がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

薬物療法④ 内分泌療法、免疫治療

2021/05/18

前の記事に続き、薬物療法の主な治療方法、効果、有害事象等を説明しています。前回は、抗がん剤治療の概要と分子標的治療を取り上げました。

 

今回は、ホルモン治療といわれることもある内分泌療法と、免疫治療についてお話ししていきます。

 

 

薬剤を用いた治療・・・内分泌療法(ホルモン治療)

ホルモンの作用を抑えるホルモン剤を投与することで、がんの増殖を防ぐことが期待できます。有害事象として、ほてりや発汗などの症状がでたり、関節痛などが表れたりすることが知られていますが、他の薬物療法と比べると有害事象は少ないと言えるため、利点が大きいです。また、いったん効果が発現すると、長期間にわたって持続することも大きな特長です。

 

この治療は、特定のホルモンにより増殖するタイプのがんに効果があります。内分泌治療が有効かどうかは、対象とするがんがホルモンに反応する性質を持っているかどうかによります。内分泌療法が行われる代表的ながんは、乳がんと前立腺がんです。

 

 

乳がんでは、女性ホルモン(エストロゲン)を抑える必要があるので、採取したがん組織の中のエストロゲン受容体の量を測定し、ホルモン治療への感受性の有無を判断します。乳がんでは、手術の前後に治癒率を高めるために用いられます。また、再発・転移が生じた患者さんには、他の抗がん剤とともに治療の中心となります。

 

前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)によって増殖します。どれだけ進行していても、前立腺がんはホルモン治療に基本的に反応するため、局所に留まらず広範囲になったものには第一選択の治療になります。がんが局所に留まっている場合は手術あるいは放射線治療が行われますが、その前後に内分泌療法が行われることもあります。

 

 

薬剤を用いた治療・・・免疫治療

近年、新しいがんの治療法として注目されているのが免疫療法です。

 

免疫とは、人体にもともと備わっている機能で、体内の異物を排除し、病気になることから身体を守る働きを持っています。実は、人の身体では、毎日がん細胞が生まれています。健康な状態では免疫機能ががん細胞の増殖を抑えているため、がんを発症しません。

 

免疫治療は、その免疫力を使ってがんを攻撃する治療法です。けれど、近年までは、がんは自分の体の組織から発生するものであり、細菌などの完全な異物ではないため免疫反応が起きにくく、がん免疫療法は効かないというのががん専門医の間では共通認識でした。

 

 

そんな中、がん細胞が免疫にかけているブレーキを外す作用を持つ「免疫チェックポイント阻害剤」の有効性が、臨床試験で示されました。基礎研究の成果も相まって「自己発症したがんにおいても免疫反応が起こっている」「しかし、がん細胞が免疫機能にブレーキをかけて本来の力を発揮できないようにしている」という考えが正しいことがわかりました。

 

「免疫チェックポイント阻害剤」の有効性は驚くべきもので、当時の研究では、他の薬物療法が無効になった患者さんが対象であったにも関わらず、有効率が高く、長期生存者もみられるようになりました。

 

この画期的な開発研究に対して、2018年にノーベル医学生理学賞が与えられました。先発したのは日本の企業でしたが、今や世界中のメガファーマが開発競争に参画し、非常に多くの臨床試験が実施されています。

 

その結果、保険診療の対象となるがんは、悪性黒色種、肺がん、頭頚部がん、胃がん、腎がんなどに拡大されています(いくつかの条件があります)。また、肺がんでは、放射線治療との組み合わせによって大きな効果が得られています。

 

ただ、この薬剤によって、全身の免疫応答が活性化します。それにより予期しない副作用が生じるリスクがあります。皮膚障害や甲状腺機能障害、神経障害など、さまざまな免疫関連の有害事象が報告されており、注意が必要です。

 

 

薬物療法のまとめ

薬物治療は、その質・量ともに、急速に進歩しています。

その象徴が、免疫チェックポイント阻害剤です。また、分子標的治療薬も進化しており、それぞれの患者さんにあった薬剤選択することも可能となりつつあります。

 

 

薬物療法を単独、あるいは手術と、または放射線治療と組み合わせることにより、患者さんにさらに大きな福音をもたらす治療法として、今後、ますます発展していくことを期待しています。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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