がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

放射線治療① 利点と効果

2020/10/20

今回から4回にわたり、がん治療の1つである「放射線治療」について詳しくご説明します。

 

がんの治療といえば手術(手術療法)を思い浮かべる方が多いと思いますが、がん治療には手術、放射線治療、薬物療法の3つの柱があります。

 

 

どのようながんにも1つで対応できる万能な治療はなく、どれかが優れている、優れていないといったこともありません。患者さんの個々の状況に合わせて最適な治療を選択します。

 

最近は、複数の治療を組み合わせることも、よく行われます。どの治療にも利点、欠点がありますので、それらをよく理解して選択していく必要があります。

 

日本では、過去の不幸な歴史が関係しているのか、放射線という言葉に過剰に反応する人もおられます。そのため、放射線治療の問題点が過剰に意識され、利点が過小評価されていると感じています。

 

世界での放射線治療のデータを見てみると、新たにがんと診断された患者さんのうち、米国では66% が、ドイツでは60%が初回治療として放射線治療が行われており、韓国、シンガポール、タイなどのアジア諸国でも50%台の利用率といわれています。

 

一方、日本で放射線治療が初回治療の1つとして用いられるのは25%に過ぎません。国際基準の半分以下です。放射線治療が有効に活用されていない日本の現状が伺われます。

 

私は放射線治療医ですから、もっと多くのがん患者さんが放射線治療の恩恵を受けて欲しいと願っています。その思いは、この「がん茶論」をはじめようとした動機の1つになっています。

 

ぜひ、放射線という言葉にとらわれずに読んでいただき、治療の利点や特徴を知っていただきたいと思います。

 

 

放射線治療の利点

放射線治療は、体にメスを入れず、放射線の照射によってがん細胞を消滅させます。「切らずに治す」治療です。

 

この治療には、主な利点が3つあります。

 

 

まず1つ目の利点は、がんを切除しないで治療するため機能・形態の温存に優れていることです。声を残して声帯がんを、子宮を残して子宮頸部がんを治癒に導くことができます。乳がんになっても乳房を残せるようになったのも放射線治療の役割が大きいです。

 

2つ目の利点は、体の負担が少なく、他の疾患を併せ持つ患者さんや、高齢者にも適応できることです。

 

超高齢化社会に突入した日本では、高齢者のがん患者さんが急増しており、また、高齢者では心臓疾患、糖尿病などを併発していることも多いため、体の負担が少ないことは非常に大きなメリットです。

 

3つ目の利点は、いかなる部位でも治療できることです。

手術ではどうしても切除できない部位が存在しており、手術不能となることがあります。その場合でも放射線治療なら多くの場合で治療可能です。

 

しかも、近年の技術革新により、がんのみを狙い撃ちに照射することができるようになり、安全かつ、より強力な治療へと進化しています。

 

 

放射線治療の問題点

放射線療法には、利点と同時に問題点もあります。

 

まず、手術に比べて局所制御の点で劣るがんが少なくないことです。骨・軟部組織あるいは甲状腺のがん、黒子(ほくろ)のがんと言われるメラノーマ(悪性黒色腫)は、放射線への感受性が低く放射線治療だけで治すことは困難です。

 

 

もう1つの問題点は、腫瘍周辺部の正常組織にも、わずかながら放射線が照射されることに伴う放射線障害の出現です。ピンポイントでの照射する性能は向上してきていますが、臓器は複雑な形をしている上、呼吸などによって臓器の位置が移動したりすることもあり、照射範囲に腫瘍(がん)になっていない正常組織にも放射線が及びます。

 

生体は数多くの臓器から成っていますが、それらの多くは放射線に強くはありません。中でも、骨髄(特に白血球)、消化管(特に小腸)は放射線に弱い臓器です。

 

胃がん、大腸がんには通常、放射線治療は行われませんが、これは周囲に存在する消化管への放射線照射により下痢などの有害事象が出現するためです。

 

 

放射線治療の効果

放射線は、細胞に対して非常に効率よくダメージを与えることができます。

 

放射線が細胞にあたると、核内に存在するDNAの二重切断を引き起こし、その損傷を受けた細胞は次に分裂することができなくなり細胞は死に至ります。

 

逆に言えば、放射線を受けたがん細胞は、その細胞が次に分裂するまでの間、しばらくですが生きています。

 

細胞がゆっくり分裂するがん(例えば前立腺がん、乳がんなど)では、すぐには小さくならなくて、ゆっくり小さくなっていき、場合によっては放射線治療終了後に、すべてのがん細胞が消えることもあります。 

ただ、がん細胞だけでなく正常細胞にも標的であるDNAが存在します。そのため、放射線治療の目指すものは、がん細胞にいかにピンポイントで狙うかということです。

 

次回から、放射線でがん細胞をどのように効率的に消滅させていくかというお話をしたいと思います。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを務めるがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

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