日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

ハイブリッド手術室の運用と実績

2021/08/27

日赤和歌山医療センターでは、20204月から医療提供体制をさらに充実させる取り組みの1つとして、CT撮影装置と連動する手術台を備えたハイブリッド手術室の運用を開始しました。

 

導入から1年を振り返り、ハイブリッド手術室の運用実績や活用するメリット等について、伊良波浩副院長 兼 手術センター長に聞きました。

 

 

まず、ハイブリッド手術室の中心となっているCT撮影システムの特徴について教えてください

 

簡単に申しますと、手術台と組み合わせて使うCT画像撮影用の装置です。手術室の中で精密で立体的なCT画像が撮れるようになり、患者さんが手術と同じ体位で撮影した画像を見ながら、そのまま手術ができるようになりました。ハイブリッド手術室とは、このような撮影装置と手術台を組み合わせた手術室のことです。

 

 

この導入により、これまで手術の前に別室で画像を撮影して、移動後に手術していたのが、撮影と手術が同じ場所で同時にできるようになりました。比較すると、患者さんの負担が大幅に減るだけでなく、術中も画像が得られることで安全面も向上しました。さまざまな治療の同時進行もしやすくなり、患者さんにとっては非常に有益な環境にできたといえます。

 

大事故で多発外傷の患者さんが救急で運ばれて来た場合を例に説明します。これまでは、まず、カテーテル室でX線の透視しながらカテーテルでの初期治療をして、手術室へ移動してから外科的治療(手術)をしていました。物理的な移動時間がかかるため、それに伴って手術開始も遅くなっていたのですが、ハイブリッド手術室を活用することで時間短縮はもちろん、放射線診断科と外科の医師が同時に手技を行えるようになり、対応が迅速になって、救命に貢献できるようになりました。

 

 

他にどのような活用例がありますか?

 

代表的なものは循環器内科と心臓血管外科の経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)、ステントグラフト内挿術です。画像が映し出されたモニターを見ながら手術が行えるため、カテーテルで治療できるため、これまで開胸手術が困難だった高齢の患者さんにも適応が広がりました。

 

そのほか、整形外科の脊椎手術や骨盤手術です。従来からCTNavigationシステムを使い、手術箇所を3次元で確認しながらしてきました。ハイブリッド手術室ではより解像度の高い画像を撮り、それを見ながら手術ができるようになったことから、今後ますます利用が進むと考えられます。脊椎や骨盤の手術は、組織が深部にあるだけでなく血管や神経が近くにありますが、より安全で正確な手術ができるようになりますね。

 

 

もう1つ、脳神経外科の脳腫瘍や脳血管障害の手術です。脳の腫瘍、脳内の出血、血管奇形、動脈瘤の手術では、リアルタイムに血管撮影やCT撮影ができ、その画像が見られるため、ハイブリッド手術室も利用されるようになりました。

 

そして、これは日本でも数少ない事例ですが、呼吸器外科の肺がん手術、胸腔鏡下肺がん切除手術を行っています。これまで小さな肺がんはCT室でマーキングを行い、手術予定時間まで待機してから手術室へ移動して、マーキング部分を再確認しながら手術をしていました。ハイブリッド手術室では手術直前にマーキングし、そのまま手術ができます。転移で見つかった小さながんも、正確に取れるようになりました。呼吸器外科の医師が積極的に実施に向けて動き、実現しました。

 

 

さまざまな診療科で活用が進められているのですね。

 

当医療センターでは診療科の垣根を越えて、利用を促しています。できる限り多くの患者さんに、侵襲の少ない、身体への負担の少ない治療を導入したいからです。

 

 

和歌山県は高齢者人口が多く、当医療センターでも手術を受けられる患者さんが高齢化している印象があります。高齢患者さんは多様な疾患を幾つも持っていることが多く、体力にも限りがあり、ハイリスクです。そのため、治療はできる限り体への負担が少ないものにすること、つまり低侵襲治療であることが重要です。ハイブリッド手術室は、そのようなリスクの高い患者さんにメリットがあります。

 

和歌山県はこれからも高齢化が進むと予想されますので、この手術室の活用をより一層進めて、患者さんにリスクの少ない手術を提供できるようにしていきます。

 

 

全国的には、1つのハイブリッド手術室の複数科利用は珍しいと聞きました。

 

そうかもしれません。ハイブリッド手術室を整備している病院でも、循環器系に特化していたり、脳神経外科に特化する使い方が多いと聞いています。

 

当医療センターでは20年以上にわたって手術室を各科で共有する取り組みを進めてきました。手術センターには21もの手術室がありますが、月曜日はこの診療科、火曜日は別の診療科と、手術室を交替で使用しています。病院を建て直すときに手術室をすべて同じ仕様で設計し、共有化が円滑にできるような運用体制を整えてきましたので、複数科でハイブリッド手術室を利用することも自然な流れでした。

 

ただ、手術は医師だけで行えるものではありません。サポートする看護師、看護助手、診療放射線技師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士など多職種が関わっています。特に、ハイブリッド手術室は通常カテーテル室で行うことを手術室でやらなければならない。いつもと違う段取りや環境で手術や検査をしなければならないんです。また、さまざまな診療科から予約が入れば調整も必要ですが、手術室の看護師長が各科からの希望を調整してくれているので、混乱も摩擦もなく運用できています。

 

つまり、さまざまな診療科の医師、そして、看護師や技師さんなど多職種で前向きに新しい環境や手術に対応しようと努力した結果、ハイブリッド手術室の幅広い用途での稼働につながっているということです。

 

 

患者さんによりよい治療をしたいという気持ちからですね。

 

そうです。患者さんにとって、ハイブリッド手術室でさまざまな治療が受けられる方が良いのは間違いありません。ハイブリッド手術室で適応できる手術を増やす医師の努力と多職種の応援によって、患者さんによりよい手術を提供することが我々のミッションです。

 

今後も、複数の疾患を抱える患者さん、高齢の患者さんにとって、リスクの少ない最善の治療を提供していきます。

 

 

伊良波 浩(いらなみ ひろし)

1983年、和歌山県立医科大学医学部卒業。副院長、手術センター長、麻酔科部長。

健康の秘訣は、早寝早起き。

 

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