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消化器外科


診療概要

当科では主に以下の肝胆膵領域の疾患に対する治療を行います。

●肝疾患

・原発性肝がん:肝細胞がん、肝内胆管がん

・転移性肝がん:大腸がん・胃がん・食道がんなど他臓器からの転移

 

●胆道疾患

・胆道がん:胆管がん(肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん)、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がん

・胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)

・胆嚢結石症、総胆管結石症、肝内結石症

・膵胆管合流異常症、先天性胆道拡張症

 

●膵疾患

・膵がん:膵管がん、腺房細胞がん

・のう胞性腫瘍:

  膵管内乳頭粘液腫瘍(IPMN)

  粘液性のう胞腫瘍(MCN)

  漿液性のう胞腫瘍(SCN)

・膵神経内分泌腫瘍(p-NET)

・その他の膵腫瘍:

  充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)

・膵炎(急性・壊死性・慢性):内科的治療で難治性の場合

 

●その他

・外傷:外傷性肝損傷、外傷性胆道損傷、外傷性膵損傷、外傷性脾損傷

・十二指腸腫瘍

・肝臓・胆道・膵臓周囲の後腹膜腫瘍

・脾機能亢進症:脾臓腫瘍、血液疾患(悪性リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病など)

        門脈圧亢進症(肝硬変症、特発性、肝外門脈閉塞症)

・脾動脈瘤

 


肝臓とは

解剖

肝臓はおなかの中で最も大きな臓器であり、大人では約1,200gの重量があります。右上腹部で横隔膜を境にして肺・心臓のすぐ下に位置しています。
肝臓は肝動脈・門脈という2種類の血管により血液が流れ込み、肝静脈という血管で血液が流れ出てゆきます。このように多くの血管が関わる肝臓は非常に血流の豊富な臓器です。

機能

肝臓のはたらきは大きく分けて以下の3つになります。

1. 代謝 :

食べたものから吸収する糖・たんぱく質・脂肪を体内で使える形にして蓄え、必要に応じてエネルギーとして供給します。

2. 解毒 :

アルコールや薬、老廃物を分解して無毒化します。

3. 胆汁産生:

脂肪分を消化吸収するための消化液である胆汁を作り出します。胆汁には老廃物を含めて流す役割もあります

 

肝臓の腫瘍

肝臓にできる腫瘍(細胞が集まってできる“できもの”)には良性腫瘍と悪性腫瘍があります。治療の対象となるのは悪性腫瘍であり、「肝がん(肝臓がん)」といわれます。
肝がんには大きく分けて下記2種類があります。

1.もともと肝臓にある細胞が「がん化」して発症する原発性肝がん
2.肝臓以外の臓器にできたがん細胞が肝臓へ転移して発症する転移性肝がん

 ●原発性肝がんの種類

原発性肝がんは上図のように分類され、その大多数は肝細胞がん(約95%)と肝内胆管がん(約4%)で占められます。

 ●どんな病気?


肝細胞がん

原発性肝がんの大部分を占める肝細胞がんは慢性肝障害をもとにして発症することが知られており、肝障害の原因としてその多くはウイルス性肝炎(C型肝炎(約65%)・B型肝炎(約15%))が占めています。一方、近年では上記のウイルス性肝炎を持たない患者さんからの発症(non-B/non-C型肝がん)が増加傾向であり、日本肝癌研究会による全国追跡調査では1992年には10%台であったものが2006年には21.5%にまで上昇しています。
non-B/non-C型肝がんの原因としては大きくアルコール性と非アルコール性に分けて考えられ、近年その頻度が増加傾向にあることから注目されているのが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。健康診断での超音波診断による脂肪肝の頻度は年々増加しているといわれ、2009~2010年では男性は約40%、女性は約20%との報告があります。NAFLDの中でも肝がんへ進展する重要な病態として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が注目されています。日本肝臓学会の検討によると、non-B/non-C肝硬変を基盤として発症した肝がんのうち、NASHが原因とされるものは2008年の2.5%から2011年には20%へと増加しています。

