日赤和歌山医療センターの医師が健康や病気についての情報をお届けするコーナーです。専門医がさまざまなテーマを解説します。みなさんの健康保持にお役立ていただければ幸いです。

5月31日は『世界禁煙デー』

2018/05/28

5月31日は、世界保健機関 (WHO)が昭和63年(1988年)に制定した禁煙を推進するための記念日『世界禁煙デー(World No-Tobacco Day)』です。日本では、平成4年(1992年)から5月31日から6月6日までの1週間を『禁煙週間』とし、タバコを吸わないことが一般的な社会週間になるよう、各地でさまざまなイベントが開催されています。

 

当センターでも平成12年(2000年)に禁煙のための専門外来を開設し、今まで1,500人以上の禁煙をサポートしてきました。

 

和歌山県では平成14年(2002年)に公立学校の敷地内全面禁煙が実施された他、それと前後して県内の主な病院が建物内全面禁煙を開始し、平成20年(2008年)には健康保険で受診できるようになったことを受けて、多くの病院で敷地内全面禁煙が実施されるようになりました。

 

タバコの影響としては、これまでも心臓疾患や脳疾患、がんなどの発症率の上昇、妊婦の喫煙による心疾患を含む胎児への影響、学齢期の喫煙開始によるニコチン依存症の高発症率、喫煙者の周囲の人への受動喫煙による健康被害、新生児の受動喫煙によるSIDS(新生児突然死症候群)誘発の危険性、タバコを吸っていなくても煙がついた衣服やモノから有害物質が発せられる第三次受動喫煙など、次々と研究発表されています。

 

最近は、新しい喫煙スタイルとして新型のタバコ、加熱式タバコ、電子タバコなどと称されるタバコの葉を燃焼させないものが人気のようです。

しかし、これらに対して平成29年(2017年)10月、日本呼吸器学会は警鐘を鳴らしました。

 

禁煙外来を担当している池上達義呼吸器内科部副部長に聞くと・・・

平成27年(2015年)、世界に先だって日本で発売された非燃焼・加熱式タバコ(以下、加熱式タバコ)が話題ですね。タバコ葉を燃やすのではなく電気回路で加熱して抽出したタバコ成分を吸引する新しいタイプのタバコです。「有害成分が90%以上カットされ、タールは発生しない」「煙が出ないので周りの人に影響しない」とのうたい文句が瞬く間に伝わりました。周囲を気遣う良識的なスモーカーにとって願ってもないモノで、発売するや急速にシェアを伸ばし、今や従来型のタバコに取って代わるのではないかという勢いです。

 

しかし、研究が進むにつれて信憑性が怪しくなってきました。研究によると、加熱式タバコの主流煙中には、普通のタバコとほぼ同レベルのニコチンが含まれていました。強力な発癌物質であるタバコ特異的ニトロソアミンは普通のタバコより少なかったのですが、この量が健康に問題ないレベルなのかどうかはまだ分かっていません。

 

というのも、有害物質の量と健康被害の程度は必ずしも比例しないからです。例えば、受動喫煙で吸入する有害物質は喫煙者のわずか約100分の1ですが、非喫煙者に対する心筋梗塞の発生率は能動喫煙が1.5〜1.8倍に対し、受動喫煙では1.3倍と、その差はわずかです。すなわち、病気を起こすには、わずかな量のタバコ成分で十分なのです。

 

また最近、加熱式タバコの主流煙に普通のタバコと同程度のタールが含まれていることが分かりました。さらに、加熱式タバコ使用者の吐きだした煙は普通のタバコ煙と同じように周囲に拡がり、肺内に吸入されて受動喫煙を起こすことも証明されました。

 

きちんと科学的に検証されるにつれて、発売当初のうたい文句には疑問符がますます大きくなってきています。ちなみに、米国では未だ販売の許可が下りていません。平成29年10月、日本呼吸器学会は「使用者にとっても受動喫煙させられる人にとっても、加熱式タバコは推奨できません」という公式見解を発表しました。

 

では、加熱式タバコを常用する人は、止めることができるのでしょうか?との疑問が湧いてくるとおもいます。

 

加熱式タバコにはニコチンが含まれ、普通のタバコと同じ依存性があります。従って、普通のタバコの禁煙と同じ方法で禁煙が可能です。ニコチン依存に対しては、ニコチンパッチや内服薬が極めて有効です。当センターの禁煙外来にも加熱式タバコの使用者が受診されています。

 

名称や外見が変わっても、タバコはタバコ。万全になった訳ではなさそうです。池上副部長は、「私たちは『禁煙』チャレンジされる方を応援しています。2度目、3度目でも、「禁煙したい」「禁煙しよう」と思ったときが、止め時です」と呼びかけています。

 

 

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