肝胆膵外科では、腹部臓器の中で肝臓・胆道・膵臓の病気に対する手術を担当しています。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、自覚のないうちに肝臓の働きが低下し、大きな腫瘍を抱えても症状が出ないことも多くあります。一方で、肝臓は腹部臓器の中で唯一再生する特徴を持っていますから、大きな腫瘍ができたとしても切除することが可能ですし、術前の工夫により残る予定の肝臓を大きくさせることも可能です。それでも切除できる範囲には限界があり、切除予定量と肝機能が大きく影響しますので、患者さんの病状に応じて手術以外の内科的治療法(ラジオ波焼灼療法・肝動脈塞栓化学療法・全身化学療法)の適応を考慮する場合もあります。胆道には肝臓で作られる胆汁が十二指腸へと流れる道(胆管)と一時的にたまる袋(胆嚢)が含まれます。治療対象としては胆石・胆嚢炎が多い一方で、胆管癌・胆嚢癌に対する治療も行います。胆管は肝臓から膵臓を通って十二指腸につながっており、癌のできる場所次第で必要な手術の方法(術式)が大きく異なります(「疾患・治療について」をご参照ください)。膵臓は胃の背中側にある厚さ2~3cm程度の比較的薄い臓器であり、周囲にたくさんの脈管(神経・血管・リンパ管)が存在していることから、膵臓にできる癌細胞は容易に周囲へと拡がります。したがって、初診時にすでに手術治療が適していない(適応外)患者さんも多く、膵臓癌が悪性度の高いがんの1つに挙げられる理由となっています。近年の抗がん剤治療や放射線治療の発展に伴い、術後のみならず術前からこうした治療を手術と組み合わせることで治療効果を改善させることができるようになり、個々の患者さんの病状に応じて、最適な治療の組み合わせを検討して治療方針を決定する必要があります。
こうした種々の特徴を持った臓器を扱う肝胆膵外科の手術は体にとって大きな負担となる場合がありますが、最近では傷が小さく、体への負担の少ない腹腔鏡手術の普及が進んでおり、当科でも腹腔鏡手術が増加しています。上記のように肝胆膵外科での手術は非常にバリエーションが多く、手術を実施するうえで豊富な経験と技術を要求されるだけでなく、術前の詳しい検査とそれに応じた適切な手術選択が極めて重要です。当センターでは最新の診断機器を用いて詳細に術前検査を進めることができ、かつ2018年3月には最新の画像解析ソフトを導入いたしました。こうした詳細な解析画像を毎週放射線診断科とも協議し、消化器内科とも連携して個々の症例に最適な治療方針を検討しております。外科のみならず当センタースタッフの総合力で患者さん第一のより良い肝胆膵外科診療を進めてまいりたいと思っています。よろしくお願い申し上げます。
2020年4月吉日
肝胆膵外科部長 安近健太郎
<略歴>
平成 5年 3月 京都大学医学部医学科卒業
平成 5年 5月 京都大学医学部附属病院外科研修医
平成 5年 7月 丹後中央病院外科研修医
平成 6年 4月 京都大学医学部附属病院外科研修医
平成 7年 4月 京都桂病院外科医員
平成13年 9月 京都大学医学部附属病院消化器外科医員
平成15年 4月 京都大学再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センター産学官連携研究員
平成18年 4月 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助手
平成19年 4月 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助教
平成23年 4月 倉敷中央病院外科医長
平成24年 5月 倉敷中央病院外科部長
平成25年 4月 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助教
平成27年 7月 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 講師
平成29年 4月 日本赤十字社和歌山医療センター 肝胆膵外科部長
現在に至る
学位・資格・学会活動
京都大学医学博士
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医・消化器がん外科治療専門医
日本肝胆膵外科学会評議員・高度技能専門医
近畿外科学会評議員
日本臨床外科学会・日本肝癌研究会・日本肝臓学会・日本内視鏡外科学会
当科では主に以下の肝胆膵領域の疾患に対する治療を行います。
原発性肝がん:肝細胞がん、肝内胆管がん
転移性肝がん:結腸・直腸がんなど他臓器からの転移
胆道癌:胆管癌、胆嚢癌、十二指腸乳頭部癌
胆嚢結石症、肝内結石症
膵胆管合流異常症
膵癌
膵管内乳頭粘液腫瘍
膵神経内分泌腫瘍
その他の膵腫瘍
膵炎(急性・慢性):内科的治療で難治性の場合
右肝静脈に浸潤する転移性肝癌に対する術前シミュレーション
術中写真
胆道がん手術
正常と肝門部胆管癌例のMRCPおよび術前シミュレーション
膵切除術
膵体部癌の術前シミュレーション
切除可能性分類(原発性膵癌取り扱い規約:第7)
一般的に下記合併症のリスクがあります。合併症予防のために早期離床が有効であることが立証されています。
術 式 | 開 腹 | 腹腔鏡 | |
---|---|---|---|
肝切除術 | |||
肝右三区域切除術 | 0 | 0 | |
肝左三区域切除術 | 0 | 0 | |
肝右葉切除術 | 5 | 0 | |
肝左葉切除術 | 5 | 1 | |
肝中央二区域切除術 | 1 | 0 | |
肝前区域切除術 | 1 | 0 | |
肝後区域切除術 | 5 | 0 | |
肝内側区域切除術 | 1 | 0 | |
肝外側区域切除術 | 2 | 1 | |
肝亜区域切除術 | 5 | 0 | |
肝部分切除術 | 37 | 21 | |
その他 | 0 | 2 | |
合計 | 62 | 25 | |
膵切除術 | |||
膵頭十二指腸切除術 | 23 | 0 | |
膵体尾部切除術 | 10 | 3 | |
その他の膵切除 | 1 | 0 | |
合計 | 34 | 3 | |
その他 | 脾臓摘出術 | 1 | 0 |
肝外胆管切除術 | 2 | 0 | |
肝膵同時切除術(HPD) | 1 | 0 |
・日本肝胆膵外科学会指定の高難度肝胆膵外科手術 : 54例
・肝外側区域切除術、肝部分切除術、膵体尾部切除術(低悪性度症例)については腹腔鏡手術を基本としていますが、安全性と確実性(がんを取り残さないこと)を第一に考慮して術式選択をしています。
Clavien-Dindo分類におけるGrade IIIa(薬物療法以上の処置を要した症例)以上の合併症は5例
ISGPS GradeB (3週間以上のドレナージもしくはドレーン入れ替えを要した症例)以上の膵液漏は2例