肝内胆管がん

発症に関係する病態としては、肝内結石症、原発性硬化性胆管炎、先天性胆道拡張症、肝吸虫症、ウイルス感染(HCV、HBV感染など)、トロトラスト(現在では使用されない造影剤)、一部の有機溶剤(1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン)などが挙げられますが、こうした原因がなくても発症する可能性があります。

転移性肝がん

肝臓以外の臓器にできたがん細胞が血液の流れによって肝臓へ運ばれ、そこで増殖して発症します。大腸がんからの転移がもっとも頻度が高く、その他のがん(胃がん、食道がん、乳がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がんなど)からの転移もあります。

検査・診断

血液検査

一般採血(CBC、生化学検査)、腫瘍マーカー(AFP、PIVKAII)、ICG検査

画像診断

超音波検査、CT、MRI、FDG-PET、アシアロシンチグラフィー(必要に応じて)、血管造影検査(必要に応じて)など

病理検査(組織診断)

手術した場合は切り取ったもの(切除標本)を細かく切って顕微鏡検査(病理組織検査)を行います。がんの本体だけでなく、リンパ節など周囲組織へのがんの広がり(浸潤・転移)も細かく診断され、下記の進行度分類が確定されます。

進行度分類

原発性肝がんは数、大きさ、脈管浸潤、リンパ節転移、他臓器転移によって進行度が分類されます。
1. 1個だけである
2. 大きさが2cm以下である
3. 脈管浸潤(周囲の血管・胆管に入り込んでいること)がない

 <肝細胞癌>

< 肝内胆管がん>

転移性肝がんはもともとがんができた臓器の取り決めに準じて進行度が決まります。

治療選択肢(抗がん治療)

肝細胞がん標準治療

1. 手術
2. 局所治療:ラジオ波焼灼療法(RFA)、エタノール局注療法(PEIT)
3. 肝動脈塞栓化学療法(TACE)
4. 全身化学療法:抗がん剤(分子標的治療薬など)
上記の標準治療では治療が困難な場合は下記治療が考慮されます。
・肝動注療法
・放射線治療
・肝移植
・緩和医療
治療法選択については「肝癌診療ガイドライン」(下図)が日本肝臓学会より提唱されています。

肝内胆管がん標準治療

1. 手術
2. 全身化学療法:抗がん剤
3. 放射線治療

転移性肝がん

もともとがんができた臓器の取り決めに従って治療方針を決定します。

肝機能評価は治療法選択の重要な因子となっています。肝臓は大変多くの働きを担っており、肝機能評価法も数多く存在しますが、Child-Pugh分類(表1.)や肝障害度(表2.)が一般的に用いられています。当ユニットではこうしたガイドラインを参考にしたうえで、腫瘍の進行度や患者さんの全身状態(肝機能、心機能、呼吸機能、腎機能など)を総合的に診断したうえで、それぞれの治療法の特徴を生かした最適の治療法を選択しています。

治療法の詳細

1. 手術

はっきりとした転移がなければ、がんを完全に取り除くことを目的とした手術を選択できます。肝臓は解剖学的にいくつかの部分(亜区域・区域・葉)に分けて名称がつけられています。がんの広がりに応じて切除する範囲が決まります。がんを取り残さないために十分な範囲を切除する必要がありますが、順調に術後回復するために必要な肝臓を残す必要があります。術前の肝機能評価(血液検査)と画像診断(CT・MRI)をもとにした手術シミュレーションを詳細に行い、術式を決定します。切除する肝臓が大きすぎる場合は、肝臓を栄養している血液の流れを部分的に遮断することで切除される予定の肝臓の大きさを小さくする治療(門脈塞栓療法)を行う場合もあります。

 

術式は大きく下記2種類に分かれます。

●非系統的切除術:部分切除術・核出術

各領域の解剖学的範囲に関わらず、腫瘍から一定の距離をとって切除します。

 

●系統的切除術

各領域の解剖学的範囲に従って切除します。

・亜区域切除術:S6亜区域切除術など

・区域切除術:後区域切除術など

・葉切除:右葉切除術など

・腫瘍が大きい場合や存在位置によってさらに大量の肝臓を切除する術式も考慮されます。

 

