日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

肝胆膵がんの診断と治療① 肝がん

2022/06/09

がんは命に関わる病気で、かかる人も多い病気ですが、近年は医療の進歩により様々な治療法が開発されています。がん治療は、主に、外科的な手術、抗がん剤、放射線治療の3つですが、それらのいいところを組み合わせた診断や治療が進み、一人ひとりの患者さんに最適な治療方針が立てられるようになりました。

 

今回から3回にわたって取り上げる肝がん・胆道がん・膵がんは、初期に自覚症状がなく、それぞれ難しい状態で見つかりやすいがんです。しかし、当医療センターでは、それぞれの治療の専門医による集学的治療(チーム医療の1で、当医療センターではユニット診療と呼んでいます)をがんセンターで行っています。

 

早期診断・早期治療が何より大切です。それぞれの病気について知識を得ていただけるよう、消化器外科の安近部長に伺います

 

 

まずは、肝がんの種類や原因、治療法について説明していきます。

 

和歌山県では比較的多く報告されている肝がん

全国的な統計によると、和歌山県には肝がんの患者さんが多いとされています。

国立がん研究センターの2018年がん統計では、全国では38,000人ほどの患者さんが診断され、25,000人の患者さんが亡くなられています。和歌山県では、450人の患者さんが診断され、肝がんが原因で亡くなられた患者さんの数は、全国で17番目に多いとの報告がありました。

 

肝がんの発見

肝臓は、右腹部のあばら骨の下に約1.2㎏もある大きな臓器です。肝臓の働きは、主に3つあり、1つ目は、私たちの体に必要な蛋白の合成・栄養の貯蔵。2つ目は、有害物質の解毒・分解。そして3つ目が、食べ物の消化に必要な胆汁の合成・分泌です。

 

 

もし、肝がんになっても自覚症状がほぼありません。そのため、早期診断が難しい病気です。治療が難しい段階で見つかって、亡くなられる患者さんが多い結果につながっています。

 

自覚症状からではなく、肝臓以外の治療で病院にかかる中で、たまたま血液検査で引っかかり、CTMRIなど画像診断で診断されることがほとんどです。定期的な検査を受ければ、早期発見の可能性が上がります。

 

 

肝がんの種類と原因

肝がんは、大きく2つに分けられます。

もともと肝臓にある細胞ががん化する原発性肝がんと、ほかの臓器にできたがんが転移して発症する転移性肝がんです。さらに、原発性肝がんも2つに分けることができます。肝細胞がんと肝内胆管がんです。

 

肝細胞がん

肝細胞がんは、多くの原因がウイルス性の肝炎です。何らかの肝障害が背景にあって生じます。日本人の原因でもっとも多いのがC型肝炎、続いてB型肝炎、続いてアルコールです。その他、最近注目されているものには脂肪肝があります。肝障害のある方は、定期的な検査が大切です。

 

肝内胆管がん

肝臓の中で作られている胆汁は、胆管の中を流れていきます。この胆管を作っている細胞が、がん化したものが胆管がんです。肝臓の中にも胆管があり、それががん化すると肝内胆管がんとなります。定期検診で、肝機能の異常や肝内胆管の拡張の指摘を受けたら、精密検査をしましょう。CTMRI画像で診断されることが多いです。

 

 

肝細胞がんの治療

肝細胞がんは、大きく分けて4つの標準治療(治療の効果が科学的に確かめられており、現時点で推奨される治療)があります。

手術、局所療法(ラジオ波焼灼療法(RFA)など)カテーテルで肝臓に抗がん剤を流す(肝動脈塞栓化学療法(TACE))、そして、④ 全身の抗がん剤投与です。全身抗がん剤治療として、現在、薬剤の開発が進んで6種類の方法があり、さらに開発が進められています。

 

 

肝臓は、再生する(切り取られて小さくなっても、また、大きさに戻る)という特徴があるため、肝臓全体の7割くらいまで切り取る手術まで可能です。ただし、それぞれの患者さんの肝臓の働き方次第で切り取れる範囲は異なりますので、治療の際には、詳しい肝機能検査が必要です。それぞれの患者さんのがんの状態や肝機能に合わせて最適な治療法を選択しています。

 

治療の選択肢が大幅に増え、それぞれの患者さんに最適な治療を選べるようになりました。しっかり検査をした上で診断していきます。これまでに培った経験と知識をもとに、最新の研究・知見などを取り入れて、患者さん一人ひとりに最適な治療を届ける所存です。安心して治療を受けていただければと考えています。

 

安近 健太郎(やすちか けんたろう)

日本肝胆膵外科学会高度技能専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医(肝)、日本肝胆膵外科学会評議員。

趣味は、読書とスポーツ観戦。バスケットボール・バレーボール・駅伝は、学生時代に部活経験があり、特に好きです。

和歌山に赴任して、古座川の一枚岩・串本の橋杭岩などの自然や、熊野本宮大社・神倉神社など古くからの文化を感じられるところに、魅力を感じています。

 

 

 

肝胆膵がんの診断と治療① 肝がん(2022年06月09日公開)←今回

肝胆膵がんの診断と治療② 胆道がん(2022年07月14日公開)

肝胆膵がんの診断と治療③ 膵がん(2022年8月11日公開)

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