日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

新型コロナウイルスと共存していくための心構え

2020/06/19

新型コロナウイルス感染症の国内外の流行で、多くの人が自分も感染するかもしれない恐怖、罹患したらどうなるのかという不安を抱いたと思われます。その恐怖心や不安を感じるストレスが蓄積したり、それらの気持ちに飲み込まれそうに感じた人もいるでしょう。

 

恐怖心や不安を小さくしたり、やわらげたりするコツがないのか、東精神科部長にメンタルヘルスの観点から伺います。

 

 

 

新型コロナウイルス感染症を怖いと思っていても、人によって怖さの感じ方に差があるのは、なぜですか?

振り返ってみると、国内で感染が拡大するまでは、国外でのニュースとして、ある意味、他人事と捉えていた人が多かったと思います。一転、それが国内で流行が確認されると、次第に多くの人が不安や恐怖心を抱くようになってきます。そこから言えることは、不安や恐怖を引き起こしているもの、今回は新型コロナウイルスですが、それとの距離や接触機会の頻度によって感じ方に差があることが分かります。元凶が実在しても遠かったりして、自分との関係性が薄い場合は怖いと感じにくいと言えるでしょう。

 

和歌山では、比較的早い2月中旬に濃厚接触者の多いクラスター事例がありました。今まで、遠いと思っていたウイルスが近くにあったことが分かった訳ですから、恐怖心や不安を強く実感しました。その中でも、濃厚接触者として検査を受けた人や、その家族、関係者は、思いがけない事態に強いストレスを感じたことでしょう。予想や予定と違う事態が襲いかかるというのは、非常に大きなストレスになります。

 

また、新型コロナウイルス感染症で失うものを具体的に想像できる人も、恐怖心や不安を大きく感じる傾向があります。持病がある人は、命そのものを失ってしまう恐怖を感じる度合いが大きくなります。新型コロナウイルス感染症にかかったことで、仕事や人間関係、地域での立場などを失う、大切な人に感染させてしまうかもしれないと想像する人も、その思い描いたものが鮮明であればあるほど、不安を大きく感じます。ですから、不安や恐怖を感じる人は、実はまじめで想像力豊かな人、抱えていることや責任の自覚が大きい人と言えます。

 

 

流行初期は専門家でも新型コロナウイルスのことが分かっていなかったので、一般の人が知識不足から感染予防の行動ができていなかったり、感染したかもとパニックになっていた場合もあるでしょう。自分が感染源になると想像することが難しかったのかもしれません。だからと言って他人を故意に感染させる行動が許されるものではありませんが、パニックに陥ると視野狭窄と言って、周囲が見えなくなり、周囲から孤立したり敵対しているように感じるので、知らず知らずのうちに自己中心的な行動をとってしまいます。新型コロナの場合、身体的な隔離・治療とともにメンタルケアも必要だと思います。認識や危機感には個人差があるので、今後も全員が同じ認識レベルになることは難しいでしょう。しかし、これからは認識の差はあれど、みんなで同じ方向を向いて「感染しない、感染させない」と努力を積み重ねていく必要があります。そのためには、今だけでなく明日、明後日、1週間後、1ヵ月後と未来的な時間軸を考えることで、不安の原因を正面から見つめられるようになっていくでしょう。

 

 

認識の差は、どうして生まれるの?

新型コロナウイルス感染症は、今まで当たり前だと思っていたものを根こそぎ失ってしまう事態を引き起こしています。我々は、食べるなど生命維持に必要な要件が満たされないと活動できません。その次に、安心できる場所(家や家族)が必要です。そして、地域や学校・職場など自身が所属しているコミュニティでの居場所があって、災害や戦争などがなく社会や国が安定していることが生活の基本です。そうした状況で、学校や職場、地域で存在が認められ、ときに褒められたり評価されて、ここまで揃ってようやくスポーツや芸術などを楽しめるようになります。このことを精神医学では「自己実現の欲求」と言いますが、新型コロナウイルス感染症が終息するまでは、生命維持、家族、地域という身近なところの安定を優先させる必要があります。

 

 

命か経済かと二者択一のように語られることもありますが、迷うときは最低限の欲求に近いものから実現させることがポイントです。趣味やレジャーであれば優先順位が低いですが、そのレジャーを生業にしていれば優先度は高くなります。自分の優先度とともに相手の立場を考えられるようになると、風評被害を招くような中傷や暴言にまでは至らないのではないでしょうか。

 

不安や恐怖感を感じながら生活するには、どうしたら良いですか?