肝臓は肋骨に囲まれているため、開腹手術の場合には大きく切開する必要があります。一方で、腹腔鏡手術では腹部に数ヵ所の穴をあけることで手術ができるため、近年急速に普及してきています。当医療センターでも積極的に腹腔鏡手術を行っていますが、患者さんの病状によっては開腹手術が適している場合もあります。正確な術前診断と手術シミュレーションに基づいて、それぞれの患者さんの病状に適した手術方法を提案します。


 
<開腹手術の例>

 <腹腔鏡手術の例>

●術後

術後の合併症(合併症の項を参照)を予防するためには早く起き上がること(早期離床)が重要であるとすでに立証されていますので、手術翌日にはベッドから起きて歩く練習が始まります。(もちろん、看護師が付き添います。)

肝切除術のみであれば、食べ物の通り道(消化管:食道・胃・小腸・大腸)を切ったりつないだりしていることはないので、翌日には水分をとることができ、術後3日目から食事を摂ることができます。最初はお粥ですが、徐々に普通の食事になっていきます。合併症なく順調に経過すれば術後10日程度で退院となります。退院後は特に日常生活の制限はありません。

 

 

2. ラジオ波焼灼療法:RFA

超音波(エコー)でがんの位置を確認し、針(電極針)をがんに刺したうえで高周波電流(ラジオ波)を通電させ、針周囲の温度を約70~80℃に上昇させます。この熱により針周囲のがん細胞にダメージを与えて(焼灼)治療します。

局所麻酔での治療です。順調に経過されれば治療後数日(3~5日)で退院となります。

 

 

3. 肝動脈塞栓化学療法:TACE

肝細胞がんは肝動脈から栄養・酸素を受け取り成長します。そこで、主に足の付け根から動脈内にカテーテルを挿入してがんの近くまで進め、がんを栄養している肝動脈(栄養血管)内から抗がん剤を注入する(化学療法)ことでがん細胞にダメージを与えます。抗がん剤を注入した後で栄養血管に塞栓物質(ゼラチンスポンジ)を注入して、一時的にがんへ血液が流れないようにすることでがんを栄養・酸素欠乏状態にさせて治療します。

局所麻酔での治療です。順調に経過されれば治療後数日(3~5日)で退院となります。

 

 

4. 全身化学療法:抗がん剤

肝細胞がん
近年、肝細胞がんに対する薬物治療の発展は目覚ましく、現在では6種類の抗がん剤・分子標的治療薬(治療レジメン)が保険適用となっています。今後もさらに治療法が増えると考えられます。
・ソラフェニブ
・レンバチニブ
・レゴラフェニブ
・ラムシルマブ
・カボザンチニブ
・アテゾリズマブ+ベバシズマブ
患者さんの状態・治療経過に応じて最適な治療レジメンを選択しています。
肝内胆管がん
肝臓以外の部位にもがんが広がっている(転移)場合や、安全かつ完全に取り切れる範囲を超えてがんが拡がっている場合は、全身への治療効果を期待して全身化学療法の適応となります。現在、肝内胆管がんに対する抗がん剤として、ゲムシタビン、S1、シスプラチンが保険適用となっています。これらの薬剤を組み合わせた治療法(治療レジメン)があり、患者さんの状態・治療経過に応じて適した治療レジメンを選択します。
転移性肝がん
もともとがんができた臓器(例えば大腸)のがん治療に準じた抗がん剤治療を選択します。

また、がん細胞に特定の遺伝子変異が認められる場合は、それに応じた薬剤選択が可能な場合もあります。詳しくは担当医にお問い合わせください。

 5. 放射線治療

放射線を体外から病変に集中して照射します。薬物療法のような全身治療ではなく、手術と同様に局所治療(照射部位のみが治療対象)です。

手術可能な場合は手術が優先されます。放射線治療は術後照射や、手術の対象とならないリンパ節転移、骨転移などへの治療に使用されます。

放射線治療そのものは痛みもなく、全身的な負担の小さい治療です。有害事象は照射部位に限られており、多くの場合患者さんが想像するよりも軽度です。

治療期間は照射部位や内容によって異なり、1週間から1ヵ月前後まで幅があります。外来通院での治療も可能です。詳細については放射線治療科受診の際にご確認ください。

 
治療法に関する合併症・副作用などについては、治療法ごとに異なります。選択された治療法に応じて担当医が説明いたします。

 
治療後

肝細胞がんは長年にわたる肝障害を原因として発症します。今回治療されるがん以外の部分の肝臓も同様に肝障害を受けていますので、新たに肝細胞がんができる(再発する)可能性があります。したがって、治療後も定期的に精密検査(血液検査・画像検査)が必要となります。

