いつ来るか分からない災害。日赤和歌山医療センターは、どんな対策をしているの? どんな概念や指針、ガイドラインで対策しているの?ちょっとマニアックな情報をお届けして いきます。赤十字の病院が行う救護について知っていただけたら幸いです。

災害に備える① 避難所での健康的な生活

2023/06/14

「救うことを、つづける。」では、当医療センターの救援活動や災害救護に関する情報を発信してきました。

 

しばらく、休載していましたが、今回から3回にわたり、「災害に備える」をテーマに据え、避難所生活と健康について、救急科・集中治療部の是枝大輔副部長にお聞きします。

 

 

第1回目は、「避難所での健康的な生活」についてです。

 

災害時に、自治体によって開設される避難所に対して、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?

 

テレビや新聞の報道で見ていると、避難所はブルーシートに雑魚寝、食事は乾パンやカップラーメン、手を洗う場所やトイレにも不便する…ような、とても大変な環境の場所といった印象をお持ち人も多いと思います。

 

 

確かに、そのような避難所生活が必要な状況になる場合もあるかもしれませんが、健康という面から考えると、避難所がそのような大変でつらい場所になることは良くありません。感染症も防げませんし、持病が悪化したり、避難所生活が病気を引き起こしたりもしてしまいます。

 

非常時こそ体が資本ですから、避難所とはいえ、健康的で快適な環境を作ることがとても重要です。しかし、日本人はとても我慢強く、「災害時だからこそ、頑張ろう。頑張らなければ!」と辛抱してしまいます。ただ、その結果として生活の質が落ちてしまえば、それは広い意味で健康な状態ではないのです。

 

健康は体と心、そして社会的に自立すること

WHOの憲章では、健康は病気がない状態というだけではなく、心も社会生活も全てが自立していて初めて健康といえる、と定義されています。体が健康な状態であり、精神的にも社会的にも良い状態で、初めて健康なのです。

 

 

救助したり支援したりする側も、津波で溺れた、地震で怪我をしたということ以外にも、被災した人たちは、どんなことに困っていて、どうサポートしようかと考えて、手を差し伸べる必要があります。

 

また、被災者の人たちも「避難所生活だから不便があっても仕方がない」「皆もしんどいから我慢しよう」という考えから、脱却しなければなりません。

 

どうすれば、一人ひとりが快適に健康に過ごせる環境になるかを、工夫していくことが望ましいです。もちろん、雑魚寝状態でも、一人暮らしの人にとっては「近くに人がいて安心した」「励まし合うことで気持ちが支えられて頑張れた」という人もいるでしょう。しかし、そもそも集団生活が苦手な人もいますし、土足で動き回る避難所では、気管支が弱い人は喉を痛めたり、喘息が出てしまったりなど、集団での避難所生活が難しい人もいます。

 

できるだけ一人ひとりが過ごしやすい、快適な環境をつくることが、健康的な避難所生活につながります。避難所とはいえ、誰もが人としてある程度自立した生活を送れるようになるのが最終目標です。

 

 

このような健康的な環境を災害時に構築するためには、相応の備えを平常時からしておくことが大切です。では、どのように何を備えておけばよいのでしょうか?

 

個人、地域の災害対応力を高め、非常時も健康的な生活を

避難所は開設こそ自治体ですが、実際の運営は地域に任されます。例えば、和歌山市で全部の避難所が設置されると100以上になる予定です。数が多いので、それぞれの地域で運営することになります。

 

そのため、どうすれば避難所生活が健康的になるかを、それぞれの地域や家族単位で考え、備えておくこと。自分たちで何ができるのか、準備できるものは何なのかを分かっておくことが大切です。

 

そして、災害時は、その健康的な避難所生活のために、地域住民だけではどうにもならない部分を自治体等へリクエストする。平常時にシミュレーションして、自分たちではここまでできる、これ以上のレベルになると無理だというボーダーラインがわかっていれば、「助けて」を早く伝えられます。

 

 

これは、災害対策の中では「自助」「共助」「公助」という言葉で語られるのですが、一人ひとりができること(=自助)、周りの人たちと助け合ってできること(=共助)、国や自治体等が取り組むこと(=公助)の3つがうまく連携すると災害の被害が少なくなるといわれています。

 

日頃から個の力、地域の災害対応力を高めておき、公的支援を必要なタイミングでうまく得ることができれば、避難所でも快適で、時に笑顔もでる生活、つまり健康的な生活を送れるようになります。

 

災害が起こる前に、備えていく必要性を理解し、準備にとりかかりましょう。少しずつ、できるところから、やっていきましょう。

 

次回は、「避難所での健康問題の解決方法」についてお話しします。

 

是枝 大輔(これえだ だいすけ)

2018年入職、救急科・集中治療部副部長。

日本集中治療医学会集中治療専門医、日本DMAT隊員(統括DMAT)・インストラクター、日本災害医学会評議員。

好物は、カレー。中でも、給食にでてくるような甘口のカレーが大好きです。

 

 

災害に備える① 避難所での健康的な生活(2023年06月14日公開)←今回
災害に備える② 避難所での健康問題の解決方法(2023年07月19公開)
災害に備える③ 災害時の安全確保(2023年08月16公開)

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