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いつ来るか分からない災害。日赤和歌山医療センターは、どんな対策をしているの? どんな概念や指針、ガイドラインで対策しているの?ちょっとマニアックな情報をお届けして いきます。赤十字の病院が行う救護について知っていただけたら幸いです。
2021/07/15
今回は、トランスポート(搬送)の2回目として広域搬送拠点臨時医療施設についてお話しします。
広域搬送拠点臨時医療施設とは、英語表記のStaging Care Unitの頭文字をとってSCU(エスシーユー)と略称されており、大規模な災害が発生した際、傷病者を根本治療が行える被災地外の災害拠点病院などに広域医療搬送するために設置される臨時の医療施設で、自治体が定めた空港、自衛隊基地、公園などに設置されます。
和歌山県では、白浜空港、コスモパーク加太、橋本市運動公園、新宮市民運動競技場の4ヵ所が災害時にSCUとして運用される計画となっています。
SCUでは、人工呼吸器や超音波診断装置(エコー)などの医療機器をはじめ、医薬品、簡易ベッドなどの医療資機材、通信設備などが配備され、トリアージや航空搬送に耐えられるように重症者の安定化治療が施されます。
実際に災害が発生した場合には、必要に応じて、自治体から周辺自治体や医療施設への要請に応じた医療チームが参集し、運営されます。
では、なぜSCUが必要なのか?をお話しします。
災害時の搬送の基本は、分散搬送です。
例えば、傷病者(特に重症者)が1つの医療機関に集中して搬送されると、その医療機関がキャパシティーオーバーとなってしまい、医療ニーズと医療資源のバランスが崩れ、多くの「防ぎ得た災害死」を発生させることとなってしまいます。
このような事態を防ぐためには、傷病者を分散して、適切な医療機関に、適切な時間内に、適切な傷病者数を搬送するという考え方が必要となります。そのためには、滞りなく搬送調整を行わなければなりません。
この、分散搬送が適切に行われた事例が、ドイツで発生した高速鉄道ICEの脱線事故です。
この事故では、1998年6月3日、
10時59分に16両編成の車両が時速200㎞で走行中に脱線
乗客296名中96名が即死、70名の重症者と130名の中等症、軽症者が発生
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11時4分には最初の医師(最終的に83名が活動)が到着
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11時15分にはヘリコプター(延べ39機)が到着
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13時には事故現場から100㎞圏内の22病院に全ての負傷者の搬送が完了
最終的に、一人も「防ぎ得た災害死」を出すことなく、活動を完了しました。
これは、適切な搬送調整が行われた上で、医療資源・搬送資源の集中投入がなされ、現場から迅速かつ適切に複数の医療機関への分散搬送が行われた結果と言えます。
しかし、この事例は、ごく狭いエリアでの局地的な事故であったため、医療・搬送資源の集中投入や事故現場から複数の医療機関への搬送が可能となったという背景があります。
東日本大震災のような被災地域が広域にわたる災害では、多数傷病者が同時多発的に発生します。
このような場合、複数の災害現場から膨大な搬送ニーズが生じるため、搬送調整が非常に繁雑になります。調整の煩雑さは混乱を招くため、広域災害の場合は、搬送の簡明化のために、一旦、傷病者を集中させる拠点を設置し、そこから分散搬送を行うことも必要です。
実際に、東日本大震災の際には、内陸の花巻空港に国内で初めてSCUが設置されました。
そこに多くの傷病者が運び込まれ、広域搬送(自衛隊機)や地域医療搬送(ドクターヘリ、救急車)の拠点として機能しました。
このように、災害時に滞りなく搬送を行うためには、搬送の集中と分散をどのように組み合わせるかが重要です。
災害の状況や地域性(大都市圏は医療施設のキャパシティーが大きいが、地方都市は小さい)を考慮し、適切に集中と分散の組み合わせを選択しなければなりません。
この集中の拠点を担うのがSCUで、その機能は年々、重要性を増しています。
≪災害医療救援センター≫