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いつ来るか分からない災害。日赤和歌山医療センターは、どんな対策をしているの? どんな概念や指針、ガイドラインで対策しているの?ちょっとマニアックな情報をお届けして いきます。赤十字の病院が行う救護について知っていただけたら幸いです。
2021/03/18
今回は、CSCATTTの1つ目のT、トリアージについてお話しします。
災害が起きると、多くの傷病者が発生しますが、同時に、被災地にある医療機関や医療従事者も被害をうけ、平時と比べると、医療資源は万全ではありません。
そのような状況で、最大限の救命活動を行うために考案されたのが、「トリアージ」です。
トリアージは、もともとフランス語で「選別」を意味する「Triage」が語源となっており、医療資源と傷病者数との不均衡の中で、「最大多数の最大幸福」という概念のもと、多数の傷病者を速やかな診療や搬送につなげるため、医療資源の分配順位、すなわち治療の優先順位ごとのトリアージ区分に迅速に分類することです。
日本におけるトリアージ区分は4つに分類され、それぞれ区分Ⅰが赤、区分Ⅱが黄、区分Ⅲが緑、区分0が黒と色によって区分されています。これらの区分は、通常トリアージタグを用いて表示されます。
それぞれの区分を説明すると、
区分Ⅰ(赤)・・・緊急治療群(最も重症で救命処置を必要とするため、治療順位が最も高い)
区分Ⅱ(黄)・・・非緊急治療群(治療の必要はあるが、治療の遅延が生命の危機に直接つながらない)
区分Ⅲ(緑)・・・治療不要もしくは軽処置群(必ずしも専門医の治療を必要としない歩行可能、一般的に災害時には最大数となる)
区分0(黒)・・・治療対象外(死亡している、または心肺蘇生を行っても蘇生の可能性が低く、基本的に治療の優先度は最も低い)
です。
原則として、傷病者の病態は時間とともに変化するため、トリアージは繰り返し行う必要があります。
例えば、災害が起きた場合のトリアージは、
① 傷病者集積所(担架搬送の優先度)
↓
② 現場救護所のトリアージエリア(救護所での治療優先度)
↓
③ 現場救護所内(病院への搬送の優先度)
↓
④ 搬送先病院入口
↓
⑤ 病院のER
と、複数回にわたってトリアージが行われます。
また、治療不要もしくは軽処置群にあたる緑の患者であっても、そのまま帰宅させるのではなく、1箇所に集めて、アンダートリアージ(重症患者を黄や緑に判定すること。防ぎ得た災害死の一因となる)や病態の変化が無いかを確認しなければなりません。
このように、トリアージは1度してしまえば終わりという訳ではなく、繰り返し行わなければならないのです。
次に、トリアージの手法についてお話します。
日本では、一次トリアージと、二次トリアージが行われます。
一次トリアージとは、呼吸・循環・意識の3つの簡便な生理学的評価を用いて、30秒程度で迅速に評価し、傷病者のふるい分けを行うものです。
一次トリアージには、START法(スタート法)と呼ばれる手技が用いられます。START法とは、Simple Triage and Rapid Treatmentの略で、フローチャートに従って、歩行可能な患者は緑に区分し、歩けない患者のABCDを評価し、赤、黄、黒に区分していきます。
この際、迅速性が求められるため、緊急処置は行いません(例外として、気道確保、圧迫止血は行われます)。一次トリアージは、傷病者集積所や現場救護所のトリアージエリアなど、医療資源に対して圧倒的多数の傷病者に対応する場所で行われます。
他方、二次トリアージは生理学的解剖学的評価を用いて、精度の向上を目指すものです。
二次トリアージには、PAT法(パット法)と呼ばれる手技が用いられます。PAT法はPhysiological and Anatomical Triageの略で、第1段階で生理学的評価を行い、第2段階で全身の観察による解剖学的評価を行います。
この段階で該当する異常があれば、緊急治療群の赤の判定になります。第3段階として、受傷の状況などによる評価が行われ、必要に応じて第4段階として災害弱者への配慮が加わります。これを可能な限り迅速(1~2分以内)に行う必要があります。
二次トリアージは、病院のERなど比較的医療資源が充足している状況下で実施されます。
このように、トリアージは、傷病者数や医療資源の状況によってSTART法とPAT法を適切に選択する必要があります。
最後に、トリアージは医療資源が不足する状況で、速やかに診療と搬送を行うため、傷病者を状態別に選別する手段として行われます。迅速性とともに正確性も求められるため、日ごろからの訓練がとても大切です。
当医療センターでは、定期的な研修や訓練でトリアージを行い、職員の技術向上に努めています。防ぎ得た災害死を少しでも減らすため、これからも訓練を重ねていきます。
トリアージタグの具体的な使用方法やその役割については、次回、詳しく説明します。
≪災害医療救援センター≫