がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

放射線治療③ 技術革新で飛躍的に進歩した放射線治療

2020/12/15

放射線治療は、放射線をがん細胞にあてることで死滅させる治療法です。

 

放射線をあてるだけでは、正常な細胞も一緒に傷ついてしまうので、いかにがん細胞だけを標的とするかが重要です。

 

放射線治療の精度を上げるための方法の1つ、技術開発によってがんに放射線を集中させ、正常な細胞を傷つけることのない『物理工学的アプローチ』をご紹介します。

 

この25年間で技術開発が進み、放射線治療は二次元治療から三次元治療に進化し、腫瘍に対する放射線の集中性が飛躍的に高まりました。結果として、正常細胞に障害を起こすことなく、がんを治癒に導く線量を照射できるようになりました。

 

 

三次元治療はその文字通り、多方向から腫瘍を中心に三次元的に放射線照射する治療です。その中でも、臨床現場に急速に普及して治療成績の向上させ、副作用の軽減に大きく貢献しているのが、『定位放射線治療』と『強度変調放射線治療』です。

 

今回は、この2つの治療法について、紹介していきます。

 

【物理工学的アプローチ】

定位放射線治療(俗称:ピンポイント照射)

 

世界で初めて定位放射線治療を成功させたのは、脳内の病変に対してです。スウェーデンの脳外科医であったレクセル博士が開発したガンマナイフによって可能となりました。

 

 

彼の開発した脳の定位照射は、放射線を手術のメスのように使って、1回照射で脳の中の病変をコントロールしようというコンセプトでした。

 

この脳病変に対する定位放射線治療の実績をもとに、体幹部のがんに展開する技術が、ここ15年間で大きく進展しました。

 

同じ原理に基づいた照射方法で、小さながんに対して多方向からペンシル状の細いビームをがんに集中させます。俗称としてピンポイント照射という呼び方がピッタリな治療法です。

 

対象となるのは、5㎝以内の大きさでリンパ節転移の無い肺がん、肝がんです。照射は脳と違って1回だけではなく、3〜8回ほど分割して照射します。1回線量は通常照射の2Gyではなく、12〜20Gyの大線量を与えます。

 

この体幹部がんの定位放射線治療をリードしたのは、実は日本の放射線治療医です。今も日本が世界をリードしています。健康保険が使える治療も日本が世界初で行われました。

 

早期肺がんに対する定位放射線治療は国内外のガイドラインで扱われ、手術不能あるいは手術拒否の患者さんには第一選択の治療と明記されています。

 

手術可能症例については手術が第1選択ですが、高齢者(米国のガイドラインでは75歳以上)、あるいは、その他の疾患や生活習慣病などを抱えているために手術リスクが高いとされる患者さんには、定位放射線治療がオプション、つまり考慮すべき治療法になります。

 

 

【物理工学的アプローチ】

IT技術を活用した強度変調放射線治療

 

もう1つの治療法である強度変調放射線治療は、英語でIntensity-modulated Radiation Therapy(略してIMRT)と言います。たまたまITという言葉が入っていますが、そのとおり、最新のIT技術(information technology)をがん治療に最もうまく活用できた治療法と言われています。

 

前立腺がん、頭頸部がん、脳腫瘍、肺がん、悪性中皮腫、乳がん、子宮がん、食道がん、直腸がん、肛門がんなど、数多くのがんで広く用いられています。

 

健康保険が使える治療で、保険点数も比較的高く、高精度な医療技術だと認められています。最近は、放射線治療を受けている患者さんの30%以上をIMRTで治療している病院も増えています。当センターでも、IMRTを受けられる患者さんが年々増えており、約半数に達しています。

 

A・・・コンピューターで線量強度を制御しながら7方向から照射している様子
B・・・放射線が直腸を避け、前立腺に当たっている様子

 

前立腺がんのIMRTについての治療法を図で示しました。真ん中の緑色で示した前立腺の背部に接して直腸があります。また、前立腺の上に膀胱が乗っています。膀胱、直腸を避けて前立腺に放射線を当てるかがポイントになります。

 

ここでは放射線を7方向から当てています。1つ1つの照射野が不整形になっているのは、なるべく前立腺に集中した照射を行っているためです。これが三次元治療です。

 

IMRTでは、この照射野の中の線量強度をコンピュータ制御することにより、前立腺への線量集中を最適化しています。これが「IT技術の粋」と言われる所以です。

 

図に示しているように、直腸がほとんど照射されない一方、前立腺全体にもれなく放射線照射されているのが分かります。

 

つまり、IMRTを用いると、直腸の線量をほとんど気にせずに前立腺の線量を上げることができます。

 

前立腺がんの根治手術は前立腺全摘術ですが、72Gy以上の放射線治療は同等の成績であることが示されています。すなわち、手術をしなくても、放射線治療で治せるようになったと言えます。患者さんには手術と放射線治療の2つの選択肢があり、自分に合った治療を受けられる時代になりました。

 

頭頸部がんにも極めて有用です。特に、咽頭に生じたがんです。一般的な放射線治療では、局所(がんのある部位)の制御と周辺のリンパ節転移を制御するとともに予防が必要なため、頸部を広く含めて照射します(標準治療)。

 

ただ、この方法だと、口の中や唾液腺全体にも照射されることによって唾液腺障害が全例に発生し、唾液が出なくなる、しゃべりにくい、味覚が落ちて食事が美味しく感じられないなど、患者さんのQOL(生活の質)を下げる副作用が出てしまいます。

 

それがIMRTを用いると、最も大きな唾液腺機能を有する耳下腺を外すことが可能になるため、治療後のQOL低下を大きく減らせます。頭頸部がんの治療では、IMRTは無くてはならない照射方法です。

 

 

この2つの治療法により、近年、放射線治療の効果は飛躍的に高まり、患者さんの選択肢も増えました。技術の進歩は偉大です。

 

次回は、放射線治療の中でも新しい「陽子線」と「重粒子線」を用いた治療法をご紹介します。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年から現職。

詳しくはこちら

日赤和歌山医療センターHP

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