日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

男性不妊とは① 受診方法と検査

2025/03/07

少子化対策の一環として2022年4月から、不妊治療・生殖補助医療にも、保険が適用されるようになり、不妊治療の認知度・関心度も増してきました。しかしながら、これまで不妊治療は主に女性に対して行われてきたため、男性不妊にも治療法があったり、保険が適用されていることは、まだまだ知られていません。

 

日赤和歌山医療センターでは、2024年3月、泌尿器科に「男性不妊外来」という専門外来を設け、自然妊娠や産婦人科との連携による生殖補助医療へとつなげ、挙児(出産して子どもを持つこと)を目標に、さまざまな治療を行っています。

 

男性不妊の基本的な知識や当医療センターでの実際について、山田祐也泌尿器科部副部長に聞きました。

 

 

不妊の定義と現状

不妊とは、妊娠を望む健康な男女が一定期間、避妊をしないで性交渉をしているにもかかわらず、妊娠しないことをいいます。この期間は1年というのが一般的ですが、あくまで目安です。35歳以上のカップルの場合や、女性に排卵がなかったり、男性の精子数が少なかったりする場合などは、1年を待たずに治療を開始することもあります。

 

近年、不妊治療を受ける人は、多くの人が想像している以上に増加しています。こども家庭庁の発表によると、2021年の調査で、カップルの2.6組に1組が不妊を心配し、4.4組に1組が不妊治療を受けた経験があるとされています。

 

 

男性不妊の原因

不妊は原因によって、男性不妊、女性不妊、原因のわからない不妊、の3つに大別されます。また、生涯で一度も妊娠しない場合を原発性不妊といい、過去に妊娠経験があるけれど再度妊娠しない場合を続発性不妊といいます。

 

従来、不妊は女性側の問題と思われがちでしたが、実際には男性側に原因が見つかることもたくさんあります。実際、WHO(世界保健機関)によると、不妊の48%、つまり約半数で男性側にも原因があるとの報告があります。男性側の原因には、精巣で精子をつくる能力の問題、精子を放出する経路の問題、性交渉や射精がうまくできない性機能の問題などがあります。

 

 

ですので、不妊症は男女どちらか一方だけの問題でなく、カップル・夫婦で取り組み乗り越えるべき問題だというように、意識を変えていっていただければと考えています。

 

 

不妊かも?と思ったら…

不妊治療を行っている産婦人科や不妊治療専門クリニックをカップルで受診し、女性の検査と一緒に、男性も精液検査を受けることをお勧めします。当外来も、約7割の患者さんが不妊治療を行っている中で、男性不妊が見つかり紹介されてきます。治療に、年齢の制限はありません。20代~50代まで、幅広い患者さんを診察しています。

 

もし、男性で産婦人科クリニックの受診に抵抗がある場合は、泌尿器科クリニックでも検査を受けられます。ただし、クリニックによって精液検査を実施しているところと、とりあつかってないところがありますので、事前に問い合わせてください。

 

精液検査で異常が見つかったり、精液採取がうまくできないとなると、当外来のような男性不妊症の専門的治療ができる医療機関に紹介されます。しかし、紹介いただく患者さんのなかには、不妊の原因が自分にあったことに驚き、ショックを受けておられる方もいます。なかには、紹介されたものの、受診に来られない方もいます。一方で、多くの患者さんが、ショックを解消したいとその原因を探したり、パートナーに申し訳なく思ったり、治療をするかしないかを迷ったり、いろいろな感情の波を乗り越えたうえで、受診の決心をして当外来を受診されます。

 

 

そういう状況だということも理解していますので、悩みがないか、心理的な負担が大きすぎないか、プライバシーに配慮しながら話を伺うように努めています。

 

また、検査からの流れや治療の方法、効果や可能性、デメリットまできちんと説明することで、患者さんが状況を把握できるようになってくると、気持ちが落ち着き、治療に前向きになっていただけるケースが多いと感じています。

 

