少し知っておくと役に立つかもしれない、こころに関するおはなしです。目に見えないものであるけれど、わたしたちの心は日々ゆらぎ、動いています。そんなときに思い出してもらえたら、ちょっと楽になるかもしれない内容をお届けします。

今日はあなたが。明日は私が・・・

2021/05/07

 

少し前に、海外のネットでこんなエピソードが話題になりました。

 

あるアメリカ人が高速道路でパンクをして、大変困っていたそうです。すると、たまたま通りがかったメキシコからの労働者が、車を止めて助けてくれました。

 

彼にお礼を渡そうとしましたが、受け取らず、笑顔で「トゥデー ユー、トゥモロー ミー(今日はあなたが。明日は私が)」と答えたのだそうです。

 

“今回はあなたに不運が起きたが、それは自分にも起き得ることである”というその言葉には、不運な相手の中に自分を見出して手を伸べるありようが見られます。これを「共感」という言葉に置き換えることもできるでしょう。

 

ところで、以前、ある病院の療養病棟を訪ねたときに、高齢でほとんど反応がなくなった患者さんの枕元に、色紙が置かれているのを見かけました。

 

その中央には、患者さんの写真と誕生日と名前が書かれており、周囲に「コーヒーが好き」「犬を飼っていた」など、元気だったときの好みや習慣などが書き添えられていました。

 

口をぽっかりと開けたまま静かに眠っているお爺さんを見ながら「コーヒーが好きだったんですね。朝は案外トーストとコーヒー派だったのかな」と思いをめぐらせ、微笑ましい気持ちになりました。

 

ふと見ると、隣のベッドにも、また向かいのベッドにも、同じように色紙が飾られていました。

 

向かい側で、やはり口を開けて寝ているお婆さんのところには「おしゃれだった」と書かれています。それらは看護師さんたちが家族に聞いて作っているものでした。

 

その人らしさを伝える色紙ひとつで、患者さんと医療者という関係の中に、「人と人」という関係が生まれるから不思議です。

 

今、ケアを受けている人も、かつては子どもを育てたり、近所や地域の人の世話をしたり、介護を担ったりと、誰かをケアしてきた人であり、今、ケアしている人は、やがてケアされる人になっていきます。

 

まさに、「トゥデー ユー、トゥモロー ミー」だといえるでしょう。

 

相手の中に自分を見ながら、相手と共に自分も癒されるようなかかわりができると良いですね。

 

 

坂田 真穂(さかた まほ)

日本赤十字社和歌山医療センター公認心理師(非常勤)、2005年より職員のメンタルヘルス支援を担当。臨床心理士、シニア産業カウンセラー。

相愛大学准教授、専門は臨床心理学。教育学博士。主な著書に『ケア ー語りの場としての心理臨床ー』(福村出版, 2020)など。

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