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海外の紛争・災害などに対して、医師や看護師などの職員を派遣し、国境や宗教、人種を超えて人の命と健康、尊厳を守る活動に取り組んでいます。
2025/01/18
私は、2023年10月から避難民キャンプでの心理社会的支援(以下、こころのケア)活動に携わり、バングラデシュ赤新月社や国際赤十字・赤新月社連盟の職員、また、多くのボランティアと協働しました。
今回は、約1年間のバングラデシュ派遣中に出会った現地の食事を紹介します。
(報告者:国際医療救援部 救援課 林優子)
日本でバングラデシュ料理というと、インド料理と似通ったイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のバングラデシュ料理(ベンガル料理)は、いわゆるインド料理とはかなり違います。
バングラデシュ国内で、私たち日本人が一般的にイメージするようなインドカレーを食べたい場合は、日本での状況と同じく、インド料理レストランに行きます(インドとバングラデシュはお隣どうしの国で交流も深いので、バングラデシュの街中でインド料理を探すのは難しくありません)。
ベンガル料理は、多様なスパイスを駆使して、素材の味や食感を引き立てているものが多いです。主食のお米を中心に、大皿に盛られた様々なおかずを適宜自分のお皿に盛って、すべてを混ぜ合わせて食べる、といったスタイルが主で、1つの明確な味を食すというよりは、様々な味覚・食感・香りを混ぜ合わせて、自分好みの味や具合に仕上げます。
ベンガル料理は基本的に手で食べますが、それは、口に入れる前に、まず手でその料理の質感を味わい、五感全てを使って食事を楽しむためと現地の同僚が教えてくれました。ベンガル料理は手で食べることで、その美味しさが完成します。
バングラデシュは日本と同様に、炊いたお米が主食です。
市場では、一度蒸してから乾燥させた米と、日本と同じように収穫後に乾燥させた米が売られています。主食としてよく食べられるのは、蒸してから乾燥させた米ですが、地域や料理によって好まれるタイプが異なることもあり、用途や趣向で選び分けています。
歳時ごはん① ベンガル歴新年
日本は1月1日から新年が始まりますが、ベンガル暦(バングラデシュの公式カレンダー)の新年は、毎年4月14日で、国中で盛大にお祝いが行われます。新年には、しっかり揚げたヒルシャ(Hilsha, ベンガル湾で採れる白身魚)のフライやボッタ(Bhorta, ジャガイモや野菜などのマッシュ)などを食べます。
歳時ごはん② ラマダン(断食月)
イスラム教の暦には、ラマダンという月があり、その1ヵ月間は日の出から日没の間、断食を行います。
この断食はイスラム教の実践のひとつで、空腹や自己犠牲を経験することでさまざまな欲求を断ち、自身を浄化し、恵まれない人の状況を思いやる想像力を養いながら、神への献身と奉仕に没頭する時間とされています。親族や友人たちと苦しい体験をともに分かち合うことで連帯感や絆が深まることも目的の1つです。
約1ヵ月間のラマダン明けには、ラマダンの終了を祝う「イード(=祝宴)・アル=フィトル(=断食の終わり)」と呼ばれる大祭が行われます。この期間は家族や親戚などが集まって、ハリム(Haleem、牛肉などを使ったシチュー)やシェマイ(Semai, 細く短い小麦麺を使ったスイーツ )といったお祝いの食事が振る舞われます。
歳時ごはん③ 冬の風物詩
バングラデシュでは、年間3回米の収穫時期がきます。中でも、12月は新米のシーズンで、冬の風物詩となっている新米を使ったピタ(Pitha)というデザートが食べられます。ピタには、揚げたものや焼いたもの、蒸したもの、中に具材を入れたものなど、色々な種類があります。
歳時ごはん④ 季節のフルーツ
バングラデシュの太陽や雨を浴びて豊かに実ったマンゴーは大地の味がして、口に入れるとその野性味あふれる芳醇な味わいに脳がしびれるようです。食べると、静かで強い熱源がずっとみぞおちにとどまっているような感覚で、エネルギーが湧きます。4月ごろから未成熟の酸っぱいマンゴーを楽しみ、5~9月くらいまでの期間は熟した様々な品種が入れ替わり市場に登場します。バングラデシュの人の中には、どの品種がどの時期に市場に出回るか(マンゴーカレンダー)を記憶している人も少なくありません。また、ボロイ、という日本では見かけないフルーツも、小ぶりで歯切れのよい梨のような食感と味で、とても美味しいです。
1年間のバングラデシュ生活を通じて、バングラデシュの人びとの郷土料理愛をいたるところに感じました。
半世紀ほど前には世界最貧国といわれたこともある国ですが(近年は、経済成長が著しい国として、世界から注目されています)、これまで受け継がれてきた料理の数々には、他国から見た経済的豊かさとは関係なく、その風土や食材を大切に、身の回りの大切な人たちや自分自身をより豊かにするために、工夫を凝らし、大事に紡いできた歴史が表れています。
バングラデシュの料理を楽しみながら、日本の独自性を発見することもありました。日本は食の多様性に富み、様々な文化・風習を受け入れる柔軟で懐の深い民族性があることに気づき、興味深く感じています。
他国の食事を通じて、日本人としての感覚を再確認するきっかけになることもあります。ベンガル料理レストランを見つけたら、ぜひ、お試しいただけると嬉しいです。
日本赤十字社和歌山医療センター 国際医療救援部
「和歌山から世界へ」では、様々な国際活動をレポートしていきます。出発式のほかにも、現地での活動、帰国報告会、国際人道法や語学・熱帯医学などの研修風景などをお届けします。乞うご期待!