日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

放射線治療中の生活

2022/11/10

日赤和歌山医療センターには放射線治療の専門医が3名在籍しており、各診療科と密に連携し、質の高いがん診療の提供を行っています。

 

放射線だけで治療する場合は、治療中も、生活が普段と変わらない患者さんの方が多いです。ただ、治療回数は長ければ30回前後、約1か月半と長期になり、特に自宅から外来通院する場合は、ご自身で気をつけていただく点もあります。詳しい話を根來慶春 放射線治療科部長に伺っていきます。

 

 

がんの治療は、がんの種類や病状によってさまざまで、放射線治療の内容にもかなり幅があります。けれど、全員が苦しい治療を行うわけではなく、がんの手ごわさに応じて、手術や抗がん剤の組み合わせ、放射線治療の回数などが変わってきます。放射線治療を受けた経験のある患者さんでも、副作用の辛さも人それぞれ、回数の多い少ないもそれぞれ異なります。

 

放射線治療だけで治るがんはいくつもあります。例えば、早期の肺がんや前立腺がん、喉頭がんなどがその代表です。前立腺がんのように、放射線を当てる範囲が狭いものは副作用も少なく、普段とほとんど変わらない生活ができます。

 

 

ただ、それでも放射線治療を受けるために守っていただかなければならないこともあります。当記事内で挙げていきますので、覚えておいていただければ幸いです。

 

 

喫煙はNG

 

何よりもまず喫煙は止めてもらいます。気持ちの問題ではなく、治療の効果が減少します。

 

タバコの煙の中には一酸化炭素が含まれていますが、その一酸化炭素が血液の中の酸素を奪い、酸素の量を減らしてしまいます。放射線治療は体に当たった放射線が、体の細胞の中の酸素と反応してがん細胞を傷つけるので、血液中の酸素量が少ないと、同じ放射線量でも効き目が若干落ちてしまいます。そのため、放射線治療中に日常的にタバコを吸うと効き目が確実に落ちます。

 

 

私たちが計算した放射線治療の回数で治るはずだった患者さんが、紙一重でギリギリ治らなくなってしまう心配があり得ます。タバコは放射線治療にとって本当に害となる存在ですので、禁煙してください。

 

 

飲酒は相談

 

タバコは絶対にやめていただきたいのですが、お酒は微妙です。放射線治療との関係だけで言うと、当てる部位によっては胃腸や喉の粘膜が放射線で炎症を起こし、そこにアルコールを飲むと、痛みが増したり炎症が長引いたりします。このような場合は、飲酒をやめていただきたいです。

 

それ以外の場合は、「常識的な飲み方だったら大丈夫」と言える場合もありますが、薬との兼ね合いもあり、やめる方が無難ではあります。病状や体調と相談しながら決めていきましょう。

 

 

車の運転

 

薬物療法を受けるときは副作用等によって運転を止めるように進言されることがありますが、放射線治療では体が元気なのであれば運転していただいて構いません。病院にご自身で車を運転して来られる方も多くいらっしゃいます。放射線治療の副作用だけで考えれば、急にひどい症状が出るものではないので、朝は体調万全で運転できたけれど放射線治療を受けた帰りに急に体調不良になって運転できなくなるということはありません。

 

 

放射線治療は何日もかけて受けるので、体力はゆっくり落ちていきます。最初は車を運転して通院できていたとしても、不安が出てきたら、事故防止のために早めに運転を控えてください。

 

運動

 

運動やスポーツについては、患者さんの体力と、がんの種類と場所によります。前立腺がんは比較的元気な状態で治療できるがんですから、放射線治療が休みである週末にゴルフに行ってきた、という患者さんもいるくらいです。

 

 

その他のがんではゴルフやスポーツジムに行ったり肉体労働をしたりしていいほど何でもOKということは少ないのですが、放射線治療にご自身で外来通院できていて元気であれば、激しい運動でなければご自身の体と相談しながら行っていただければと思います。

 

ただ放射線治療を受けるうちに体もだるさが出てきますので、そのときは無理をせず、普段の8割くらいの力で生活してください。

 

 

仕事

 

1つ前の記事でも申し上げた通り、仕事を継続しながら放射線治療に通われる患者さんは大勢いらっしゃいます。放射線治療は15分ほどで終わりますので(とはいっても、病院に居る時間は手続きやお支払いなどで 12時間になってしまいますが…)、仕事の合間に寄って受けられます。また、お腹が痛い、喉が痛いといった副作用が出たとしてもだいたい1ヵ月程度で回復します。

 

放射線治療だけではなく、次に抗がん剤治療を受けるという患者さんも多いと思いますので、治療の担当医やご自身の体調と相談しながら、仕事の継続方法について検討していってください。仕事を休む必要があれば、診断書を書かせていただきます。

 

 

放射線治療はまだまだ知られた存在ではなく、何が起こるかわからないから不安だと感じておられる方も多いと思います。治療について不安やわからないことがあれば、私たちの診察時に何でも相談してください。

 

 

「具合が悪いですが放射線のせいですか」と聞いていただけたら、「これは放射線治療による可能性があります」「これは違います」とお答えできます。がん治療は体にさまざまな影響を及ぼしますので、放射線治療後も定期的な診察を行い、心配ないかどうか診させていただいています。

 

がんは怖い病気ですが、患者さんにとって最適で最高の治療をチームで考えて選択しています。不安なことも多いと思いますが、気になることは質問していただき、心配を減らしながら治療していきましょう。

 

3回の連載をお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

根來 慶春(ねごろ よしはる)

日本医学放射線学会放射線治療専門医。医学博士。

趣味は、パソコンをいじること。好きなラーメンは、お箸が立って倒れないような濃厚ラーメンです。

 

 

放射線治療① 日赤和歌山の放射線治療(2022年09月08日公開)

放射線治療② 放射線治療の副作用(2022年10月13日公開)

放射線治療③ 放射線治療中の生活(2022年11月10日公開)←今回

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