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日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。
2024/10/03
日赤和歌山医療センターでは、2009年、乳腺疾患を専門に扱う「乳腺外来」を設立し、2年後の2011年4月、乳がんの診断・治療をより専門的かつ迅速に行うために乳腺外科部を開設しました。
乳がんは年々増加傾向で、日本の女性がかかるがんの第1位となっています。当医療センター乳腺外科部には6名の医師がおり、地域の先生方と連携して、乳がん検診から乳腺症、線維腺腫などの良性疾患、乳がん、乳がんの再発を含め、乳腺疾患のトータル・ケアを提供しています。
今回は、乳がん発見への近道となるブレスト・アウェアネス(乳房の健康チェック)や、病院での診断方法、検査の種類について、乳腺外科部副部長の松本 純明先生に話を聞きました。
乳がんやそれ以外の乳腺に関係する病気の発見に役立つのが「ブレスト・アウェアネス」です。ブレスト・アウェアネスとは、日頃から自身の乳房の状態を意識する生活習慣のことをいいます。
乳房の状態を意識する必要性がある理由はというと、まず、乳がんは、できた深さにもよりますが、ある程度の大きさにならないと自覚しにくいという特徴があります。そのため、明らかな自覚症状というよりは、ちょっとした違和感のような「何となくおかしいな」「いつもと違うな」というくらいの状態を感じ取って、検診や診察を受けることで早期発見につながると思います。
昔は「自己触診しましょう」「自分で乳房を触って、しこりを見つけましょう」と言われていましたが、乳房の深い位置にあるしこりを見つけるのは容易ではありません。触診も大切ですが、自分ではどれがしこりで、どれが正常の乳腺組織かわからない場合が多いので、最近では、正常なときの自身の乳房の状態を知り、それと違うところはないかという意識で「乳房の健康チェックをしよう」と啓発されるようになりました。
乳がんの早期発見と治療を目指し、ピンクリボン運動が推進されています。当医療センターでも、毎年10月に市民公開講座を行うなど啓発活動に努めています。ピンクリボンのマークを見かけたら、ブレスト・アウェアネスを思い出し、乳房の状態を観察していただければと思います。
意識するだけで早期発見できる?
「意識するだけ」「状態を見ているだけでいいの?」と思われるかもしれませんが、それだけでも発見につながることがあります。毎日触ってもらっても構いません。それで「あれ、何か違うな」と思ったら、受診してもらえばと思います。
乳がんの公的な検診は40歳からですが、それ未満の年齢でも、乳がんや乳腺の病気になる人はいます。年齢に関係なく、月経周期での乳房の変化や、普段の皮膚の張り具合を見るなど、乳房の様子を認識しておくことが大切です。着替えるとき、入浴前などにチェックしてみてください。
しこりには良性のものもありますので、違和感があったら、即、乳がんというわけではありません。不安になって思い詰めたりせず、いつもの状態と違う=もしかしたら悪いものかもしれないから診てもらおう、くらいに考えて受診してみてください。
乳腺専門のブレストクリニックも増加中
和歌山にも「ブレストクリニック」「乳腺クリニック」と名前のついたクリニックが増えてきています。そうしたクリニックには、乳腺を専門とする医師がおられることが多いので、気になることがあれば、受診して相談してみてください。
もし、クリニックで乳がんを疑う病変が見つかった場合でも、そうしたクリニックは大きな病院と連携していて、専門的な検査や治療などが必要な場合は紹介してもらえるので、心配はいりません。ご自身が通いやすいところにある、乳腺を診察してくれる医師がいるクリニックを受診し、治療が必要か経過観察で良いかなどを診てもらってください。
診断は、視触診と画像診断が基本
受診が「恥ずかしい」という人もいますので、乳がんの診断の流れを説明していきます。医師がどんなことを考えて、患者さん診察しているかを知っていただき、少しでも緊張を和らげていただければと思います。
病院では、まず乳房の皮膚に異常がないか観察し、それから触診をします。ただ、それだけで確定診断はできません。そこから画像診断に進みます。
● マンモグラフィ(乳房X線検査)
● エコー(超音波検査)
● MRI
上記のような画像診断の検査があるのですが、乳腺の病気は、なかなか1つの検査では分からないことが多く、組み合わせて病変を診ていきます。
病変を見つける感度がいちばん高いと言われているのはMRIです。奥にある病変でもMRIではしっかり分かります。ただ、造影剤という注射薬(病変をわかりやすく染めるような薬)を使用するため、造影剤に対してアレルギーを起こすリスクがあります。喘息がある場合などは、そのアレルギーを起こすリスクが高くなると言われているので、造影剤が使えなかったりします。MRIには、そのようなリスクがあること、高額な検査であることなどから、一般的な乳がん検診ではマンモグラフィによる検査が行われ、オプションでエコー検査が使われています。
マンモグラフィは検査に伴う痛みから避けられがちですが、マンモグラフィが得意とする初期の乳がん(石灰化が主体のもの)もありますので、検診の案内が届いたら、是非、受けていただきたいと思います。一方、エコー検査は、しこりを見つけるのが得意な検査です。日本の研究で、エコー検診の有用性を示すデータが示されています。任意検診の場合は、オプションで追加していただければより安心だと思います。精密検査では、マンモグラフィをもう一度行ったり(トモシンセシスという3Dのマンモグラフィ撮影技術を取り入れている施設も増えてきています)、エコー検査、可能ならMRIも併せて行うことが多いです。
1つずつ検査結果を見ながら、次の検査に進むことが多いので何回も検査があり、不安になる人もいるかもしれませんが、それぞれの検査の前後に説明を聞けますので、心配せずに検査を受けていただければと思います。
最近は、診断方法も進化してきており、全身のがん病巣を見つけられるPET-CT検査と同じように、乳房に特化した乳房専用PETという検査も出てきています。乳がんをみつける検査機器の研究は非常に活発で、有用なものがどんどん開発されつつあります。将来的には痛みがなく、病変が今よりもっと分かりやすい検査が出てくる可能性が十分あります。ぜひ、乳がん診断の今後にも期待してください。
次回は、乳がんの治療についてお伝えしていきます。
松本 純明(まつもと よしあき)
日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、検診マンモグラフィ読影認定医、乳がん検診超音波検査実施・判定医師。
趣味は、ガーデニング。好きな食べ物は、鶏モモ肉と大根の炊いたの。
乳がん①予防のためにできること(2024年9月19日公開)
乳がん②乳がんの発見と診断(2024年10月3日公開)←今回
乳がん③乳がんの治療(2024年10月17日公開)
乳がん④乳がん以外の乳腺の病気(2024年10月31日公開)