いつ来るか分からない災害。日赤和歌山医療センターは、どんな対策をしているの? どんな概念や指針、ガイドラインで対策しているの?ちょっとマニアックな情報をお届けして いきます。赤十字の病院が行う救護について知っていただけたら幸いです。

EMISでできること

2021/01/21

前回、EMISとはどのようなものなのか?についてお話しました。

 

今回は、実際にEMISでどのようなことができるのか?についてお話ししたいと思います。

 

以前、CSCATTTの回でもお話ししましたが、TTT(メディカルサポート)を効果的に行うためには、CSCAを確立し、組織的な活動のためのマネージメントを行うことが重要です。

 

災害時のマネージメントの原則に、6Rと呼ばれるものがあります。

 

これは、

Right Information(適切な情報)、

Right Coordination and Cooperation(適切な調整、協力)、

Right Person(適切な人)、

Right Materials(適切な機材)、

Right Time(適切な時)、

Right Place(適切な場所)

の6つのRのことで、医療ニーズ等の適切な情報を収集し、適切な調整を行った上で適切な時に適切な場所へ適切な人や物などの医療資源を投入する原則のことです。

 

災害医療のマネージメントは、この6Rによって行われます。

 

DMAT隊員養成研修資料から引用

 

しかし、災害は平常時の医療供給体制では対応できない、新たな体制の確立が求められる事態であり、過剰なニーズに対応していくため、対応の効率化を最大限に行う必要があります。そのため、通常では独立している医療機関を組織化することが求められます。

 

効率化するには、各施設の情報共有が不可欠であり、EMISはその有効なツールとなります。

 

では実際に、EMISにはどのような機能があるのか?について、お話していきます。

 

EMISには、

①災害時施設等情報

②医療搬送患者情報

③支援情報

④平時の施設情報

⑤緊急通報などの機能

があります。

 

救護所でのEMIS入力の様子

 

①災害時施設等情報

全ての病院・診療所・避難所・救護所等の情報で、災害が起こると、各医療機関はEMISに入力しなければありません。この際に入力する項目として、「緊急時入力」と「詳細入力」があります。

 

「緊急時入力」は、発災直後に入院病棟の倒壊やライフライン・サプライ状況、多数患者の受診、職員の状況(人員が充足しているか?)を有・無で入力し、医療機関が無事であるかどうかの情報を発信します。

 

つまり、「緊急時入力」は、医療機関の「安否確認」の情報となります。

 

一方で、「詳細入力」は、「緊急時入力」に基づき、より詳細な情報を入力することで、医療機関の詳細な「状況」が発信できます。病棟や外来、手術室などの施設の状況やライフラインの状況(非常用電源を使用している、備蓄で対応している)や燃料等の備蓄量、手術や透析の可否、受入患者数・転送が必要な患者数・今後受入可能な患者数、職種別の職員数などの情報が入力できます。

 

これらの情報は、各医療機関や本部、DMAT・救護班などの医療チームが閲覧でき、医療ニーズの把握を行います。この施設情報が入力されていないと、実際にその施設が無事なのか、入力できないほどの被害を受けているのかの判断ができないため、最悪の場合、現地にチームを派遣し、確認しなければなりません。貴重な医療資源(人材や時間など)を割いて対応することになるため、各医療機関は、可能な限り入力を行う必要があります。

 

②医療搬送患者情報

MATTS(マッツ)呼ばれる広域医療搬送拠点(SCU)などにおいて医療搬送対象患者や搬送用の航空機を管理し、搬送先の医療機関やDMATなどと情報共有するためのシステムです。

 

③支援情報

支援に赴くDMATや救護班が入力する情報です。災害が発生するとDMATや救護班が被災地に派遣されます。この際に、EMIS上に所属本部・目的地、各チームの人員、資機材、連絡先、交通手段などを入力することで、被災地の本部や医療機関、他のDMATや救護班が共有でき、どこにどれくらいの資機材をもったチームが何チーム活動しているか、向かっているかを把握できます。これにより、どれくらいの医療資源を投入できるかが判断できます。

 

また、各チームの位置情報も確認できるので、頻回に情報を更新していくことで現在地も共有できます。

 

④平時の施設情報

平常時に各医療機関の病床数、施設概要、職員数、備蓄数等を入力しておくことで、災害時にその病院のキャパシティーを把握できます。

 

⑤緊急通報などの機能

厚生労働省への緊急通報を行うための機能です。

 

その他に、各本部の組織図や連絡先、クロノロと呼ばれる経時記録などの閲覧機能、地図上で医療機関や医療チームの情報が確認できる統合地図ビューワー等の機能もあります。

 

このような数々の機能を活用し、本部は「緊急時入力」「詳細入力」等の情報から医療ニーズを把握し、「支援情報」に基づいて、適切な時に適切な場所へ適切な人・物などの医療資源を投入するための戦略を立て、それによって救護班やDMATが活動していきます。

 

また、医療チームや医療施設もそれぞれの情報を発信・共有することで、活動がスムーズに行える体制をとることができます。

 

このように、現在の災害医療ではEMISは無くてはならない重要なツールとなっているのです。

 

わかやま情報ネットの画面

 

最後に、和歌山県では、全国に先駆けて「わかやま医療情報ネット」を活用し、大規模災害時に医療機関の診療情報を速やかに発信しています(「災害時の案内はこちら」という赤色のバナーは大規模災害時のみ表示され、通常時はありません)。

 

わかやま情報ネットの内部画面

 

これは、県内で震度6弱以上の地震を記録したときや災害救助法の適用される災害が発生したときなどに、各病院が入力したEMIS情報に基づいて、

①診療可否(受診可能、救急のみ受診可能、受診不可、未入力の4段階で表示)

②透析・人工呼吸器患者受け入れの可否(対象医療機関のみ)

③医療機関からの連絡事項(診療科目や診療時間等を自由記述)

を県民が閲覧できるシステムです。

 

 災害時に、どこの病院が受診や透析患者の受入れができるか確認できるので、活用していただきたいですね。

 

 

≪災害医療救援センター≫

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