『終末期だけでない緩和ケア!」当医療センターで行っている早期からの緩和ケアについて、様々な職種の関わりをご紹介します。

「緩和ケア」医療の目的と外来診察

2025/03/12

緩和ケアを知ると、入院中でも、病気を抱えながらの生活においても、痛みやつらさが和らいだ状態で過ごしていただけるはず・・・。当医療センターで行われている緩和ケアをご紹介する、こちらの連載。

 

今回は、「緩和ケア」の目的と外来診察について、ご紹介します。

 

緩和医療の目的の1つは、患者さんとその家族のQOL(生活・人生の質 Quality Of Life)を高めることです。

 

QOLを保ちながらがんとともに生きていくには、患者さん本人やご家族と、医師・看護師だけではないさまざまな専門職種の医療関係者とのかかわりが必要です。

 

和暦がまだ昭和の昔なら、患者さん本人には偽りの病名(例えば、胃がんなら胃潰瘍など)を告げて、ご家族の意見だけで、手術や抗がん剤などの治療法が決まってしまうことが、むしろ当たり前でした。

緩和ケアやホスピスという言葉はあったにせよ、それは、最後の最後まで治療をがんばってそのあとに行き着くところ、といった印象を多くの人が持っておられたと思います。

 

 

しかし、時代は進み、がんは生涯のうちに2人に1人がかかる病気であるとか、抗がん剤を始め、がん治療の目覚ましい進歩だとか、患者さんの知る権利だとか、個人情報の保護だとか、多様性を認めようとか、私たちの意識は大きく変化しています。

 

いまや、がん治療は、

①患者さん本人の理解と同意の上に成り立つもの

②抗がん剤をはじめとする薬物治療は、入院だけではなく、最近は通院治療で行うもの

③がんに伴うあらゆる苦痛を和らげる緩和ケアは、がんの診断と同時に開始されるべきもの

との認識が広まりつつあります。

 

「緩和ケアを早く始めた方が、生存率が伸びる」という研究結果も報告されています。

これは大変望ましいことですが、初めてがんと告げられるときのショックは、昔も今も変わりません。

 

 

一般の外来診察の場で、がんの診断・告知を受け、その後の説明は頭の中を素通りしてしまったという話は、いまだによく聞かれます。がんと告げられたショックで頭がボーとして、医師の説明の切れ目に無意識にうなずき、帰宅して落ち着いたら、どう帰ってきたのかも思い出せない、数日しても自分のことのように思えないと伺います。

 

「初めてがんの診断を受けたとき」というのは、緩和ケアにとって最も大切な時間です。

 

「消化器科」「泌尿器科」「婦人科」「呼吸器科」など、がんの発生した臓器に関する外来で検査や治療を実施しながら、緩和ケア内科の外来で、身体の痛みや気持ちのつらさ、それに伴う症状などのケアを受けていただきます。

 

たとえば、がんと診断され、通院しながら抗がん剤治療を受けることになれば、通院に合わせて緩和ケア内科外来も受診していただきます。主治医も薬物療法センターの医師も、抗がん剤治療の副作用を軽減させる配慮はしていますが、より専門的に痛みや吐き気などの症状について相談したり、薬を処方したり、治療に対する気持ちの変化などを伺います。

 

緩和ケア内科外来の担当医は、それぞれ、放射線治療科や麻酔科、心療内科、消化器外科などの知識や経験を有しており、広い視野から緩和ケア医療を受けていただけると考えています。

 

治療を目的としている主治医には申し出にくかったり、伝えきれなかったりする身体的・精神的苦痛に対して、緩和ケア内科外来が一緒に向き合える場となるよう願っています。

 

緩和ケアは、がんの治療を「諦めた」ところから始まるのではありません。がんの「診断を受けた」その時から始まるものとお考えください。

 

 

がん治療を行う主担当科の医師と緩和ケアの医師は、同じ方向を向いています。

「がん治療」と「緩和医療」、どちらの立場から患者さんを診るかによって、アプローチは違いますが、どちらも全人的医療を目指しています。がんの治療そのものが緩和につながれば言うことはありませんが、治療を進めると、手術であれば傷口、抗がん剤治療であれば副作用など、治療によって痛みやつらさが新たに出てくることもあります。

 

そして、治療途中に治療方針を変更するギアチェンジを余儀なくされることもあります。それだからこそ、「早期から緩和医療の視点を持つ」ことの意義があると考えます。

 

 

次回は、当医療センターの一般病棟で受けられる緩和ケアについて、ご紹介します。

 

 

宇山 志朗 (うやま しろう)

日本外科学会外科専門医。

好きなことは、料理、読書、居眠りしながらする古典芸能鑑賞。

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