男性不妊の検査と診察

男性不妊では、「どんな治療を受けるんだろう?」って、心配になりますよね。ここでは、当医療センターの男性不妊外来の診察や検査について説明していきます。

 

まず、問診表に記入いただきます。一般的な問診に加えて、男性不妊特有の質問があります。たとえば、性感染症や精巣腫瘍の有無、停留精巣・精巣捻転・鼠径ヘルニアの手術歴の有無など。精巣腫瘍のある場合は、化学療法や放射線治療の有無も確認します。

他に、射精や性交渉の回数など性機能に関する質問、パートナーの年齢、これまでの妊娠・出産歴、不妊治療の経歴などもあります。

 

問診内容を確認したら、陰部を中心に身体診察を行います。体毛や陰毛の生え方、足の付け根に手術痕がないか視診し、睾丸を触診して、精巣のサイズや張り具合、精巣上体にしこりがないか、精管に異常がないか、精巣へむかう血管と精管の束にコブ(瘤)がないかなど、細かく確認します。

 

 

その後、精液検査、血液検査、超音波による画像検査を行います。

特に、精液検査は重要です。2~7日間の禁欲期間後に採取した精液の量、精子の濃度、運動性、形態を調べます。体調や時間帯で、同じ患者さんからとった精液でも大きく結果が異なることがあるので、少なくとも2回以上繰り返し検査を行います。

 

次に、血液検査を行います。男性ホルモン、精巣で精子を作る性腺刺激ホルモンの量を測定します。近年は、生活習慣病と男性不妊と関連も指摘されているので、高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症なども同時に検査しています。精液中に精子がほとんどいない、あるいは全く見られない場合は、採血による染色体検査や遺伝子検査を勧めることもあります。

 

そして、超音波(エコー)検査装置を使って陰嚢内に精巣腫瘍がないか、精巣のサイズや内部の状態を確認します。精索静脈瘤を疑う血管、精管、精嚢の異常が疑われる場合は、さらにMRIや経直腸超音波検査を追加することもあります。

 

検査でわかる原因疾患と治療

これらの検査・診察により、男性不妊の原因を突き止めていきます。

 

最も多いのは、精子の数や質に問題がある造精機能障害で、原因の約8割に上ります。精子の数が少ない乏精子症、精子が全くない無精子症、精子の運動能力が低い精子無力症などがあります。禁煙や節酒、栄養バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスの管理など、生活習慣を改善すると精子の数や質が向上することがあるので、生活指導を行います。また、内科的治療が有効な場合がありますので、ビタミン製剤や漢方薬を併用しながら治療していきます。

 

 

2番目に多いのが性機能障害で、ED(勃起障害)と射精障害があります。

EDは、血管障害によるもの、神経障害によるものもありますが、心理的原因によるものが最も多いです。不妊治療でのタイミング療法が発症のきっかけになることもあり、治療薬を内服します。射精障害の多くは、糖尿病や脊髄障害などの疾患が原因で、これらには薬物治療や手術が有効です。当医療センターには、糖尿病・内分泌内科、整形外科、循環器内科、脳神経内科など数多くの診療科があるので、専門診療科と連携しながら治療することも可能です。

 

3番目は、精子を運ぶ経路に問題がある精路通過障害です。これは精巣内では精子が作られているのにも関わらず、精路が閉塞しているために精子を放出できない状態です。精路再建という手術をするケースもありますが、当外来では精巣から直接精子を回収する手術をお勧めしています。

 

また、ホルモンバランスに異常がある場合はホルモン療法を、膿精子症や性感染症がある場合は抗生物質などを用いて治療することで、不妊の原因となっている可能性のあるものを取り除いていきます。これらの診察・検査・治療は、基本的にすべて健康保険が適用されます。

 

 

次回は、無精子症に有効な最新の手術について解説します。

 

 

山田 祐也(やまだ ゆうや)

日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医。日本生殖医学会会員。

日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会腹腔鏡技術認定医。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。

趣味は、筋トレです。ベンチプレス100㎏が、いまの目標です。

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