 

これまでの精神医学では、不安や恐怖心が「うつ」などを引き起こしている場合は、その原因と考えられるものを遠ざけることが第一選択でした。しかし、新型コロナウイルスは日本中、世界中に存在していて、通常の社会生活を送っている限り感染の可能性をゼロにはできません。今までみたいに「ストレス要因から逃げなさい」とアドバイスできないのは、もどかしいのですが、今回ばかりは逃げてばかりもいられない。ですから、過去の感染症克服の歴史を知り、予防行動を多くの人が一緒に実践する。科学・医学で明らかにされていくことを理解し、その理解を積み上げていく、まさに「敵を知る」気持ちになれると漠然とした不安は小さくなるでしょう。

しかし、不安のあまり1日5時間未満の睡眠が2週間以上続いたり、食欲が減退したり、何をしても楽しいと思えないときは、心がSOSを発信していますから、精神科・心療内科を受診しましょう。

 

 

医師や看護師は、新型コロナウイルスを怖いと感じていないのでしょうか?

 

 

未知のウイルスですから、医療従事者も怖さを感じていないわけではありません。しかし、知識を持っているので、予防行動を適切にできる側面はあります。「怖いからこそ適切な予防行動をする」が、医療従事者だけでなく社会全体で合言葉になってきたように思います。

 

問題は、コロナとの関わりが高い医療従事者やエッセンシャルワーカー(生活維持に必要な事業従事者)は生活に欠かせないことをしているはずですが、周囲から恐怖心のために避けられたりする報道もあります。病気自体よりも、社会的・心理的な圧迫、疎外、孤立という別の不安を生み出しています。このことは、日本赤十字社ホームページの新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」で詳しく解説しています。そのような気持ちになるプロセスを理解していただき、差別を生まない心を持っていただきたいと思います。

 

そして、まだ多く語られていませんが、コロナにかかった人も、病気で大変な思いをし回復した人だと知ってもらいたいですね。インフルエンザなどの他の感染症から回復した人と同じように冷静に受け入れていくことが大切です。かかったことを秘密にしたり、かかったことで孤立しないようにお互いに受け入れることが、今後、新型コロナウイルスと長く共存する生活の中で必要だと感じています。

 

 

第二波に備えて、どんな心構えをすると良いですか?

 

第二波に備えて、まずは感染しないように予防する、次に自分が感染したらと想像してみる、そして、身近な人が感染したら、どう接するかをイメージしておく、エッセンシャルワーカーの人の立場や気持ちを想像してみる、これらの想像力が感染予防の行動につながります。

感染するかもしれないという漠然とした恐怖で思考を止めずに、感染しないためにどうするのか、感染した後をどう乗り越えるかまで考えられると、恐怖心・不安を小さくできるでしょう。

 

 

まずは、自分と向き合ってみてください。そして、その向き合うことを少しずつ周囲に広げてください。気持ちを一方だけでなく、いろいろな方向に向けられるようになると、物事を相対的に、客観的に、俯瞰的に見られるようになります。心がひと回り大きくなると、抱えている恐怖心・不安を小さく感じられるようになります。

 

第二波がいつ来るのかと緊張した気持ちでい続けることも、難しくしんどいものです。感染予防の行動を早く習慣化させ、無意識にも手洗いなどができるようになると、心にゆとりが生まれます。行動からも心を平穏に持つことができることも知ってもらいたいですね。

みんなで乗り越えていきましょう。

 

 

感染を予防するための行動(2020年3月13日公開)

感染を予防するための行動 No.2(2020年6月22日公開)

 

※ 2021年12月15日「長期にわたるコロナ対策の疲弊とメンタルヘルス」を公開しています。あわせて、ご覧ください。

詳しくはこちら

日本赤十字社 和歌山医療センター病院サイトはこちら

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