緩和医療

上記の肝細胞がんに対する治療選択肢(抗がん治療)はいずれも合併症や副作用を伴う可能性があります。がんに対する治療効果以上に合併症や副作用による全身状態への悪影響が大きいと考えられる場合は、抗がん治療を行わずに患者さんの全身状態の安定・苦痛を和らげることを主眼とする治療(栄養・水分補給のための栄養補助食品・経管栄養・点滴や痛みに対する鎮痛薬投与など)が選択肢となり得ます。こうした治療は入院でも在宅でも可能です。患者さん・ご家族のご希望を十分にお聞きしますのでなんでもご相談ください。


胆道とは

解剖と機能

肝臓では消化液の一種である胆汁が作られます。この胆汁が十二指腸へと流れ出る道筋を胆道といい、図で示す胆管、胆嚢、十二指腸乳頭から構成されています。
胆管は左右の肝管が合流して総肝管となり(肝門部領域胆管)、さらに総胆管となって(遠位胆管)十二指腸乳頭へとつながる胆汁の流れの本道です。胆汁が流れる本道から枝分かれした西洋梨の形をした袋状の臓器が胆嚢です。胆嚢の一部は肝臓に付着しています。胆嚢は肝臓で作られる胆汁を一時的に貯めて濃縮し、食事に合わせて収縮することで貯めていた胆汁を十二指腸へと押し出します。十二指腸乳頭は胆汁の出口であり、括約筋によって胆汁の流れを調節し、かつ十二指腸内の腸内細菌が胆管内に入るのを防いでいます。

胆道の腫瘍

●腫瘍の性質による分類

胆道にできる腫瘍(できもの)にはその性質から主に下記に分かれます。

・悪性腫瘍:がん

・良性腫瘍:ポリープ、腺腫

・その他:胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)など

 

●がんの場所による分類

治療対象となる「がん」はできる場所により下記のように分類されます。

 

胆管がん

肝外胆管の太さは5~10mmであるため、そこにがんができると容易に胆汁の流れが滞ります。胆汁のすべての流れが滞ると黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる)・褐色尿・灰白色便として症状が現れます。黄疸は肝臓の働きを低下させるため、細い管(ステント)を胆管内に留置して胆汁の流れを確保します。胆管がんは胆嚢管合流部を境にして肝臓側の肝門部領域胆管がんと十二指腸側の遠位胆管がんに分類されます(上図)。
胆管は胃・十二指腸をこえたさらに奥にある細い管であるため、内視鏡によってがん組織を十分量採取して病理組織検査(顕微鏡検査)で診断を確定させることが困難な場合があります。がんが胆管のどの位置にできて、どのくらい拡がっているかによって必要な治療法は大きく変わりますので、術前の正確な画像診断が重要です。

胆嚢がん

胆嚢は胆汁の流れの本道ではないため、胆嚢にがんができても黄疸などの症状がでないことがあります。胆嚢の内部を内視鏡で直接観察して組織を採取することは不可能であるため、「ポリープ」と「がん」の区別がつかない場合があります。大きさが10mmを超える場合や急速に大きくなる場合は「がん」の存在を疑って治療適応となります。また、胆嚢結石に対して胆嚢摘出術を行った際に手術後の病理組織検査(顕微鏡検査)で偶然に見つかる場合もあります。一方で、がんが進行して胆嚢を超えて周囲の胆管に拡がれば黄疸となる場合があります。つまり、進行度によって症状は様々であり、必要な治療法が大きく変わります。

