いつ来るか分からない災害。日赤和歌山医療センターは、どんな対策をしているの? どんな概念や指針、ガイドラインで対策しているの?ちょっとマニアックな情報をお届けして いきます。赤十字の病院が行う救護について知っていただけたら幸いです。

CSCATTT ~Communication その3 「災害時の通信手段② 無線について」~

2020/09/17

皆さんは、無線と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

 

 

普段の生活で、目にする機会がないと思われるかもしれませんが、例えば、航空機、列車、船舶、車両などの交通機関や警察、消防、自衛隊などでも使われています。

身近なところでいうと、タクシーの通信にも無線は使われています(タクシーに乗った時、運転手さんの無線によるやりとりを聞いたことがあるかもしれません)。

このように、無線は、日常的にさまざまな分野で活用されています。

 

今回は「災害時の通信手段」の第2弾として、この無線についてお話しします。

 

無線には、業務用無線、アマチュア無線、簡易業務無線(トランシーバー)、特定小電力無線(免許不要、レジャー用)、MCA無線、IP無線など様々な種類がありますが、今回は、業務用無線についてお話しします。

 

業務用無線は、業務用の情報伝達のための無線で、それに対して、業務以外の個人的な興味、研究のために用いられるのがアマチュア無線です(アマチュア無線を業務に用いることは法律で禁止されています)。

交通機関や警察、消防、自衛隊などで用いられている無線は、すべてこの業務用無線です。

 

 

日本赤十字社でも、業務用無線を活用しています。

 

日赤は、災害救護を担っているという背景から、迅速かつ適正な救護活動を行えるよう、日本赤十字法により、国から無線の専用周波数を割り当てられています(赤十字専用無線。通称、日赤無線と呼ばれています)。

 

 

これにより、災害が起こった場合、日赤救護班は全国の各地で活動している救護班や、救護班の派遣元である日赤県支部と無線通信を行うことが可能です。赤十字専用無線は、全国で3560局(平成27(2015)年3月現在)を有し、災害救護活動において、大きな強みとなっています。

 

ではなぜ、無線が災害時に有効なのかについてお話ししていきましょう。

 

無線の大きなメリットは、衛星電話と同様に、既存の通信インフラの被害に影響を受けないことが挙げられます。

 

一例を挙げると、日本では1923年の関東大震災の時、有線の電話や海外との海底ケーブル等の施設が破壊され外部との通信ができなくなり、孤立無援の事態が発生しましたが、東京湾にいた船舶から無線でまず海軍無線電信所船橋送信所へ、さらに磐城国際無線局を通じてアメリカへ、と海外に被災状況が伝達され、世界の国々から救援を得ることができました。これは日本で初めて大規模災害に無線が活用された事例です。

 

このように、既存の通信インフラの被害に影響を受けない無線は、災害などの非常時の情報伝達に有効な通信ツールだといえます。

 

その他、災害時における無線のメリットとしては、一定範囲内(無線の電波の届く範囲。アンテナや機種の性能、地形などによって範囲は変わる)の通信に強いこと、建物の中でも使用可能なこと(衛星電話など室内使用が制限されるものもあります)、複数の相手との一斉通信が可能なこと、通信コストがかからないことなどが挙げられます。

 

前回、お話しした衛星電話は1対1の通信ツールですが、無線は1対多数の通信が可能な通信ツールのため、衛星電話と比べて代わりに、全体への一斉通信が可能という特徴があります。

 

一方、デメリットは、衛星電話と比べて通信範囲が限定されること、免許制度により赤十字専用無線であれば日本赤十字社の組織以外と通信できないこと、1台の無線が通信中のときは他の無線は通信できないため、それぞれが好き勝手に通信してしまうと、回線を占有してしまうことから本部組織による統制が必要なこと、などが挙げられます。

 

特に、回線を占有してしまうと輻輳(読み:ふくそう。無線の渋滞)が起き、通信に支障をきたす恐れがあることから、必要な情報を簡潔に送ることが大切です。そのため、災害時に伝えるべき情報を簡潔に報告・連絡するための方法として、METHANE(読み:メタン)レポートと呼ばれるものがあります。METHANEレポートでの情報伝達だと、伝える側も聞く側も、もれなく伝達できると言われています(これは次回お話しします)。

 

また、無線通信には定められたルールがあります。

 

 

災害時に無線通信のルールに従って簡潔に伝達するには、トレーニングを積んでいなければ困難です。衛星電話の回でもお話ししましたが、使用方法や使用できる場所、人材がなければ、有効に活用ができません。そのための準備がとても大切になります。

 

当センターでは、衛星電話と無線機を非常用の通信機器として整備すると同時に、通信訓練も実施し、人材の育成にも力を注いでいます。

 

このように災害に強い通信機器を複数整備し、使用できる人員を複数人育成することは、被災状況や通信環境などに応じて機器を選択したり、円滑な通信を行う基盤となります。

 

衛星電話、無線ともに、メリットデメリットがありますが、その特徴を把握し、臨機応変に対応していくことが、災害時にはとても大切です。

 

≪災害医療救援センター≫

 

 

次回は「CSCATTT~Communication その4 「MRTHANE(メタン)レポート」をお届けします。

詳しくはこちら

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