日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

心臓治療の最前線③ TAVI治療

2022/03/10

日赤和歌山医療センターで2021年から導入したTAVI(タビ)は、大動脈弁狭窄症の最新治療法です。全国的にも広く実施されている治療で、カテーテルを用いて弁を交換する手術です。高齢など体力が弱まっているために大動脈弁置換術を受けられない人でも可能な治療法として注目されています。

 

今回は、TAVI治療って、どんな手術なのか、その方法や入院生活について、また、術後の回復についても、心臓血管外科の阪口仁寿 副部長にお聞きします。

 

 

当医療センターでは、高齢の患者さんはもちろん、様々な人がTAVI治療を受けており、術後の経過も非常に良好です。高齢の人も受けられる手術として、今後も継続していきたいと考えています。

 

 

身体への負担が少ないTAVI治療

TAVIの手術は、足の付根を5センチほど切って、大腿大動脈という太ももの太い血管からカテーテルという細い管を心臓まで入れていきます。そのカテーテルの中には、小さく畳んだ人工弁が入っていて、狭くなった大動脈弁のところまで進め、元の弁に人工弁を移植します。縮んでいた血管が人工弁のおかげで広がり、滞っていた血流が一気に再開します。

 

治療時間は12時間で、術後も1週間から10日で退院できます。

従来の胸を大きく開く手術は、手術時間に5時間ほどかかりますし、心臓を止める大掛かりな装置が必要だったり、輸血の可能性もありますから、従来の大動脈弁置換術とTAVIを比較すると、患者さんへの負担が極めて少なくなっています。

 

 

TAVIにより、80歳代、90歳代の高齢の患者さんにも大動脈弁狭窄症の治療ができるようになりました。当医療センターでも90歳代の患者さんへの治療経験があります。

 

 

TAVIの適応は高齢で重症の大動脈弁狭窄症の患者さん

ただ、大動脈弁狭窄症であれば、全員がTAVI治療を受けられるかというとそうではなく、当医療センターでは80歳以上で、大動脈弁狭窄症が重症な人がTAVIの適応になります。

 

その理由は、TAVI治療の歴史はまだまだ浅く、若い人を対象に長い目で考えたときは、50年以上、60年ほど歴史のある大動脈弁置換術のほうが、長い目で見たときの安全性が高いため、若い人には開胸での手術が推奨されています。

 

このような判断は、ハートチームと呼ばれるチーム内で協議・検討します。チームには、心臓血管外科の専門医のほか、カテーテル治療のプロである循環器内科医、全身状態を見る麻酔科医などがいます。いろいろな専門性を持った医師がチームでTAVI治療を行っています。一人ひとりの患者さんに最適な方法を提示できるよう、皆で協議しています。協議の結果、TAVI治療よりも従来の開胸手術の方が適切だとなり、患者さん・ご家族にご説明することもあります。

 

 

チームが一丸となって行うTAVI

TAVI治療は、X線撮影をしながらのカテーテル治療も、開胸手術にも対応できるハイブリッド手術室で行っています。治療開始前には、手術に関わる20人以上のスタッフが集まって手順を確認し、万全の体制を整えています。

 

 

実際の手術が始まると、心臓血管外科医は、カテーテルという管を入れための入り口を作るため、切ったり縫ったりを担当します。循環器内科医は、技術を駆使してカテーテルを心臓と大動脈の境目にあるところまで入れていきます。重症の大動脈弁狭窄症ですから既に心臓が悪くなっています。カテーテルの挿入には、慎重に慎重を期し、麻酔科の先生も細心の注意を払います。

 

そして、血管内をカテーテルがスムーズに入っているかX線を使って確認するための装置を扱う診療放射線技師、万一、状況が悪くなれば即座に開胸手術に移行するため人工心肺のスタンバイをしてくれる臨床工学技士、さまざまな状況に対応できる修練を積んだ看護師などが集まって、チームで治療を行います。TAVIの手術が無事に終わっても、術後のリハビリや栄養指導など、関わるスタッフが多く、チームの結束が必要です。

 

このようにTAVIは新しい治療ですが、患者さんのためにスタッフ全員が経験や知識、技術を集めて実施しています。当医療センターでも、受けられた方の経過が非常によく、おすすめできる治療なので、これからも実施件数は増える見込みです。

 

治療が進化し、これまで手術が受けられなかった患者さんに治療ができるのは本当に嬉しいことです。

 

ただ、重症化させないことが一番ですので、心臓の負担にならないように、食事や運動など生活習慣を見直したり、早期発見のために検査を定期的に受けたりしていただきたいですね。

 

3回にわたる連載をご愛読いただき、ありがとうございました。

 

 

 

心臓治療の最前線① 増えている心臓弁膜症(2022年02月10日公開)

 

心臓治療の最前線② 大動脈弁狭窄症の最新治療(2022年02月24日公開)

 

心臓治療の最前線 TAVI治療(2022年03月10日公開)←今回

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