いつ来るか分からない災害。日赤和歌山医療センターは、どんな対策をしているの? どんな概念や指針、ガイドラインで対策しているの?ちょっとマニアックな情報をお届けして いきます。赤十字の病院が行う救護について知っていただけたら幸いです。

災害に備える② 避難所での健康問題の解決方法

2023/07/19

「救うことを、つづける。」では、当医療センターの活動や災害・救護に関する情報を発信しています。

先月から「災害に備える」をテーマに据え、避難所生活と健康について、救急科・集中治療部の是枝 大輔副部長にお聞きしています。

 

 

第2回目は、「避難所での健康問題の解決方法」についてです。

 

日々の生活とは違う環境である避難所で過ごすこと、そして、状況によっては避難所での生活が長引くことによって、健康に問題が生じてきます。特に、高齢者や慢性的な病気を持っている人に影響が出やすいので、注意が必要です。

 

もちろん、災害発生時に十分な対処をすることは困難かもしれませんが、問題になりやすい点を理解しておき、可能な範囲で解決していきましょう。

 

深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)を防ぐ

よく報道でも耳にする、エコノミークラス症候群(または、ロングフライト血栓症)と呼ばれていた深部静脈血栓症は、避難所で起こりやすい病気です。

 

体を動かさずに過ごしていると血が滞りやすくなり、固まりやすくなります。そうして固まった血の塊がポンと飛んで血流に乗って、大切な部分に詰まってしまうと、例えば、息がしんどくなったり、熱が出たりすることもありますし、脳や心臓などの場合は、命に関わる病気につながってしまいます。

 

 

この病気の主な原因は動かないことなので、ジッと寝たまま、座ったまま、動かずに過ごすのではなくて、定期的に体を動かすことで予防できます。しかし、狭い避難所で、各人がバラバラにストレッチをしたり歩き回ったりすることは難しいです。また、トイレへ行くことにストレスを感じると、水分を我慢してしまい、脱水傾向になり、より血栓ができやすくなります。

 

そこで、「役割をつくること」が生きてきます。

少しでもやらなければならないことがあれば、体を動かします。皆でルールを決めて、掃除や避難物資の配布など、一人ひとりにできる範囲の役割を担ってもらいます。

 

掃除が行きわたって、トイレなどの環境がよくなれば、排尿も我慢しなくなります。また、役割を持つことでコミュニケーションも促進され、孤立を防ぎます。心身の健康に、よりよい効果が出てきます。

 

 

体を動かさなければ、深部静脈血栓症になってしまうと、皆が危機感を持っていれば、ルールを作って役割を振っていくことは有益だとわかります。避難所で起こりやすい病気と解決策を知っておくと、避難所という環境の中でも、自然と好循環を生み出せるようになります。

 

もし、ルール作りさえ大変な状況だとなれば、日赤であれば救護班が避難所を巡回している際に話を伺うこともできますし、他の団体も、さまざまな支援の手を差し伸べてくれるはずです。困っていると声を上げてくだされば、効果的なリハビリ方法などを教えてくれる人たちにつながります。自分たちでできる状況であれば、できることをし、何もできないほどの困難な状況となれば支援を求めてください。そうすれば、避難所の健康問題は、より解決しやすくなるでしょう。

 

持病の悪化を防ぐ

もう1つは、持病が悪化しないようにするには、どうしたら良いのかです。とても若い人を除いては、何らかの持病があり、薬を飲んでいるとか、継続した治療が必要な人がほとんどでしょう。ただ、大きな災害が起これば、普段の診療は止まってしまいます。そのような状況で悪化させないためにどうするか、ある程度はご自身で情報を頭に入れ、備えておくことが重要です。

 

特に、病気によっては、塩分やカロリー制限などが必要になりますが、避難所生活では、食事は一律に提供されたり、特別な調理はできないため、コントロールが難しくなります。ボランティアの皆さんが厚意で出してくださったものを「制限があるから食べられない」とは、なかなか言い出せないかもしれません。しかし、栄養問題を抱えたまま避難所生活が長引くと、疾病の発症や持病の悪化につながります。できるだけ食事療法は続けることが大切です。

 

 

そのためには、まずご自身で病気の状態について理解し、食事制限が必要であれば、摂取してよい量や食材を自分自身で知っておいてください。「これくらいの量なら大丈夫」「こうすれば食べられる」などと声を上げられるように、日頃からご自身の病気について、しっかり知っておいてください。すべて覚えおかなくても、スマホにその情報の写真を保存しておく、おくすり手帳に食事の注意事項をメモしておくなども、有効です。

 

薬についても同様です。Aという薬は必ず毎日飲まなければならない、Bは数日なら病気が悪化することはない、Cは非常時なら飲まなくても大丈夫など、薬の必要性を知っておくと、避難時に持って出る薬を準備できます。

 

 

また、支援に来た医療者やかかりつけではない病院に行ったときに、「この薬がほしい」と伝えるためには、お薬手帳が非常に有効です。避難時でも、できるだけ持って出るか、コピーなどを持ちだし袋に入れておいてください。ほとんどの医療者は、手帳を見れば、病気の状態や治療について想像できるので、非常時でも適切な治療を受けやすくなるでしょう。

 

最終回となる次回は、「災害時の安全確保」についてお話しします。

 

是枝 大輔(これえだ だいすけ)

2018年入職、救急科・集中治療部副部長。

日本集中治療医学会集中治療専門医、日本DMAT隊員(統括DMAT)・インストラクター、日本災害医学会評議員。

好物は、カレー。中でも、給食にでてくるような甘口のカレーが大好きです。

 

 

災害に備える① 避難所での健康的な生活(2023年06月14日公開)
災害に備える② 避難所での健康問題の解決方法(2023年07月19日公開)←今回
災害に備える③ 災害時の安全確保(2023年08月16公開)

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