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日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。
2024/06/20
日赤和歌山医療センター整形外科は、2023年4月に人工関節手術を行う「人工関節センター」を設立しました。人口の約30%が65歳以上の高齢者となっている日本では、今後も人工関節を必要とする高齢者の増加が予想されています。
人工関節の情報発信の拠点や相談窓口を担い、地域の方々に一貫した治療やより良い環境での人工関節の手術(人工関節置換術)を提供していきます。
当連載では、4回にわたり整形外科部副部長の古川 剛先生に人工関節をテーマにお話を聞いています。今回は、人工関節の手術のメリットとデメリットについて伺いました。
当医療センターでは、地域の医療機関から紹介を受けた患者さんの診察を行っています。紹介を受けた患者さん全員を手術するわけではなく、私たちが改めて関節の状態並びに全身を診察し、患者さんと相談の上で手術をするか、もう少しリハビリなどで頑張るかを決めるようにしています。
紹介状を持って手術の相談に来られた患者さんも、関節の状態は人によってそれぞれです。とても変形の強い人もいれば、痛みはあるけれど関節の状態はそれほど悪くないという人もいます。「変形が強く、手術した方が良いけれど、高齢で体力が低下してきている」「年齢が若いから、人工関節の耐久年数を考えて手術はもう少し待ちたいけれど、仕事に支障が出るほど痛みがある」「透析をしていて、手術が難しいといわれている」など、身体状況も社会状況も、患者さんそれぞれに違います。
患者さんの年齢や生活スタイルを加味し、診察では手術のメリットとデメリットをお伝えしています。最終的には、患者さんご自身に手術をするかどうか選んでいただくようにしています。納得して手術を受けていただかないと、入院生活やリハビリが辛くなるからです。診察時は、疑問も不安が少しでも解消するように、十分な説明を心がけています。
人工関節手術を受けるメリット
手術を受ける最大のメリットは、今ある痛みが軽減すること、生活の不自由さや制限がなくなることです。今は痛みで歩けない、自転車に乗れない、仕事ができないなど、さまざまな悩みをお持ちだと思いますが、手術を受けることにより解消できます。
痛みを軽減させ、QOLの向上、生きがいを持っていただくための手術です。実際に多くの患者さんが、術後の生活に充足感を得ています。「痛くなる前の自分に戻れる」「やりたかったことができる」など、気持ちの面でのメリットも大きいでしょう。
人工関節のデメリット① 耐久年数がある
痛みが軽減されるのであれば、患者さん全員が手術を受けたいと思われるかもしれませんが、手術によるデメリットもあります。
まず、人工関節には耐久年数があることです。前回の記事「人工関節と手術について」でお伝えしましたが、現在は20年〜30年です。そのため、若い世代が手術を受けると、高齢になって人工関節の置き換えが必要になる可能性があります。2度目の人工関節の手術はより難しいといわれていますが、現在は人工関節の素材の質も上がっていて、随分と耐久性は良くなったと思われます。
人工関節のデメリット② 術後の脱臼のリスク
次に、脱臼を起こすリスクがあることです。股関節を人工関節にする手術(人工股関節置換術)には脱臼のリスクがあり、全体の1~5%で起こると報告されています。脱臼が起こるのは術後の数ヵ月が多いのです。筋力が安定しなかったり、無理な体勢を取ってしまったりして起こります。自分で治すことはできないため、受診が必要です。当医療センターで手術を受けていただいていれば、万一、夜間や休日でも、救急外来は24時間365日対応していますので、これまでの治療履歴に基づいた迅速な対応が可能です。
人工関節のデメリット③ 感染症対策も重要
また、どの関節の手術でも起こり得るのが感染症です。感染症は、手術創部から細菌が入って生じる場合もあれば、歯周病や菌血症など手術部位以外から飛んできた菌が感染を引き起こす場合があります。術後に早期であれば、飲み薬で対処可能ですが、進行すると、再手術が必要になる場合もあります。特に、糖尿病や肝硬変のある場合、透析を受けている場合は、感染率が高くなります。
そのため、当医療センターでは高度な感染予防を行っている他、手術前に患者さんに口腔チェックを行い、感染源となる口腔内病変の治療や口腔衛生状態の改善などを行っています。全身の検査による健康管理も行い、感染対策を徹底しています。
人工関節のデメリット④ 転倒等により骨折することも
そして最後は、骨折が起こる心配があることです。人工関節周辺の骨に負担がかかり骨折することがあります。その予防のためにも術前計画を適切に行い、患者さんに適合したジャストフィットする人工関節を作り、ナビゲーションシステムにより正確に設置しています。しかし、転倒などにより、どうしても骨折してしまうこともあります。その場合は、救急外来に来ていただければ、骨の状態を診て適切な治療を行います。
相談の上、手術を決める
低侵襲な手術を心がけているとはいえ、手術が患者さんの負担になるのは事実です。しかし、痛みが軽減され、動きやすくなることは、患者さんの生活の満足度を大幅に上げてくれます。
関節の状態や患者さんの希望に沿って、現時点でどうすることが望ましいか、私たちは親身になって相談に乗るよう努めています。関節に痛みはあるものの、まだ、リハビリや内服薬でフォローできるという判断に至れば、手術をせずに、地域の医療機関に戻って経過を診ていただいています。
では次回は、人工関節の手術が決まった患者さんの、当医療センターでの治療の流れ(術前検査〜手術〜退院まで)についてお話します。
古川 剛(ふるかわ たけし)
日本整形外科学会整形外科専門医・指導医、日本人工関節学会認定医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医。
趣味は、ジムでのトレーニング、ランニング、散歩、食べ歩きなど。
好きな散策スポットは、和歌山城、雑賀崎、和歌浦方面。体力・筋力の維持に散歩をされる方に、おすすめです。
人工関節① 人工関節の手術(2024年5月16日公開)
人工関節② 人工関節手術のメリット・デメリット(2024年6月20日公開)←今回
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