日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

長期にわたるコロナ対策の疲弊とメンタルヘルス

2021/12/15

新型コロナウイルス感染症の国内流行から2年近くが経過しました。

マスクの着用、3密(密集・密接・密閉)の回避、長時間にわたる大人数での飲食の自粛、イベントの開催方法の見直しなど、感染予防・感染拡大防止の行動が定着しつつあります。

 

一方で、感染対策を優先する生活が長引く中、いつまで続くのかとモヤモヤし、心の疲れを感じていませんか? この状況に対して、メンタルヘルスの観点から見えること、心がけなど、東 睦広 精神科部長に伺っていきます。

 

何度も「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」が発出され、行動の自粛や様々な制限が続いていますが、こころの変化はありますか?

 

2020年の春くらい、最初の緊急事態宣言が発出されたころは、新型コロナウイルス感染症について分からないことが今よりもずっとずっと多かった時期でした。

 

新しい情報を見聞きする度に大きな恐怖や不安を感じた方もいました。さらに、行動の変化に対しストレスを感じる方も多く、生活していくヒントになればと記事(2020年6月19日付)を掲載しました。

 

既に2年近くが過ぎ、マスクの着用やアルコール消毒は日常となりました。生活行動の変化に慣れてきたと感じている人もいらっしゃると思います。

 

 

人は同じことが続くと、目新しく刺激的に感じたことも当たり前になります。慣れは、新しいことへのストレスが小さくなるという生活に必要な反応です。しかし、慣れにも別の側面があり、危機感の薄れにもつながります。

 

さらに、人は、自分の判断や行動に対して正当化するという心の動きをします。仕方がないことだと自分を納得させる理由を無意識に生み出したり、こじつけたりするのです。規則正しい生活、仕事、勉強など、すべきことがハッキリしているのに、できない理由や言い訳などが出てくることって、日常でもありますよね。

 

with コロナの緩和策に乗じて感染予防を緩める人は、大人数での食事やライブへの参加などは慎重にした方が良いことは知っていますが、本来したい行動、自分の好きなことを優先させてしまいます。

 

一方で感染が激減しても、医療従事者や介護福祉サービスの従事者などは、感染予防の行動を続けています。

継続させるコツはありますか?

 

 

なぜ、継続できるのかというと、

 

① 新型コロナウイルス感染症について、常に正しい情報をアップデートして、感染予防に意識を向けているから

 

② 万一、自分が感染すると、自分が原因で誰かの健康が損なわれたり、場合によっては重症化したり、後遺症が残ったりするかもしれないと、行動した先まで考え、強く自戒して行動しているから

 

この2点が大きいと考えます。

 

人は、自分の身近なものほど関心を寄せる傾向があります。身近とは、物理的な距離の場合も、心理的な距離による場合もあります。遠く離れた場所で起こった大事件よりも、町内で起こった小さな出来事に関心を寄せやすかったり、たとえ遠く離れていても、そこに家族や知人が住んでいれば、その地域のニュースが気になったりするものです。ですから、よく使っているSNSの書き込み、地域の人の口コミを信用する傾向があります。

 

しかし、新型コロナウイルス感染症に関しては、情報の正確さが重要です。SNSの書き込みや地域の噂よりも信頼できる機関が出している情報、正しい情報を入手するように努めましょう。

 

万一、自分が感染したら・・・と想像することも、警戒心の維持に役立ちます。人は自分が悪者になる、損をする行動を回避する傾向があります。感染予防の行動を継続する労力と、感染後のさまざまな困難を天秤にかけた場合、ほとんどの人は、感染後のリスクを回避したいと考えるのではないでしょうか?

 

 

新型コロナウイルスに感染した人は、「後悔」「怒り」「抑うつ」「罪悪感・自責的思考」「社会からの孤立感・疎外感」「束縛感」「死に対する恐怖」などを感じます。ほとんどの人が「あの時の、あの行動が原因かも?」と自分を責めたり、自分の行動を後悔すると言われています。なりたくてなった病気でないのに、身体的な症状だけでなく精神的にもダウンしてしまう人が一人でも少ないように、感染予防の行動を継続いただきたいですね。

 

「感染予防の徹底のため、外出や遠出を控えよう」「経済を回すために、社会的行動を積極的にしよう」というような真逆とも考えられるメッセージを受け取ると、混乱してしまいます。

 

真逆のメッセージを受け取ったり、自分の中に真逆の考えがあると、それぞれを考え、さらに総合的に考える必要もでてくるので、考えることが倍増してストレスが増えます。しかも、その考えが相反するばかりで統合できない場合、非常に大きなストレスになりえます。

 

また、職場など所属する集団と自分の考えが違う場合も、大きなストレスになります。どんな物事も、立場や経験、知識の差などで感じ方は人それぞれです。しかし、ストレスが大きいと、自分と違うさまざまな考えがあることを許せなくなったり、広い視野を持てなくなったりしてしまいます。

 

現状では、誰もが、次に挙げるような3つの考えを持ち合わせているのではないでしょうか?

 

① 感染予防は大切で、予防行動を最優先する。行動の自粛が必要と考える。

② 感染予防をしながら、通勤・通学・レジャーなど社会活動を優先的に実行する。

③ 感染状況は、自分でコントロールできないし、感染するのは運によるとあきらめる。

 

ほとんどの人は、①をが1番大切だと理解しています。けれど、②や③の気持ちもあって、②の比率の高い人が一番多いように思います。

誰もが③の考えを持つとは、意外に思われるかもしれませんが、ゼロだという人はいません。感染が拡大してしまったら、自分一人では仕方ない…と思うことは誰にでもあるものです。

 

 

個人個人でそれぞれの比率は違うでしょう。そして、比率の違う他者を受け入れようと、お互いに気遣い合っています。

 

ここで注目してもらいたいのは、他者への気遣いと同様に、自分の気持ちも否定しないことです。自分自身にストレスを感じている人も、少なくありません。自分の理想と違う現状、弱音を吐きそうな自分も否定しないで、まずは、ありのままで受け止めてみてください。

 

コロナによって心が疲れてきたと感じたとき、どのようにしたら良いですか?

 

心は、アップダウンするものです。考えにも幅があります。感染予防に集中できれば良いですが、実際には仕事もあり学校もあり、いろいろな社会活動をしています。

 

 

心が疲れて予防行動の熱が冷めてきたと感じたら、行動する前にちょっと立ち止まって、自分に問いかけてみてください。そして、「自分の感染予防行動が感染拡大を止める」と信じてください。ヒーローやヒロインのように目立たなくても、感染予防の行動を続けている「あなた」の、「わたし」の頑張りが尊いのだと気づいてください。感染予防を継続している「自分」を、そして「周囲の人」をリスペクトしませんか?

 

コロナは、どのように収束するのか、現時点では分かりません。新しい変異株も出てきて、もうしばらくは感染予防行動を続けないといけないでしょう。他力本願になるよりも、まずは、自分自身の感染予防行動が収束に向かわせるのだと信じたいものです。

 

感染予防の行動を継続して、みんなで乗り切りましょう。

 

 

感染を予防するための行動(2020年3月13日公開)

 

感染を予防するための行動 No.2(2020年6月22日公開)

詳しくはこちら

日本赤十字社 和歌山医療センター病院サイトはこちら

Share

この記事を気に入ったならシェアしよう!