海外の紛争・災害などに対して、医師や看護師などの職員を派遣し、国境や宗教、人種を超えて人の命と健康、尊厳を守る活動に取り組んでいます。

難民キャンプや被災地に「病院」を作るための準備

2022/11/19

日本赤十字社(以下、日赤)は、これまで世界各地の難民キャンプや被災地で、テント型の野外診療所を運営してきました。

 

国際赤十字では、テント型の救援設備と、それを運営するスタッフを合わせてERU(Emergency Response Unit)と称しています。外来診察に特化した診療所ERUや、入院や手術などの病院機能を有する病院ERUなどがあります。

 

日赤は、2021年に病院ERUの整備を完了し、有事の出動に備えて、人材育成や設備内容のブラッシュアップを続けています。

 

 

日赤病院ERU展開訓練の様子

 

また、フィンランド赤十字社(以下、フィン赤)が緊急救援時に展開する病院ERUにも日赤から職員を派遣することがあります。

 

2021年8月に、ハイチでマグニチュード7.2の地震が起こったとき、国際赤十字は地元ハイチ赤十字社の要請により、フィン赤を中心に病院ERUを展開しました。被害の大きかった南県のレカイに入院・手術機能を持つ臨時の病院を設置して医療を提供する活動に、日本赤十字社からも薬剤師(当医療センター職員)を派遣しました。

 

2022年4月にも、ウクライナ赤十字社が計画する国内避難民等に向けた仮設診療所の立ち上げ・運営をフィン赤スタッフとともにする際にも、日赤から薬剤師を派遣しています。

 

今般、フィン赤主催で、医療を提供するERUに必要とされる実務研修(Specialized ERU Medical training)が開催され、当医療センターの医師が参加しましたので、その内容を報告します。

 

研修会場となったフィン赤ロジスティクスセンター

 

研修は計4日間で、森の中のロジスティクスセンターにて行われました。参加者のほとんどがフィンランド人で、普段は大学病院などで勤務している医療スタッフばかりでした。フィンランドの公用語は、フィンランド語やスウェーデン語ですが、研修は英語で行われました。

 

研修内容は、医療支援を行うERUを展開するときに必要な知識に加え、入院診療の内容も含まれるため、質量ともにとても充実していました。たとえば、入院診療ではお産の対応が含まれますが、実際に安全なお産のために、どのような準備が必要か考えたり、難民キャンプや被災地の過酷な状況では、患者さんだけでなく家族や医療を提供するスタッフも大きなストレスを抱えるので、そのための「こころのケア」体制をより充実させることも重要になります。

 

これらの様々なニーズに備えるために多種のガイドラインが用意されており、それらを順に学んでいきました。

 

病院ERU運営実施のためのさまざまなガイドライン

 

また、座学だけでなく、収納・ベッド・担架の作り方を、実際に手を動かして確認する実習もしました。

 

テント設営研修中の筆者と、病院設営シミュレーションの様子

 

最終日には、実際の被災地を想定して、野外病院をどこにどのように設置するかをシュミュレーションしました。地形や集落のある場所を考えながら、適切な場所を選び、患者さんの流れを意識しながら、各医療設備を有するテントを組み合わせて配置するのは、かなりの現場経験を要する作業であるとわかりました。

 

4日間の研修をともに受講した赤十字のメンバー

 

全ての研修プログラムを終える頃には、同じ目標のために学び合った赤十字の仲間として、参加者どうしで自然と一体感を共有できました。

 

このような国境を越えた人間どうしの関係作りこそ、将来、派遣された先で、何より一番役に立つ財産であると思われました。

 

日本赤十字社和歌山医療センター 国際医療救援部

 

「和歌山から世界へ」では、様々な国際活動をレポートしていきます。出発式のほかにも、現地での活動、帰国報告会、国際人道法や語学・熱帯医学などの研修風景などをお届けします。乞うご期待!

 

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日本赤十字社 和歌山医療センター病院サイトはこちら

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