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がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。
2021/06/15
ここまでは、がんを治すことを目標とするがん治療について述べてきました。
今回取り上げる緩和医療は、治療とは少し異なりますが、がん医療の大きな柱の1つです。緩和医療は、がんに伴う心や体の苦痛を和らげる専門的な医療で、「緩和ケア」と呼ばれることが多いですね。患者さんとご家族に寄り添う、癒しの医療です。
「積極的ながん治療を行なわなくなった患者さんへの医療」「がんの終末期に受ける医療」としての役割も大きいですが、がん患者さん全員に適応となる医療です。
緩和ケアは、がんと診断されたときから始まります。がんと診断されると、多くの人は精神的に落ち込みますし、診断を受けたときには、すでに痛みや息苦しさなどの症状がある場合もあります。
ご家族にとっては、患者さんを支えるために生活が一変して、つらさを感じられることもあるでしょう。緩和ケアは、そのような心身の症状に対応するため、がんと診断されたときから治療と並行して実施すべきものなのです。
チームの力で、すべてのがん患者に緩和ケアを
緩和ケアの強化は、国のがん対策計画の中でも、重点目標として挙げられています。
厚生労働省は、がん診療連携拠点病院において、がん診療に関係する医師全員の緩和ケア研修修了を目標に掲げています。がん対策基本法にも、患者さんの意向を十分に尊重したがん医療を提供しようと、理念が掲げられています。
ただ、患者さんに寄り添った医療を安心して受けていただくためには、治療を担当する医師だけでは成り立ちません。それを実現するために、がん医療は、さまざまな職種が連携しあって、治療や支援を進めるチーム医療が行われています。
緩和ケアは、そのチーム医療の代表といえます。チームに参加する専門職は、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士、ソーシャルワーカーなどです。チームメンバーの多くは専門あるいは認定資格を持っていて、各専門職による専門的なケアが行われています。
緩和ケアに対して当医療センターでは3つの対応をとっています。
第一は、緩和医療内科の外来診察です。がんセンターで毎日午後に緩和医療医による専門外来をオープンしています。
第二は、がん緩和サポートチームです。上記に示した多職種でチームを組み、入院中の患者さんに必要なケアを提供しています。
第三は、緩和ケア病棟です。これは、後ほど詳しくご説明します。
緩和ケアにおいての医師の役割
医師は、症状を緩和することが大きな役割です。中でも、さまざまな薬や方法で痛みを取り除くことが重要です。その方法には、薬物療法、放射線治療、神経ブロックがあります。
薬物療法では、しばしばモルヒネに代表される「医療用麻薬」が使われます。医療用麻薬は、がんの痛みにとても有効な薬です。使う量に上限は定められていないため、強くなる痛みに合わせて薬を増やすことができます。
麻薬中毒のイメージから医療用麻薬を敬遠され、痛みを我慢して過ごしている方も少なくないのですが、医療用麻薬は痛みがある状態で使用する場合は中毒にならないことがわかっています。
また、便秘、眠気などの有害事象(副作用)に対しても、さまざまな薬や対処法が開発され、十分に対応できます。安心していただきたいと思います。
放射線治療は、骨にがんが生じた時の痛みに極めて有効です。また、骨折の予防効果があります。通常、2週間かけて治療を行いますが、急ぐ場合には、1週間あるいは1日で終了する方法も駆使しています。
神経ブロックは、痛みの原因である神経、あるいはその近傍に麻酔薬などを注射して神経機能を低下させ痛みを軽減するものです。麻酔科医によって行われます。
がんは治療だけでなく、検診、救急、緩和、患者支援などを包括的に行うことで、いつでも安心して受けられるがん医療になります。
本当の意味で患者さんに寄り添うためには、治療だけでなく、今回取り上げた緩和ケアも大切なのです。
平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)
日本赤十字社和歌山医療センター名誉院長
1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年4月から2022年3月まで当医療センター院長。2021年1月から、がんセンターで放射線治療(週1回外来診察あり)を担当。