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生まれる、成長する、学ぶ、悩む、暮らす、産む、寄り添う、過ごす、老いる…。 どんなときも 自分らしく、そして 健康に生活するために、産婦人科医から 身体のこと、体調のこと、病気のこと、予防や対策などをお伝えします。
2025/01/28
思春期から老年期まで全ての女性へ向けて、産婦人科医で女性ヘルスケア専門医の山西恵医師に、女性特有のからだの不調や病気のことを伺います。
毎日の生活をもっと元気に、豊かに! 一緒に学んでいきましょう。
今回、妊娠前の生活にかかわる話題で、性感染症について取り上げます。
性感染症とは、性行為によって感染する病気の総称です。
適切な治療を受けることで完治するものもあれば、慢性的な健康問題や深刻な合併症を引き起こす可能性があるものも含まれています。
性感染症について正しい知識を持ち、予防策を理解することが、健康な生活を送るために重要です。主な病気には、クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、尖圭コンジローマ、性器ヘルペス、HIV感染症などが挙げられます。
1.クラミジア感染症
クラミジア感染症は、日本における主な性感染症の1つです。
クラミジア・トラコマティスという細菌によって、膣や肛門、口を介した性行為によって引き起こされます。特に若い世代で感染が多くみられ、男女ともにかかりやすい病気です。
女性はおりものの増加や性交時の痛み、下腹部の痛み、男性は排尿時の痛み、尿道からの分泌物などが生じることがあります。ただし、無症状であることも多く、感染に気づかずに他人にうつしてしまうことがあります。
症状が進行すると、骨盤内感染症(PID)と呼ばれる、骨盤内の炎症を引き起こし、卵管が詰まることで不妊につながる可能性があります。男性でも、精巣上体炎を引き起こし不妊の原因となることがあります。
また、妊婦が感染している場合、切迫早産の原因となったり、出産時に赤ちゃんに感染して、結膜炎や肺炎を発症することもあります。妊婦健診にクラミジアの検査が含まれていますので、検査結果を確認しておきましょう。抗菌薬で治療できるので、早めに治療を始めることで後遺症を防げる可能性があります。治療終了後は、医師の指示のもと、治療判定の再検査を必ず受けましょう。
2.淋菌感染症
淋菌感染症は、淋菌によって引き起こされる性感染症で、若い世代で感染者が多く、クラミジアと同じような症状が出ることが多いです。抗菌薬で治療可能ですが、最近では薬に対する耐性を持つ「耐性淋菌」が問題となっています。そのため、淋菌と診断された場合は、医師から処方された薬を服用し、治療判定の再検査もしっかり受けましょう。
3.梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされます。主に性行為によって感染しますが、妊娠中の母親から胎児に感染する母子感染もあります。
近年、日本を含む多くの国で梅毒の感染が増加しています。
日本では、2010年代後半から感染者が急増しています。2023年には14,906例と過去最多となりました。女性が感染すると、胎児に感染することがあり、女性の感染者増加に伴い、先天梅毒の報告も増加しています。
梅毒は感染した後、無治療の場合、段階を経て進行します。硬いしこりや潰瘍が現れた後、全身に発疹が出たり、発熱を認めることがあります。また、数年から数十年後に心臓や血管、神経系に症状が出ます。梅毒はペニシリン系の抗菌薬による治療で治癒しますが、放置すると進行し命にかかわることもあるので、早期治療が大切です。
クラミジアと同様、妊婦健診で妊娠初期に検査を受けることになっています。
4.尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(6型と11型)によって引き起こされます。性器や肛門周辺にいぼのようなものができるのが特徴です。いぼは、にわとりのとさかやカリフラワーのように見えることがあります。
早期には小さく目立たないですが、放置すると増殖する可能性があります。治療法は、外用薬を塗布したり、外科的な治療として冷凍凝固や摘出、レーザー治療などの方法があります。治療後も再発することがあり、妊娠中には、病変が大きくなることもあります。そのまま出産を迎えた場合は、病変から出血を起こしやすかったり、まれに出産時に赤ちゃんの喉に感染を起こすこともありますので、妊娠中の治療や管理も大切です。
5.性器ヘルペス
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスによって起こる性感染症です。性器やその周辺に水ぶくれや潰瘍ができ、初感染の際は激しい痛みを伴います。一度感染すると体内に潜伏し再発することがあります。再発時は、初感染に比べて症状は軽いことが多いです。
抗ウイルス薬の内服や外用薬で治療しますが、疲労やストレス、免疫力の低下により何度も再発することがあり、長期的な管理が必要とされています。妊娠中に感染している場合は、新生児ヘルペスを引き起こし、赤ちゃんに重篤な影響を与える可能性があります。
性感染症を防ぐために
ここまで、主な性感染症についてお話ししましたが、いずれもコンドームの正しい使用により大幅に感染リスクを下げることができます。
パートナーも、同時に治療をしましょう。自分だけが治っても、パートナーが治療を受けていないと再び感染します。
クラミジアや淋菌のように再検査が必要なものもあります。お互い、治癒と判断されるまでは、性行為は控えましょう。また、不特定多数との性行為は感染リスクを高め、感染を広げることにつながりますので、そういった行為は控えましょう。
しかしながら、性感染症は、年齢、性別、性行動に関係なく、誰でも感染する可能性があります。産婦人科受診は勇気がいることだと思いますが、検査や治療は負担が少ない簡単なもののことが多いです。いずれも早期治療が大切ですので、症状がある場合や心当たりがある場合は、医師に相談しましょう。
次回も妊娠前の健康管理の話題の中から、「痩せ過ぎと妊娠」をテーマにお伝えしたいと思います。
山西 恵(やまにし めぐみ)
日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医。
学生時代はバレーボールを楽しみましたが、現在は育児と肩の痛みで鑑賞専門です。健康管理の大切さを身に沁みて実感しているため、いつかバレーボールを思い切りプレーできる日を夢見て、体力づくりをしていきたいです。
悩める患者さんやご家族のご希望に寄り添った診療を心がけています。すこやかな日常が送れるようサポートしていきたいと考えています。気軽にご相談ください。