊につながっていくことがあります。

 

治療は原因によって異なりますが、一時的なストレスや環境の変化、ダイエットが原因であれば、様子を見ながら生活環境を整えていくことで月経が再開する場合もあります。ただし、無月経になる病気が隠れていることもありますので、3ヵ月以上月経が来ない場合は、婦人科で相談しましょう。もちろん、無月経の場合は、妊娠している場合があります。妊娠に気づかずに何ヵ月も経っていたということもありますので、無月経の場合は、常に妊娠を念頭に入れておきましょう。

 

 

スポーツを頑張ったり、体重が増えないようにしていたら、月経がしばらく来ないなどがあれば、そのままにしておかずに、婦人科で相談しましょう。月経が来ないということは、体がエネルギー不足で悲鳴をあげている状態です。体が軽く感じて、一時的には調子が良くても、エネルギー不足が長期間続くとパフォーマンスの低下につながります。まずは、元の体重に戻し、運動量と食事のバランスを見直すことが必要です。さらなるパフォーマンスの低下や骨量低下を避けるためにも、低用量ピルで出血を起こすのではなく、自分自身のホルモン分泌を増やして月経を起こすことが大切です。月経血や月経痛などでスポーツに影響が出ることが不安な場合は、婦人科で相談してみましょう。

 

毎日、一生懸命頑張っているからこそ、体のサインを見逃さないようにすることが大切です。無月経は、自分だけでどうにかしようとせず、婦人科や専門の先生に相談しましょう。体を大切にすることも、強くなるための一歩です。

 

 

もし、「どうしても食事がとれない、とりたくない」「食事をとるのがつらい」「体重のことが、頭から離れない」と感じることがあれば、心と体がバランスを崩しているのかも知れません。一人で抱え込まず、信頼できる人や医療機関に相談してみましょう。

 

 

将来のために今できること

骨の強さ(骨量)は、主に10代~20代にかけて獲得されます。骨量は18~20歳頃にピークに達し、その後はゆるやかに減少していきます。思春期に無月経になったり、過度なダイエットをすると、骨量を十分に蓄えられず、将来、骨折しやすくなります。

無理なダイエットはせずに、適正な体重を維持しましょう。日本では、BMI 18.5以上25未満が適正体重といわれています。自分の身長から適正体重を計算し、目安にしましょう。

 

 

骨を強くするためには、カルシウムやビタミンDをとり、日光を適度に浴びること、適度な運動をすることなども効果的です。

10~20代で作られた骨の強さは、一生の土台になります。将来、骨折しにくい健康な体を作るためにも、早いうちから健康的な食生活を送りましょう。

 

妊娠への影響

やせたまま妊娠すると、早産、低出生体重児、胎児発育不全、貧血などのリスクが上がります。

 

低出生体重児とは出生体重が2,500g未満の赤ちゃんのことをいいます。

世界中には栄養不足で低出生体重児の割合が多い国がありますが、日本は先進国の中でも、低出生体重児の割合が多い現状があります。1975年には低出生体重児の割合が5.1%であったのに対して、2019年には9.4%にも上昇しています。

 

実は、1980年以降、日本人の平均身長が低下しているという事実もあり、これには低出生体重児の増加が影響していると報告されています。胎児期や生後早期の健康や栄養状態が、成人になってからの健康に影響を及ぼす「DOHaD仮説」というものがあり、低出生体重児は、将来の生活習慣病(高血圧、Ⅱ型糖尿病、脳梗塞、脂質代謝異常、冠動脈疾患など)と関連があることがわかっています。

 

 

以前は、妊娠中の体重増加について、厳しく指導を受けたお母さんも多かったと思います。妊娠の体重増加を抑えることが、妊娠中毒症(今でいう妊娠高血圧症候群)の予防につながるとされていました。しかし、現在は、体重増加を制限することで妊娠高血圧症候群を予防できるというエビデンスは乏しいということが分かり、むしろ低出生体重児と長期的な健康リスクに目を向けられるようになりました。

 

妊娠前の体格がBMI 18.5未満の「やせ」の人は、妊娠中には12~15㎏増やすのが良いとされています。BMI 18.5以上25未満の「普通体重」の人は、10~13㎏の体重増加がベストです。妊娠中に体重増加が少なすぎる場合も、低出生体重児と早産のリスクが上がると言われていて、栄養バランスの良い健康的な食生活が大切です。

 

妊娠前からの健康的な体づくりは、赤ちゃんの健やかの成長、将来的な健康管理につながります。元気な赤ちゃんを迎えるためにも、自分の体を大切にしましょう。

 

さて、次回は「社会全体で考える妊娠」をテーマにお伝えしたいと思います。

 

 

山西 (やまにし めぐみ)

日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医。

学生時代はバレーボールを楽しみましたが、現在は育児と肩の痛みで鑑賞専門です。健康管理の大切さを身に沁みて実感しているため、いつかバレーボールを思い切りプレーできる日を夢見て、体力づくりをしていきたいです。

悩める患者さんやご家族のご希望に寄り添った診療を心がけています。すこやかな日常が送れるようサポートしていきたいと考えています。気軽にご相談ください。

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