十二指腸乳頭部がん

胆管の出口にできるため、小さくても黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる)・褐色尿・灰白色便などの症状が出やすい一方で、大きくてもその大部分が柔らかい良性腫瘍(腺腫)であり症状が出ない場合もあります。十二指腸乳頭は膵管の出口でもあり、膵液の流れも滞る場合は膵管にもステントを留置することがあります。がん細胞が粘膜にとどまっていれば内視鏡的に切除できる場合もありますが、それよりも深部へ拡がっていれば十二指腸乳頭部を膵頭部と十二指腸とともに切除する必要があります。

 ●危険因子

危険因子としては膵・胆管合流異常症が知られているほか、一部の有機溶剤(1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン)が挙げられていますが、多くの場合は原因不明です。

検査・診断

血液検査

一般採血(CBC、生化学検査)、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)、ICG検査(肝切除術が必要な場合に行います)

画像診断

エコー、CT、MRI、FDG-PET、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)、EUS(超音波内視鏡検査)、胆道鏡検査、IDUS(胆管内腔超音波検査)など

病理診断(細胞診、組織診)

胆汁を採取してその中に浮遊しているがん細胞を顕微鏡で診断します(細胞診)。
胆管がん、十二指腸乳頭部がんの場合は内視鏡検査時(ERCP、胃カメラ)にがん組織を採取して顕微鏡検査を行います(組織診)。胆嚢がんの場合は術前に組織診を行うことは困難です。
手術した場合は切り取ったもの(切除標本)を細かく切って顕微鏡検査を行います。がんの本体だけでなく、リンパ節など周囲組織へのがんの広がり(浸潤・転移)も細かく診断され、下記の進行度分類が確定されます。

進行度分類

T因子:がんの大きさや周囲臓器への拡がり
N因子:リンパ節転移の有無
M因子:他臓器転移の有無

胆道の各部位別に、上記因子を分類して下記のように進行度が分類されます。

 <肝門部領域胆管がん>

 <遠位胆管がん>

 <胆嚢がん>

 <十二指腸乳頭部がん>

治療選択肢(抗がん治療)

1. 手術

2. 全身化学療法:抗がん剤

3. 放射線治療

 

がんの進行度や患者さんの全身状態(心機能・呼吸機能・肝機能・腎機能など)を総合的に診断して最適な治療法を検討します。さらに、患者さんの希望もお聞きした上で、最終的な治療方針を決定します。

 

1. 手術

はっきりとした転移がなければ、がんを完全に取り除くことを目的とした手術が選択できます。病変の位置や拡がりに応じて必要な手術が大きく異なります(拡大胆嚢摘出術・肝S4a/5切除術・肝葉切除術(±胆管切除術)、肝外胆管切除術、膵頭十二指腸切除術、さらにはこれらの術式を組み合わせた肝膵同時切除術など)。切除する肝臓が大きすぎる場合は、肝臓を栄養している血液の流れを部分的に遮断することで切除される予定の肝臓の大きさを小さくする治療(門脈塞栓療法)を行う場合もあります。

●術後補助化学療法

手術で完全に切除できた場合でも、術後に再発予防を目的とした抗がん剤治療(術後補助化学療法)を行う場合があります。(現在、胆道がんに対しては術後補助化学療法が再発予防に効果があるとの科学的根拠は立証されていませんが、進行度・全身状態に応じて治療適応を相談させていただく場合があります。)

 

2. 全身化学療法:抗がん剤

転移がある場合や、がんを取り残さずに切除できる範囲を超えてがんが拡がっている場合は、全身への治療効果を期待して全身化学療法の適応となります。現在、胆道がんに対する抗がん剤として、ゲムシタビン、S1、シスプラチンが保険適用となっています。これらの薬剤を組み合わせた治療法(治療レジメン)があり、患者さんの状態・治療経過に応じて適した治療レジメンを選択します。

 

また、がん細胞に特定の遺伝子変異が認められる場合は、それに応じた薬剤選択が可能な場合もあります。詳しくは担当医にお問い合わせください。

 

