生まれる、成長する、学ぶ、悩む、暮らす、産む、寄り添う、過ごす、老いる…。 どんなときも 自分らしく、そして 健康に生活するために、産婦人科医から 身体のこと、体調のこと、病気のこと、予防や対策などをお伝えします。

月経痛の軽減に効果的な低用量ピル

2024/09/24

思春期から老年期まで全ての女性へ向けて、産婦人科医で女性ヘルスケア専門医の山西恵医師が、女性特有のからだの不調や病気のことを解説します。

毎日の生活をもっと元気に、豊かに! 一緒に学んでいきましょう。

 

ピルは、避妊を目的として服用するイメージが強いかも知れませんが、月経痛や月経前症候群(PMS)などの症状緩和にも効果があります。厳密には、同じ成分の薬でも、避妊目的に使用する場合は「経口避妊薬(OC=オーシー)」といい、月経痛の緩和や子宮内膜症治療などの治療目的に使用する場合は「低用量ピル(LEP=レップ)」といいます。

 

経口避妊薬は自費診療の薬です。低用量ピルは保険適用の薬で、症状や診察所見などから医師の診断に基づいて処方されます。

 

 

低用量ピルの効果

低用量ピルはエストロゲンとプロゲスチンという女性ホルモンを配合した薬で、排卵を抑制し、子宮内膜の増殖を抑える働きがあります。そのため月経量が減り、女性ホルモンの量を整えることによって、月経痛を改善します。

 

前回お話したように器質的な疾患がなくても月経痛が起こることもありますが、月経痛の原因の1つである子宮内膜症がある場合は、低用量ピルの服用により病気の進行を抑えられる可能性があります。内膜症は不妊症の原因の1つでもあるため、低用量ピルを服用することで将来の妊娠にとって良い状態を保つことができる可能性があります。

その他、低用量ピルの副効果として、月経前症候群(PMS)の軽減や避妊効果、にきびの改善などもあります。

 

 

低用量ピルの種類

ピルは、薬に含まれているエストロゲンの量によって、高用量ピル、中用量ピル、低用量ピル、超低用量ピルに分かれます。高用量ピルはエストロゲンが50μg以上含まれているもので、血栓症などの副作用のリスクが高く、現在ではほとんど使用されていません。中用量ピルはエストロゲン含有量が50μgのもので、過多月経や不正出血の治療、月経移動などのために一時的に使用することが多いです。

 

低用量ピルはエストロゲン含有量が50μg未満のもので、超低用量ピルは30μg未満のものをいい、月経痛の治療には、主に低用量ピルや超低用量ピルが使われます。ピルの種類によって、不正出血が少ない、吐き気や頭痛が少ないなど、それぞれ特長があります。

 

超低用量ピルの中には、1ヵ月毎の周期的な服用だけでなく、約3ヵ月間連続投与が可能なピルもあります。

薬の種類によって、不正出血や吐き気、頭痛などの副作用の出方が違うこともあれば、個人差もあります。生活スタイルやニーズにあわせて、体にあったピルを選択することができます。

 

 

低用量ピルの副作用や注意点

低用量ピルを服用していると、少なからず副作用が出ることがあります。

一般的な副作用としては、不正出血、吐き気、頭痛、乳房痛などが挙げられます。これらは数カ月で改善されることが多いです。症状が強い場合や長期間持続する場合は医師に相談しましょう。ピルの種類を変更することで、体にあったピルが見つかる場合があります。

 

重大な副作用として血栓症が挙げられます。一般的に、低用量ピルを服用していない女性で血栓症が発生する確率は1万人あたり1~5人に対し、低用量ピルを服用している女性では1万人あたり3~9人と言われています。

 

その一方で、妊娠中に血栓症が起こる確率は1万人あたり5~20人、分娩後12週間では1万人あたり40~65人です。実は、ピル服用中よりも、妊娠中や分娩後の方が血栓リスクが高いのです。低用量ピルの副作用を過度に心配する必要はありません。ただし、起こると命にかかわることもあります。ふくらはぎの痛みや胸の痛み、強い頭痛などあれば、血栓症が起こっているサインの可能性がありますので速やかに医療機関を受診しましょう。

 

 

しかしながら、喫煙している人や高度肥満の人は、血栓リスクが上がります。また、乳がんや子宮体がんなどのエストロゲンに関連のある腫瘍を持っている人や、前兆を伴う頭痛を持っている人などは、ピルの服用ができません。ピルを服用できるかどうか、産婦人科で診察を受けた上で、医師と相談してください。服用中も、脱水や長時間安静などの状況は血栓リスクが高まる可能性がありますので注意しましょう。

 

他の薬と一緒に服用するときは、薬の種類によっては併用注意のものがあります。ピルを服用しはじめる際は常用している薬を産婦人科医に伝えましょう。また、ピル服用中に、他の薬を服用することになった場合も、ピルを服用していることを医師に伝えましょう。おくすり手帳を携帯しておくと、薬剤師が確認してくれるので安心です。

 

ピル服用により副作用が出ることがありますので、定期的な受診が必要です。しかし、上手に付き合えば、月経痛や過多月経などで日常生活に支障のある状況が改善し、生活の質が上がる可能性があります。

 

ピルの種類も増え、副作用が少なく、個人のニーズにあわせてピルの種類を選べるようになってきています。最近は、高校生や大学生など年齢の若い世代で、月経をつらく感じていても、低用量ピルを服用することによって、月経と上手に付き合い健やかな生活が送れるようになっている人も増えています。月経に関連するトラブルを抱えている人は、是非、産婦人科で相談してみてください。

 

 

次回も、引き続き「月経」をテーマに、月経期間中のスポーツについてお話します。

 

 

山西 (やまにし めぐみ)

日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医。

学生時代はバレーボールを楽しみましたが、現在は育児と肩の痛みで鑑賞専門です。健康管理の大切さを身に沁みて実感しているため、いつかバレーボールを思い切りプレーできる日を夢見て、体力づくりをしていきたいです。

悩める患者さんやご家族のご希望に寄り添った診療を心がけています。すこやかな日常が送れるようサポートしていきたいと考えています。気軽にご相談ください。

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