がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

放射線治療② 分割照射と化学放射線治療のメリット

2020/11/17

放射線治療は放射線をがん細胞にあてることで死滅させる治療法です。

 

ただ、放射線は正常細胞も標的に入ってしまいますので、いかにがん細胞を選択して放射線をあてるかが重要なポイントとなります。近年は最新の技術や機器によって、その選択性を飛躍的に高めることが可能となり、放射線治療で多くのがんを治せるようになりました。

 

放射線治療の選択性を上げる方法は、2つあります。

 

 

1つは、がん細胞と周辺の正常細胞に同じ線量があたっても、がん細胞に大きな損傷を与える『生物学的アプローチ』によるものです。線量分割法(分割照射)の工夫、薬物療法との併用(化学放射線治療)などがあります。患者の個性にあった個別化医療につながるゲノム医療も、この流れにあります。

 

もう1つは、技術開発によってがんに放射線を集中させ、正常な細胞を傷つけることのない『物理工学的アプローチ』です。こちらは近年の進歩が著しく、臨床の現場で急速に浸透している方法です。

 

では、まず、がん細胞と正常細胞に同じ線量があたったときに、がん細胞へ効率的にダメージを与える治療方法について詳しく解説します。

 

 

『生物学的アプローチ』①

放射線の分割照射で、がん細胞を効率的に死滅させる

 

放射線治療は、何回かに分けて行います。これを分割照射といいます。

 

一般的には、1回2Gy(グレイ)という量の放射線を週5回、6週間にわたり照射します。総線量は、治癒を目指した治療では60~70Gyが一般的です。手術後の予防効果を期待する場合には、50Gyが標準です。リンパ腫などは放射線で制御され20~30Gy程度の照射量で済み、すなわち、治療期間に2〜7週間ほど要します。

 

このような時間をかけて放射線を照射する治療法は、先人達の知恵が生み出したものです。放射線を受けた細胞は、正常組織もがんの細胞も同様に損傷を受けますが、正常組織にはがん細胞よりも回復機能が備わっているため、時間の経過とともに回復していきます。一方で、がん細胞の損傷は時間経過とともに蓄積され、より大きな損傷を受けることになります。

 

この特性を生かして、繰り返し放射線治療すること(分割照射)により、正常組織は回復し、がん細胞は壊れていき、根治性を高めることができます。

 

 

この分割照射による治療は、外来通院で行えます。ただ時間がかかるため、より短期間で実施できないかが課題となっています。

 

乳がんや前立腺がんでは、1回の線量を少し増加して3〜4週間で治療を終了する方法と従来法との比較が世界的規模で行われ、両者間に差が無いことが証明されました。そのため、乳がんや前立腺がんに対しては、短期間で終了する治療に今後は移っていくと思われます。

 

また、最新技術を駆使すると、照射される正常組織の範囲が著しく減少できるようになったので、1回線量をこれまでより何倍も大きくできます。そうなると、1週間程度で治療を完了することも予想されます。今後は、放射線治療が、もっと受けやすくなると思います。

 

少し話がそれますが、放射線治療はがんを治す治療法以外に症状を軽減させる治療としても有効活用されています。

 

骨や脳などにがんが生じた場合に生じる骨の痛み、頭痛、神経症状を速やかに改善させる効果があります。この緩和目的の照射は速やかに痛みを軽減することが求められるため、ほとんどの場合、2週間以内に完了するように集中的に照射します。また、痛みが再燃するような場合は、断続的に1回照射も行われます。

 

 

『生物学的アプローチ』②

薬物療法と放射線治療を併用する化学放射線治療

 

現在、臨床(病院での治療)で広く用いられているのは、薬物療法と放射線治療を併用した化学放射線治療です。

 

放射線治療に抗がん剤を併用するメリット(利点)は、放射線治療では対応できない微小な遠隔転移巣を抗がん剤によって根絶できる点に加え、抗がん剤によって局所効果が増強されることが挙げられます。

 

併用の時期は、連続と同時とそれぞれありますが、高い局所効果が得られるため同時に行う治療が一般的です。ただ、治療効果が増強される一方で、副作用が強くなるデメリット(欠点)があります。

 

この治療法は局所進行がんに用いられますが、最近では、早期のがんにも用いられることが増えています。有効性は、頭頸部がん、肺がん、食道がん、膵がん、直腸がん、肛門がん、膀胱がん、子宮頸がんなど数多くのがんで示されています。

 

当センターに導入している最新のリニアック治療器

 

これらが『生物学的アプローチ』により、がん細胞を選択して死滅させることで放射線治療の効果を高める方法です。

 

前述したように、この他にも『物理工学的アプローチ』がありますので、次回(放射線治療③)は、その治療法を解説します。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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