がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

がんの先進医療② 先進医療から保険診療へ

2021/11/16

どのような医療が先進医療とされるのかは、前回に書きました。

 

今回は、年間の実施件数が多いものや、過去に先進医療だったけれど現在は保険診療に移行した治療について説明していきます。

 

 

「先進医療」実施件数ランキング

 

2021年7月現在、保険収載される可能性が高いとされる先進医療A(第3項先進医療)に24種類、先進医療B(第3項先進医療)に60種類が登録されています。具体的な技術名は厚生労働省のホームページでご確認いただけます。

 

前回も書いていますが、先進医療を受けた患者さんは2020年度5,459人でした。

 

 

年間実施件数で最も多いのは、陽子線治療(1,196件、1件当たりの費用は約271万円)。第2位が、MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立線針生検法 (1,114件、1件当たりの費用は約11万円)。第3位は、重粒子線治療 (703件、1件当たりの費用は約312万円)でした。

 

それでは、それぞれどんな治療なのか、ご紹介していきましょう。

 

 

放射線治療「粒子線治療」が先進医療対象に

 

第1位と3位にランクインした治療は、粒子線治療という新しいタイプの放射線治療です。粒子線治療には、陽子線を用いる陽子線治療と炭素線を用いる重粒子(炭素イオン)線治療があります。

 

放射線治療で用いられるX線は照射したときに体の表面近くに比べて、体の中心部に届くときほど放射線量が少なくなります。しかし、陽子線や炭素線は体の深部で線量を増加させ、がん病巣に高い放射線量を集中させられる特徴があります。

 

 

陽子線と重粒子線との違いですが、陽子線にはX線と比べて生物学的な優位性はありませんが、重粒子線には生物学的な利点があり、これまで放射線治療が効きにくいとされる放射線抵抗性がんにも有効ではないかと期待されています。

 

陽子線と重粒子線を用いる粒子線治療の方法を説明します。

通常の放射線治療では電子を加速して得られるX線を用いますが、粒子線治療は陽子や炭素核を加速させます。もちろん利用する機器も違います。

 

X線には重さが無いためコンパクトな機器での治療が可能ですが、陽子や炭素核を加速する必要があるため大型の加速器が必要です。陽子より炭素核ははるかに重いため、より大型の加速器が必要です。つまり、重粒子線治療の方がより高額な治療にならざるを得ません。

 

では、どうしてX線ではなく陽子線、炭素線を利用するのか?

 

陽子線、炭素線には一定の深さで放射線のピークが発生する(ブラッグピークといいます)特性があり、そのピークを腫瘍の深さ、形状に合わせれば、がんに選択的な放射線治療が実現できると考えられているからです。

 

しかし、現実的には、X線治療そのものが大きく進歩しており、粒子線治療の優位性が実際に示されているのは、ごく限られたがんです。それが、先進医療に留まっている理由でもあります。

 

 

前立腺がんの診断のための先進医療

 

次に、実施件数第2位の「MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立線針生検法」は、検診・診断に分類される技術で、全国26施設で実施されています(2021年7月現在)。当医療センターもその1つです。前立腺がんの確定診断に用いられます。

 

男性がんの罹患数1位である前立腺がんでは、診断の決め手である組織検査の精度が高くありませんでした。けれど、この診断技術を使うことで、診断精度が飛躍的に高まりました。

 

 

診断法として最も有用とされるMRI画像と、組織検査の場所を誘導する超音波画像を癒合することによって、がんが疑われる場所を特定でき、その部位を狙った生検が可能となったからです。前立腺がんの早期発見につながったり、がんの進行の程度を診断できるため、近い将来、保険診療への移行が期待されています。

 

1月にオープンした当医療センターのがんセンターでは、限局性の前立腺がんの患者さんには手術と放射線治療の選択肢があることを説明しています。

 

放射線治療の標準治療は、強度変調放射線治療(IMRT)です。強度変調放射線治療と粒子線治療のどちらが、より標準治療かと問われると、強度変調放射線治療と答えています。

 

最新のX線治療装置は、各種の画像装置を搭載し(治療ベッド上でCTも撮影できます)、放射線治療の精緻化を進めるとともに、治療計画を行うソフトウェアの進歩によって、がん局所にピンポイント照射が高精度にかつ高速に行えるようになりました。

 

粒子線はビームの特性が優れているものの、画像による確認機能、ソフトウエア開発が十分とは言い難く、総合的に判断して、現在のところ強度変調放射線治療(IMRT)に1日の長があるように思います。

 

しかし、粒子線治療が保険診療に認められたことは市民権を得たことを意味しているため、患者さんが治療成績や有害事象について納得した上で希望されれば、大阪あるいは神戸にある粒子線治療センターを紹介しています。

 

 

先進医療から保険適用へ

 

放射線治療の1つ「粒子線治療」が先進医療であると説明しましたが、陽子線治療は小児がんに、また、重粒子線治療は骨軟部腫瘍においてX線治療を超える有用性があると評価され、2016年に保険診療に移行しています。

 

2018年にはさらに適応が広がり、陽子線治療は頭頚部がんや前立腺がん、骨軟部腫瘍でも保険診療に移行し、また、重粒子線治療は頭頚部がん、前立腺がんが保険診療に移行しました。

 

先進医療の中でも、群を抜いて増えてきているのが前立腺がんの放射線治療です。局所に限局した前立腺がんに対して、手術と放射線治療は同等の治療成績であることが示され、いずれもが標準治療です。

 

肺がん、肝がん、膵がんなどへの粒子線治療は先進医療に留まり、現在も、保険診療に相応しいか評価されている状況です。

 

 

患者さんが選択肢をより多く持つための先進医療ですので、将来的には保険診療への移行(保険収載)を目指しています。今後も、先進医療で患者数が多く有用性が証明されたものに関しては、前述のように保険診療に移行していくはずです。

 

先進医療と聞いて、どんな治療か不安に思ったり、自己負担額を不安に感じられる方も、じっくり説明を聞いて検討されてもよいでしょう。

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年から現職。

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