3. 放射線治療

放射線を体外から病変に集中して照射します。薬物療法のような全身治療ではなく、手術と同様に局所治療(照射部位のみが治療対象)です。

胆道がんでは、手術可能な場合は手術が優先されます。放射線治療は手術困難な場合や術後照射、手術の対象とならないリンパ節転移、骨転移などへの治療に使用されます。

放射線治療そのものは痛みもなく、全身的な負担の小さい治療です。有害事象は照射部位に限られており、多くの場合患者さんが想像するよりも軽度です。

治療期間は照射部位や内容によって異なり、1週間から1ヵ月前後まで幅があります。外来通院での治療も可能です。

 

上記1~3の各治療法に関する合併症・副作用などについては治療法ごとに異なります。選択された治療法に応じて担当医が説明いたします。

緩和医療

上記の胆道がんに対する治療選択肢(抗がん治療)はいずれも合併症や副作用を伴う可能性があります。がんに対する治療効果以上に合併症や副作用による全身状態への悪影響が大きいと考えられる場合は、抗がん治療を行わずに患者さんの全身状態の安定・苦痛を和らげることを主眼とした治療(栄養・水分補給のための栄養補助食品・経管栄養・点滴や痛みに対する鎮痛薬投与など)が選択肢となり得ます。こうした治療は入院でも在宅でも可能です。患者さん・ご家族のご希望を十分にお聞きしますのでなんでもご相談ください。


膵がん

膵臓とは

解剖

膵臓は胃の背側に存在する左右に伸びた臓器(右図の黄色い臓器)であり、右側から膵頭部・膵体部・膵尾部の3つの部分に分けられています。膵頭部は十二指腸に接しており、膵尾部は脾臓に近接しています。内部は主に外分泌腺・内分泌腺(膵島)・導管から構成されています。導管は合流して膵管となり、膵臓のほぼ中央で主膵管となって走行して十二指腸乳頭につながっています。

機能

・外分泌機能
外分泌腺を構成する腺房細胞で消化液である膵液を作っています。膵液は強力な消化酵素やアルカリイオンを含み、主膵管に集められて十二指腸乳頭から十二指腸に流れ出ています。
・内分泌機能
膵島を構成する内分泌細胞で様々なホルモンが作られています。作られたホルモンは血液中に溶け込んで血糖値の調整などを行っています。

膵臓の腫瘍

膵臓には種々の腫瘍ができますが、主に下記の腫瘍に分類されます。
・膵がん(膵管がん・腺房細胞がん)
・膵嚢胞性腫瘍(腺腫・がん)
  漿液性嚢胞腫瘍(SCN)
  粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
  膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
・膵神経内分泌腫瘍(p-NET)
・その他
充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)など

検査・診断

血液検査

一般採血(CBC、生化学検査)、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、DUPAN2など)

画像診断

エコー、CT、MRI、FDG-PET、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)、EUS(超音波内視鏡検査)など

病理検査(細胞診、組織診)

膵液を採取してその中に浮遊しているがん細胞を顕微鏡検査で診断します(細胞診)。また、EUS検査で胃や十二指腸の内腔からがんの位置を確認し、針を穿刺することでがん組織を採取(生検)して顕微鏡検査で診断します(細胞診、組織診)。
手術した場合は切り取ったものを細かく切って顕微鏡検査(病理組織検査)を行います。がんの本体だけでなく、リンパ節など周囲組織へのがんの広がり(浸潤・転移)も細かく診断され、下記の分類に従って進行度が確定されます。

進行度分類

T因子:がんの大きさや周囲臓器への拡がりの範囲
N因子:リンパ節転移の有無
M因子:他臓器転移の有無
上記因子の程度にしたがって、下記のように進行度が分類されます。

治療選択肢(抗がん治療)

1. 手術
2. 全身化学療法:抗がん剤
3. 放射線治療

がんの進行度や、患者さんの全身状態(心機能・呼吸機能・肝機能・腎機能など)を総合的に診断して最適な治療法を検討します。さらに、患者さんの希望もお聞きした上で、最終的な治療方針を決定します。

治療の詳細

 1. 手術療法

はっきりとした転移がなければ、がんを完全に取り除くことを目的とした手術が選択できます。腫瘍の存在する位置や周囲脈管との位置関係によって、必要な術式を選択します。

・膵頭十二指腸切除術(胃をほぼすべて残す場合と一部切除する場合とがあります)

