日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

婦人科治療の進歩① 遺伝医療

2022/03/24

日赤和歌山医療センターには、常勤の産婦人科医が10名以上在籍しており、新しい婦人科医療をどんどん取り入れ、充実した治療体制整備に努めています。

 

最近の婦人科治療について、5回にわたり山西優紀夫副部長に伺っていきます。

 

 

 

最近、婦人科領域で特に話題になっているのは、卵巣がんの遺伝検査です。

 

卵巣がんは比較的少ないがんですが、気づいたときにはお腹の中に広まって進行していることが多く、検診などでも見つかりにくいがんです。

 

その卵巣がんに対して、遺伝検査に健康保険が適用されるようになってきたので、どんな内容なのかお伝えします。

 

 

卵巣がんの遺伝治療とは

2019年ごろから卵巣がんに対して、BRCA(ビーアールシーエー)という遺伝子の変異をお持ちかどうかの検査を行うことが必須となりました。なぜ調べるのかというと、BRCAの変異がある人はがんになりやすい傾向があり、しかも「乳がん・卵巣がん症候群(HBOC:読みエイチボック)」であるといえるからです。

 

 

その遺伝子変異がある場合、生まれつき持っている遺伝子によって、乳がんや卵巣がんになる可能性が高いことが分かってきました。検査でそれが判明すると「がんになる可能性が高い」と知って、ショックを受ける人もいるかもしれません。ですが、リスクが高いBRCA変異を持っていると事前に分かれば、さまざまな対応ができます。

 

まず、予防的な治療ができます。よく効くお薬も分かっています。

今はそれらの治療に健康保険の適用があるものも出てきたので、安心して手厚い治療を受けられます。

 

では、具体的にBACA変異を持つHBOCだと分かったら、どのような治療があるか説明していきます。病名が日本語でなくアルファベット4文字の略称で呼ばれることに慣れない人もいると思いますが、多くの病院でHBOC(エイチボック)が使われ、医療関係の記事などでも目にする機会が多いと思いますので、ここでもHBOCと記載していきます。

 

 

予防的に卵巣の摘出も可能

現状では、乳がんの既往があってBRCA変異のある患者さんは、卵巣を摘出する手術を予防的に受けられます。この予防的手術は、数年前から健康保険が適用されるようになりました。

 

もう10年近く前になりますが、米国の有名な女優さんが、この遺伝子変異があるため、両側の乳房と卵巣・卵管を予防的に切除する手術を受けたとの報道があり、世界中で大きなニュースになりました。しかし、いまや日本でも予防的切除は治療の1つとして認知されるようになってきました。

 

 

予防のために摘出するって聞くと、病気でもないのに体にメスを入れることに不安な人もいると思いますが、当医療センターはHBOC診療の基幹施設に認定されています。和歌山のHBOCの患者さんには最適な医療を提供できるように遺伝カウンセリング含め準備していますので、まずは相談からスタートし、医療的なメリットをご説明します。切除することのデメリットも納得いくまでご説明しています。

 

薬物療法も新しくなってきました。

既に乳がんや卵巣がんを発症している場合も、遺伝子変異によるがんに効く薬がでてきました。薬なので副作用もあるので処方量も考えなければなりませんが、近年では効果の高い薬が開発されて、従来の治療よりも長生きできる人が増えてきました。がんサバイバー(生存者)として、少しでも自分らしい生活を送っていただけるよう一緒に治療に取り組みたいと考えています。

 

 

遺伝は100%ではありません。一般的に半分くらいのパーセンテージで遺伝する可能性があると考えられていますが、他の病気と比較しても、割合でいえば非常に高いと言えます。ご自身がHBOCと分かれば、血縁のある人、例えば娘さんや息子さんもリスクが高い可能性が分かります。調べて判明することで、受けられる治療が分かったり、若年のうちから定期的に検診を受けるなど予防方法がいろいろあるので、メリットは大きいです。

 

血縁に乳がん、卵巣がんなどを罹患している人がいたり、気になる症状がある人は、躊躇せずにご相談いただければと思います。

 

山西 優紀夫(やまにし ゆきお

日本産科婦人科学会産婦人科指導医・専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医、日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医。

息子のサッカー観戦が、最近の休日の楽しみです。

 

 

 

 

婦人科治療の進歩① 遺伝医療(2022年03月24日公開)←今回

 

婦人科治療の進歩② 手術療法(2022年04月07日公開)

 

婦人科治療の進歩③ 腹腔鏡・ロボット支援下手術(2022年04月21日公開)

 

婦人科治療の進歩④ 放射線治療(2022年05月05日公開)

 

婦人科治療の進歩⑤ 子宮頸がんワクチン(2022年05月19日公開)

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