がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

がん治療のための医療機械開発に情熱を注いだ理由

2018/05/29

――平岡先生はがん治療に関わる多くの医療機器の研究開発に尽力されたとお聞きしています。具体的にはどのような内容の研究だったのですか?

 

 私の研究の柱は、「がんを温めて、がんを治す」というがんの温熱療法です。その研究をスタートさせたのは28歳です。京都大学在職期間中はその分野の研究をずっと続けました。

 

 具体的には、体の深いところにあるがんの細胞に熱を届け、死滅させようとする内容です。当時、体の表面にあるがんはマイクロ波などで温められましたが、がんの多くは体の深いところにできますね。そこに何とかして熱を届けられないかということで、「深部がんの高周波温熱療法」の研究を始めたのです。

 

 

――新しい医療へのチャレンジは大変でしたか。

 

 好きなことでしたが、相当な苦労はありましたね(笑)。今、この世にない医療への挑戦、つまり人類史上初めての挑戦ですから。ただ、大学にいる限りは、最新医療を探求することはミッションだったと思っています。

 

 

それに最新といっても、やみくもに研究するわけではありません。その頃には、抗がん剤治療と放射線治療を合わせると効果が出やすいという研究成果が出ていたので、それならがん温熱療法と他の治療法を併用するとよりよい効果が出せるだろうと。大学にいる工学系の教授の協力や企業からの支援もあって研究が始まったのです。

 

 がん治療は、「がんが、そこになかったことのように」治療するのが最大の目標です。できるだけそれに近づきたいとの強い思いがありました。新しいことへ挑戦すれば、新しい医療につながり、より患者さんは楽になります。医療の研究は、大変さを超えたやりがいがあります。

 

 

――その思いが先生を支えたから、文部科学大臣表彰科学技術賞の受賞という成果にもつながったのですね。

 

 長年のチャレンジによるものですね。受賞に直接結びついた業績は「動体追尾放射線治療システムの開発」です。放射線をがんにより的確に照射するための医療機器をつくりました。

 

 想像してもらうとお分かりいただけると思うのですが、体にできたがんはその場にとどまっているようで、実は呼吸などによって多少場所が移動しています。従来の方法では、がんが動くと放射線を集中して当て続けられないという課題があったのです。

 

 そこで、動くがんを追いかけて照射できるようなシステムをつくろうと。四次元的な治療と呼ばれていますが、この機械ができたことで放射線治療成果の向上や副作用の軽減などにつなげられました。

 

 

―がん治療の大きな前進ですね。

 

 「がんが、そこになかったことのように」治療するまでにはまだ道のりがあります。私が京都大学に残してきた業績は次の世代に引き継がれていますので、これからも新しい機械が生み出されていくと思います。

 

 

――大いに期待したいです。最新医療と大学での研究が深くつながっていることがよくわかりました。さて、次回は先生が和歌山で実践したい医療についてお聞かせください。

 

 

 

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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