・膵体尾部切除術

・膵全摘術

・その他:脾臓温存尾側膵切除術、膵中央切除術、腫瘍核出術 など
 

●術前・術後補助治療
原発性膵癌取り扱い規約(第7版)では切除可能性分類(下図)が定義され、術前診断においてある程度進行した状態(BR以上)であると診断された場合は、手術前に全身化学療法や放射線治療を行うことを第一に考慮します(術前治療)。
一方、手術を施行して病巣を完全に切除できたと考えられる場合でも、多くの場合は再発予防を目的として、抗がん剤(TS1)の内服治療(4週間内服、2週間休薬)を約6ヵ月間外来通院で行います(術後補助化学療法)。
術後補助化学療法終了後も定期的に外来通院していただき、血液検査・画像検査により再発の有無をチェックします。

 <切除可能性分類>

 2. 全身化学療法:抗がん剤

がんが膵臓周囲に広く拡がっている(浸潤している)場合(UR-LA)や、膵臓以外の臓器にがんが転移している(UR-M)場合は、全身への治療効果を期待して全身化学療法の適応となります。現在、膵がんに対する抗がん剤としては、ゲムシタビン、S1、5-FU、オキサリプラチン、イリノテカン、nab-PTX、nal-IRIなどが保険適用となっています。これらの薬剤を組み合わせた治療法(治療レジメン)があり、患者さんの状態・治療経過に応じて適した治療レジメンを選択します。

 

また、がん細胞に特定の遺伝子変異が認められる場合は、それに応じた薬剤選択が可能な場合もあります。詳しくは担当医にお問い合わせください。

 

3. 放射線治療

放射線を体外から病変に集中して照射します。薬物療法のような全身治療ではなく、手術と同様に局所治療(照射部位のみが治療対象)です。

がんが膵臓周囲に浸潤している場合の術前治療や、強い痛みを伴う神経浸潤・骨転移などへの緩和照射などに使用されます。

放射線治療そのものは痛みもなく、全身的な負担の小さい治療です。有害事象は照射部位に限られており、多くの場合患者さんが想像するよりも軽度です。

治療期間は照射部位や内容によって異なり、1週間から1ヵ月前後まで幅があります。外来通院での治療も可能です。

 

上記1~3の各治療法に関する合併症・副作用などについては治療法ごとに異なります。選択された治療法に応じて担当医が説明いたします。

緩和医療

上記の膵がんに対する治療選択肢(抗がん治療)はいずれも合併症や副作用を伴う可能性があります。がんに対する治療効果以上に合併症や副作用による全身状態への悪影響が大きいと考えられる場合は、抗がん治療を行わずに患者さんの全身状態の安定・苦痛を和らげることを主眼とする治療(栄養・水分補給のための栄養補助食品・経管栄養・点滴や痛みに対する鎮痛薬投与など)が選択肢となり得ます。こうした治療は入院でも在宅でも可能です。患者さん・ご家族のご希望を十分にお聞きしますのでなんでもご相談ください。


診療実績

手術件数 2021年4月~2022年3月(胆嚢摘出術は除く)

 
 術 式 開 腹 腹腔鏡
肝切除術
肝右三区域切除術 0 0
肝左三区域切除術 0 0
肝右葉切除術 4 0
肝左葉切除術 3 1
肝中央二区域切除術 0 0
肝前区域切除術 1 0
肝後区域切除術 3 4
肝内側区域切除術 1 1
肝外側区域切除術 2 1
肝亜区域切除術 5 2
肝部分切除術 10 18
拡大胆嚢摘出術 7 0
合計 36 27
    
膵切除術
 
膵頭十二指腸切除術 20 0
膵体尾部切除術 2 11
膵全摘術 2 0
合計 24 11
 
その他 肝静脈再建術 1 0
肝尾状葉全切除術 1 0
総胆管切開・採石術 3 0
肝嚢胞開窓術 0 1

・日本肝胆膵外科学会指定の高難度肝胆膵外科手術 : 60例