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心臓治療の最前線② 大動脈弁狭窄症の最新治療

2022/02/24

前回は、心臓の弁に障害がおこる心臓弁膜症について、その影響や検査の方法についてお伝えしました。今回は、心臓弁膜症の1つで、罹患率が高いにも関わらず放置すると、その後が心配な大動脈弁狭窄症について、心臓血管外科の阪口仁寿 副部長に聞いていきます。

 

 

近年、大動脈弁狭窄症に新しい治療法が出てきました。その治療法とは、フランスの循環器内科医が考案した経カテーテル大動脈弁移植術、いわゆるTAVI(タビ)です。当医療センターでも20211月からTAVI治療を導入しています。

 

 

大動脈弁狭窄症は75歳以上で13%以上が罹患

大動脈弁狭窄症は、心臓の出口にある大動脈弁が狭くなり、体に必要な血液および酸素が十分に行き届かなくなります。加齢に伴って進行し、75歳以上では13%以上の人が罹患しているといわれています。症状が進行して息苦しさが出てくると、23年内に死亡する率が増加するとの報告もあるので、できるだけ早く治療する必要があります。

 

心臓から全身に血液を送るには、大動脈という太い血管を通っていくのですが、心臓と大動脈の境、心臓の出口にある弁が大動脈弁です。この大動脈弁は、心臓から送り出した血液が逆流しないよう、3枚の弁が組み合わさって葉っぱのようになり開閉する仕組みになっています。ただ、年齢を重ねるとうまく弁が開閉しなくなってくるのです。若い時は柔らかかった弁が年齢とともに硬くなり、これを石灰化といいますが、石のようになってしまうのです。弾力性がなくなるため、狭窄症を引き起こします。

 

 

大動脈弁狭窄症の治療と手術

ただし、大動脈弁狭窄症と診断されても、全員に治療の必要があるわけではありません。「もう少し様子を見ましょうか」ということも多いです。しかし、中には非常に状態が悪く、突然死を招きかねない状態の人もおられるので、重症度を確認するためにも心臓の超音波検査が重要です。

 

 

重症となれば、心臓血管外科の医師が行う大動脈弁置換術という手術を受けていただくことになります。この手術は方法が確立されており、比較的、安全で確実性の高い手術です。手術を受けなければならないのは、重症化すると、薬では治らない病気だからです。

 

しかしながら、大動脈弁置換術という手術は胸を大きく切らなければならず、心臓を一度止めなければなりません。体への負担が非常に大きく、合併症の懸念もあるため、高齢であったり、体力が弱まっている人には不向きな治療法です。そのため、高齢の場合は、手術をせずに様子を見ることも多いのです。

 

そうだからと言って、放っておくと突然死につながってしまう。何とかできないかと、2002年にフランスの循環器内科医が考案したのが経カテーテル大動脈弁移植術、TAVI(タビ)です。TAVIは、高齢の方でも、身体を切らずに治療できる治療法ということで、日本でも公的医療保険で手術が可能となりました。

 

これにより、大動脈弁置換術の一択だった治療法に選択肢ができました。

次回は、このTAVIについて詳しく説明します。

 

 

阪口 仁寿(さかぐち ひとし)

日本外科学会外科専門医、心臓血管外科専門医認定機構心臓血管外科専門医、日本経カテーテル心臓弁治療学会経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)指導医。

趣味は、サイクリング。特に、海辺で風を感じながらペダルを漕ぐのが好きです。

 

 

 

心臓治療の最前線① 増えている心臓弁膜症(2022年02月10日公開)

 

心臓治療の最前線② 大動脈弁狭窄症の最新治療(2022年02月24日公開)←今回

 

心臓治療の最前線③ TAVI治療(2022年03月10日公開)

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