海外の紛争・災害などに対して、医師や看護師などの職員を派遣し、国境や宗教、人種を超えて人の命と健康、尊厳を守る活動に取り組んでいます。

国際人道法

2019/05/18

今(2019年4月現在)、医師である私は、レバノンのパレスチナ難民キャンプで医療支援をしています。現地スタッフの診療能力向上のため、トリアージ(重症・軽症によって診察を振り分けること)や外傷初期診療などを指導したり、診療録の導入などを行っています。

 

難民キャンプには、多くの人が逗留します。立場や考え方の違いのある人々が集うこともあります。そんな中で、仮に、キャンプ内で争いが起こったとしても、診療に専念できます。どうしてでしょうか?

 

その1つに赤十字が「国際人道法の守護者」と呼ばれていることが挙げられます。

 

レバノンのパレスチナ難民キャンプで技術指導する赤十字医師

 

実は赤十字と国際人道法は、同じ思いから生まれた「兄弟のような」関係にあります。

なぜなら、赤十字はアンリ・デュナンという一人の男性が、1859年のイタリア・ソルフェリーノの戦いにて傷ついた人々を救護した経験から始まったものです。

そして、赤十字のスタッフとその救護する負傷者を、たとえ紛争地域であっても守れるよう各国の元首たちに働きかけてできたのがジュネーブ条約で、今の国際人道法のもとになったものだからです。

 

アンリ・デュナン(左)とジュネーブ条約(右) 日本赤十字社ホームページより

 

具体的な国際人道法の内容は多岐にわたりますが、医師である私に最も関連することは、

①たとえ兵士であっても戦闘に参加できない傷病者となった場合、その治療は敵味方の区別なく行われなければならない。

②そのための医療活動は攻撃の対象になってはならない。

 

というルールがあるため、私は医療活動に専念できます。ただし、誰が兵士で誰が医療要員かきちんと区別するため、

③医療要員とそのための施設は赤十字マークを用いる

ということも定められています。

 

赤十字マークを付けて医療活動する赤十字の医師

 

国際人道法が守られるためには、その前提として、まず、その地域の人々が国際人道法を知っていて、それに共感して行動してくれることが大切です。

そのために、以前、私もバングラデシュ南部避難民のキャンプで働いていたときに、国際人道法の講義を行いました。

ミャンマーから避難してきた人々と、彼らを支援するバングラデシュのスタッフとが協力して活動できるようにすることが目的でした。

結果として、彼らが人道法に則った内容を言葉にして行動に移せるようになり、私も人道法が果たす意味を現場で実感することができました。

 

バングラデシュでの国際人道法講義の風景

 

ところで、日本と国際人道法の関わりも興味深いものがありますので、ご紹介します。

 

明治初期の西南戦争において、敵味方の区別なくというアンリ・デュナンと同様の精神で政府軍と薩摩軍の傷ついた兵士たちを救護しようと始まった活動が、今の日本赤十字社の起こりになっています。そして、その精神は、現代の日本人である私たちにも引き継がれていると考えられます。

 

例えば今目の前にいる人が、何を大切にしていて何に困っているかを想像して、それに従い行動していく「思いやり」の精神は、世界的に見ても日本人を特徴づけるものの1つだと言われています。

 

その精神を、国内の医療現場だけでなく、海の向こうでも発揮することが、私たち日本赤十字社の国際医療救援要員の活動であると考えます。

 

 

 

「和歌山から世界へ」では、様々な国際活動をレポートしていきます。出発式のほかにも、現地での活動、帰国報告会、国際人道法や語学・熱帯医学などの研修風景などをお届けします。乞うご期待!

 

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