海外の紛争・災害などに対して、医師や看護師などの職員を派遣し、国境や宗教、人種を超えて人の命と健康、尊厳を守る活動に取り組んでいます。

中東北アフリカ地域におけるCOVID-19支援活動

2021/09/25

2021年7月、日赤和歌山国際保健衛生セミナーをオンラインで開催しました。

 

日本赤十字社から、中東地域首席代表としてレバノン共和国に派遣され活動している五十嵐真希さんに「中東北アフリカ地域でのCOVID-19支援」について、現地とオンラインでつなぎ講演いただいたので紹介します。

 

日本赤十字社は、中東地域での国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の活動に人を派遣したり、パレスチナ赤新月社の医療事業への支援や、ベイルート爆発(2020年8月)やパレスチナ衝突(2021年5月)などの人道危機や医療保健事業に対して資金協力などを継続しています。

 

COVID-19感染拡大当初から中東地域では、イラク赤新月社のボランティアが啓発活動としてポスターを配布したり、子どもたちへ手洗い方法を指導したり、シリア赤新月社がシリア人女性へ食糧支援や啓発活動をするなど、さまざまな活動が行われています。

 

地域では保健省を中心にワクチン接種も進められていますが、医療スタッフの不足やワクチンの低温輸送システムの不備などの課題があります。レバノン共和国では、週末に集団接種を行うなど、各国で様々な努力をしているものの、ワクチン接種数が伸びていません。その背景には、世界のワクチン供給量の75%が、たった10国の先進国に集中しているというワクチンの分配にかかる問題もあります(2021年5月WHO報告)。

 

国際赤十字は、COVID-19対策については『No one is safe until everyone is safe(全ての人が安全になるまでは、誰も安全ではない)』ということを念頭に、赤十字社のある192ヵ国すべてに対し、公平公正なワクチン配布を働きかけ、ワクチン接種に関する啓発活動、それに伴う保健サービスの拡大などを行っています。

 

 

次に、占領下や情勢不安下にある地域でのCOVID-19支援について、レバノン共和国とパレスチナ自治区・パレスチナ難民を例に紹介していきます。

 

 

レバノン共和国では、2019年10月に政府に対する抗議デモが始まり、治安や情勢が不安定な中で、2020年8月に首都ベイルートの港で大爆発、2021年1月に新型コロナの感染爆発、その後、経済危機、燃料不足、長時間停電等が起こり、さまざまな困難が幾重にも市民を襲っています。

 

経済危機と医療アクセス不足で、貧困層の人々は「コロナで死ぬのか、餓死するのか」という差し迫った状況です。レバノン赤新月社は、保健省やWHOと連携し、COVID-19対応システムを構築しています。緊急時に電話できるホットラインの開設、救急車の配備、移動診療・在宅診療・酸素濃縮器の配付などの家庭でのケアをサポートするチームを稼働させるなどに加えて、ワクチン接種センターを運営して一日5,000人程度の接種を行っています。

 

 

また、パレスチナ自治区では、多くの感染者が自宅隔離となり、失業率が増加しています。パレスチナ赤新月社はONRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)と協力して、病院や隔離センターの運営、患者搬送、衛生キットの配布、こころのケア、手話を使った啓発活動などの幅広い支援を行っています。

 

 

2021年5月には、11日間に渡ってイスラエル・パレスチナ間の戦闘(1760人負傷、23人死亡:5月20日保健省報告)があり、一般住宅のみならず医療施設も半壊・崩壊したため、PCR検査も実施できなくなり、避難施設では感染爆発の恐れがありました。一時は、水・電気・医薬品などもなくなった状況でしたが、先行きは不透明ながらも、現在は隣国からのサポートなどで少しずつ回復しつつあります。

 

コロナ禍で人道支援を継続したり、紛争下・占領下地域でのコロナ対応は、情勢の不安定さや物資の不足などから、支援者自身の安全や命を守ることもままならない中で、それでもできる限りの手段を使って、一人でも多くの人を救うことを目指しています。

 

今後も、各国の赤十字社・赤新月社間で協力していくことは必須です。

しかし、コロナ禍では国境を超えた人的支援が難しいと実感しています。これからは、システムのオンライン化や技術供与をすすめるとともに、支援する側・受援する側を問わず、それぞれの関係者がお互いに学び合うことで、持続的に支援を行って、この困難をともに乗り越えていく必要があります。

 

このセミナーは、世界各地で行われている保健衛生に関する活動について、さまざまな講師を招き、年に1回開催しています。今後も継続して開催し、ご報告できればと考えています。

 

 

 日本赤十字社和歌山医療センター 国際医療救援部 

 

「和歌山から世界へ」では、様々な国際活動をレポートしていきます。出発式のほかにも、現地での活動、帰国報告会、国際人道法や語学・熱帯医学などの研修風景などをお届けします。乞うご期待!

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