がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

がんの最終診断を担う ~病理診断~

2019/11/19

平岡先生は京都大学医学部を卒業して放射線科医となり、2007年には京都大学医学部附属病院がんセンターの初代センター長に就任。2015年の退官まで20年以上にわたり京都大学大学院医学研究科の教授としてがん治療に関わり続けてこられてきました。

 

がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んでこられた平岡先生に、がんについてわかりやすく教えていただきましょう。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

 

ここまでX線、CT、MRI、PET、エコー、腫瘍マーカーと、がんの検査について、詳しく解説してきました。それぞれに特徴があり、がんの場所や種類によって複数の検査を行った後に組み合わせて診断していきます。今回は、その最後を締めくくる「病理診断」についてです。

 

 

病理診断とは

 

病理診断は、患者さんから検査や手術などで採取された組織や細胞を顕微鏡で観察して行う検査です。がん・悪性細胞を病理医が直接見て診断するわけですから、これ以上に確実な検査はありません。

 

病理診断には、大きく分けて細胞診断、生検組織診断、手術で摘出された臓器・組織診断という3つの診断の種類があります。生検組織診断は生検(せいけん)と呼ばれています。その名前は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

 

それぞれの診断の違いについて、説明していきましょう。

 

 

 

患者さんへの負担が少ない細胞診断(細胞診)

 

細胞診断(細胞診)は、ガラスに擦りつけられた細胞を特殊な染色液で色づけを行い、顕微鏡で観察してがん細胞が出ているかどうかを診断する検査です。細胞診の検査の対象となる材料は様々です。肺がんや膀胱がんでは、痰や尿の中にがん細胞が混じることがあるので、採取された痰や尿の標本を作り診断します。また、子宮がん検診では子宮頸部から直接細胞をこすりとり、頸部(甲状腺、唾液腺、リンパ節など)や乳房などにしこりがあると、細い針を刺して吸引した細胞を診断します。

 

細胞診断は、患者さんへの負担が少なく、繰り返し検査を行うことが可能です。人間ドックや集団検診でも行われています。

 

当センターで病理診断の標本をつくる検査室

 

 

病変の一部を切り取る生検組織診断(生検)

 

生検組織診断(生検)とは、がんが疑われる臓器や組織、医学用語で病変といいますが、その一部から数ミリ程度の組織小片をつまみ採って行う検査です。それらの組織小片を標本にして病理診断をします。

 

近年、もっとも頻繁に行われているのが、胃・大腸などの内視鏡検査(胃カメラ・大腸ファイバー)による生検です。多くの病変は、超音波、CT、MRなどの画像検査で発見されます。疑わしい病変は、超音波やCTの画像を確認しながら、胃カメラや大腸ファイバーの画像を見ながら採取するため、より安全で確実性も増しています。

 

 

臓器、病変の病理組織診断は治療方針に影響

 

手術で摘出された臓器、病変の病理組織診断では、どのような病変がどのくらい進行していたか、手術で取りきれたのか、追加治療が必要なのか、がんの特徴や転移の有無などがわかります。

 

術中迅速病理診断といって、手術で切除された病変をすぐに病理医が確認し、手術中の医師に報告することもあります。手術の正確性を高めるためにも重要ですが、常勤の病理医がいる病院は少ないため、病院選びではポイントにもなっています。

 

病理組織診断は治療方針の決定に大いに役立つ、重要で詳細な情報です。手術後の治療病理医から主治医に提供され、適切な治療方針を決めていきます。

 

各診療科の医師、病理医、放射線診断科医らによる病理検討会の様子

 

一人ひとりに合わせた個別化医療にも病理診断が有用

 

がんの治療法は日進月歩です。大きな流れは、これまでの画一的な標準治療から患者さん一人ひとりに合わせた個別化医療への転換です。同じ疾患でも、全員に同じ治療法を適用すればよいというものではないことは知られてきています。2018年に本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大学特任教授がノーベル医学・生理学賞に輝いた免疫チェックポイント阻害剤を始め、革新的な薬剤が続々と開発されています。免疫療法という言葉もずいぶん知られるようになりました。

 

ただ、大きな問題があります。これらの免疫治療は限られた患者さんしか効果が認められないこと、日本の医療保険制度を破壊しかねない高額医療であることです。

 

 

個別化医療が求められる領域で、有効性を判断するものとしてがんゲノム(遺伝子)情報も有望とされています。しかし、その情報を得るには病理検査が必要です。つまり、病理診断はがんの診断を確定する「守護神」と言えるでしょう。

 

その役割に加え、がんのステージや特徴を最も的確に判断する治療の「導き役」も担っています。最善の治療を考える上で、非常に大事な診断なのです。

 

当センターには病理診断科部があり、常勤病理医によって病理診断が行われています。迅速に主治医へ報告することによって、より質の高いがん医療を提供しています。

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを務めるがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。

 

 

 

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