がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

放射線治療④ 陽子線治療と重粒子線治療

2021/01/19

放射線治療は、放射線をがん細胞にあてることで死滅させる治療法です。

 

放射線はがん細胞周辺の正常な細胞にもダメージを与えるため、いかにがん細胞だけにあてて治療効果を出すかが問われます。患者さんには体への負担が少なく、手術をせずに済むため有用な点が多い治療法でもあります。

 

今回は、放射線治療の中でも新しい治療法である『小線源治療』と『陽子線、重粒子線治療』の2つをご紹介します。

 

 

小線源治療

 

小線源治療は、密封小線源と言われる放射性物質を小さな容器に密封したものを用いて治療を行います。線源が小さいためがん病巣内に刺入する(組織内照射)、あるいは体腔内に挿入して臓器の近くから照射する(腔内照射)ことができます。

鋳型(モールド)を作成し、体の表面の皮膚にできたがんに照射することもあります。

 

 

この治療の利点は、がんの部分に集中して放射線照射が行えるため、高い局所効果が期待できることです。小線源を密封したものを体内に挿入する治療を行うので、ある程度の身体負担が生じることと、大きながんには対応できないことが欠点だと言えます。

 

組織内照射の主たる対象は、前立腺がんと、最近では一部の乳がんでも活用されるようになってきました。また、腔内照射は、子宮頸がんに対して、効果の高い治療として活用されています。

 

当センターでも、子宮頸がんに対して、腔内照射による放射線治療を行っています。膣から放射線を照射する器具を挿入して行うことで、腹部を切開したり、子宮頸部を切り取ることがないため、子宮や膣の機能を保全することができます。

 

そのため、欧米では子宮頸がんの治療の約半数が、放射線治療で行われています。

 

 

陽子線、重粒子線治療

通常の放射線療法に用いられるのは、X線、γ線、電子線という重さがないか、あるいは、重さがあっても軽い放射線です。一方、陽子線、重粒子線は、放射線の粒子がはるかに重いため、一定の深さで放射線の強度が一気に高まり、その後にまた急激に減弱するブラッグピークという現象を引き起こす特性があります。

 

日本原子力研究開発機構資料から引用

 

このブラッグピークをがんの部分に合わせることによって、がんに選択的な放射線治療ができるというのが粒子線治療の特徴です。また、重粒子線には、X線などに比べて生物学的効果が高いという特徴もあります。

 

あまり知らせていませんが、粒子線治療は日本が世界をリードしており、重粒子線治療をおこなう装置の設置台数も世界有数です。

 

粒子線の臨床的優位性は、ごく一部のがんにおいてしか示されていません。

 

小児がん(白血病を除く)に対する陽子線治療、骨・軟部組織腫瘍に対する重粒子線治療です。また、頭頚部がんについても両者の有効性が示されつつあります。

 

粒子線治療が最も用いられているのは、前立腺がんです。しかしながら、X線による先端的な強度変調放射線治療(IMRT)と比較して、陽子線、重粒子線いずれも特段の有用性は示されていません。

 

なお、ここで紹介したがんに対しては、保険診療が認められています。

 

ここまで4回にわたって放射線治療について解説しました。

 

近年めざましく進歩した放射線治療は、患者さんに負担の少ない治療法です。

 

もっとこの治療法の利点が評価されるよう、私も放射線医として情報発信を続けていきたいと考えています。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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