がん放射線治療の第一人者であり、高度医療に取り組んできた平岡院長が、がんについてわかりやすく解説します。ティーカップを片手にお気軽にお読みください。

薬物療法③ 抗がん剤治療(分子標的治療)

2021/04/20

がん治療の中の1つである薬物療法。その治療で使われる抗がん剤の治療方法、効果、有害事象などをご説明していきます。

 

今回は、抗がん剤治療の概要と、抗がん剤の中でも、最近、役割が高まっている分子標的薬について取り上げます。

 

 

薬剤を用いた治療・・・抗がん剤治療

抗がん剤治療は、細胞を障害する抗がん薬による治療です。化学療法と呼ばれることもあります。

 

既に、どんな治療かご存知の方も多いのではないでしょうか?

 

というのも、抗がん剤治療は薬物療法の中で最も古い歴史を持ちます。

現在も広く使用されている抗がん剤の原型となる薬剤が開発されたのは、1940年代。2020年代の現在から数えると、80年ほど前のことです。昭和の時代、なんと戦前から抗がん剤治療は行われているんですね。

 

治療に用いられる抗がん剤は、がんの種類や進行度(病期)、治療歴などによって種類が異なります。効果を高めたり、相乗効果を求めたりするため、1つの抗がん剤ではなく複数の薬剤を用いる「多剤併用療法」が行われることも少なくありません。異なる作用を持つ薬を使うことで、がん細胞の発生を減らすことができます。

 

このように古い歴史を持ち、広く治療に使われてきた抗がん剤ですが、有害事象とよばれる症状が大きい傾向があります。それは、がん細胞に対する殺傷能力に優れる一方で、正常な細胞にも影響が及びやすいからです。具体的には、腸や皮膚、毛根、骨髄など、増殖が盛んな正常細胞に影響が出やすいです。これらの影響によって、患者さんには吐き気・嘔吐、下痢、脱毛、骨髄抑制などの有害事象が起こります。

 

 

これまでは、薬剤によって引き起こされる症状を副作用と言ってきましたが、最近は、特定の薬剤による因果関係が証明されている・いないに関わらず、患者さんにとって有害な症状を総称して有害事象と言います。副反応と言われることもあります。

 

薬物療法や抗がん剤治療と聞くと、効果に期待しつつも、これらの有害事象が心配という声もよく聞きます。有害事象の出現は、患者さんにとって大きな負担です。その弱点を克服するために、がん細胞への選択性が高い薬剤、つまり、がん細胞にだけ効く薬剤の開発が今も継続して進められています。

 

 

薬剤を用いた治療・・・分子標的治療

2000年代に登場したのが、分子標的薬です。

分子標的薬は、がん細胞の増殖・転移・浸潤に関わる分子だけを標的とし、がん細胞の異常な分裂や増殖といった特定の活動を抑えることを目的に開発されました。

 

 

この薬の誕生は、薬物療法にとって新しい一歩となりました。なぜなら、抗がん剤で問題となっていた有害事象の出現が少ない薬だったからです。がん細胞の特定の分子だけを狙い撃ちにして攻撃できるため、正常な細胞へのダメージが少なく、従来の抗がん剤と比べると体への負担も少ない面があります。

 

ただ、現在では、一般的な抗がん剤とは違った肺炎、皮膚炎などの有害事象の存在がわかってきていて、時として重症化することがあります。

 

それぞれの薬によって特有の症状もあるため、それらの有害事象に気をつけながら治療を進めることが大切です。有害事象が強ければ、他の薬剤に変更することも必要です。

 

最初に開発された分子標的薬は、HER2たんぱくを標的とした乳がん治療薬であるトラスツズマブという薬剤でした。それに続いたのが、慢性骨髄性白血病に存在するフィラデルフィア染色体の遺伝子産物BCRABLを標的としたイマチニブという薬剤です。どちらも極めて有効な治療薬になっています。また、2002年に世界に先駆けて日本で承認されたゲフィチニブは肺がんに対して高い有効性が示されました。

 

 

分子標的薬の大きなメリットは、手術や生検で切除した組織を用いて遺伝子変異や特定タンパクの発現を調べることにより、薬剤の有効性が予測できることです。もし、効果が少ないとわかったとしても気を落とすことはありません。それによって別の治療法を選択するという次の段階に進むことができます。効果が出るか出ないか見極めるために、次々と薬剤を試さずに済むので、患者さんの負担が少なくなるのは間違いありません。

 

次の記事が薬物療法の最後となります。

 

薬物療法の最近の治療法をあと2つ、ご紹介します。

 

 

 

平岡 眞寛(ひらおか まさひろ)

日本赤十字社和歌山医療センター院長

1995年43才で京都大学 放射線医学講座・腫瘍放射線科学(現:放射線医学講座 放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授就任、京都大学初代がんセンター長。日本放射線腫瘍学会理事長、アジア放射線腫瘍学会連合理事長、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員などを歴任したがん放射線治療の第一人者。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を開発し、経済産業大臣賞、文部科学大臣賞、JCA-CHAAO賞等を受賞。2016年から現職。

詳しくはこちら

日赤和歌山医療センターHP

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